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その果実は禁断なり  作者: 巫 夏希
第二章
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第二十一話 和解と目的

「……知恵の木を、破壊する?」


 ロマは、驚いているようにも呆れているようにも、どちらとも取れるような表情を浮かべて言った。


「何を馬鹿なことを——そう思っているのでしょう?」


 メアリーは、そんなロマの反応さえも分かりきっていたかのように、そう言った。

 ロマは、話を続ける。


「当たり前でしょう。この世界において、知恵の木は始まりの存在である。これは、全人類に染みついている話だと聞いているのよ。そして、その知恵の木とガラムドが重なることで——この世界の神話が成り立っている、とも。つまり、あなたは——この世界の神話を破壊しようとしているということよ。それって」

「神を冒涜することに繋がる——とでも?」

「……そうよ、それって人間にとっては非常に困る話なんじゃ」

「メタモルフォーズは、人間から作られた存在であるはずでしょう?」


 メアリーの言葉に、ロマは口を噤む。


「……ということは、神から作り出された存在ではないはずよ。そんな存在が、神話をどうこう言うのは流石に、ねえ?」

「メアリー・ホープキン。あなた、数百年も生きているうちに、思考がどんどん偏ってきているのではなくて? そう……、母親と同じように」


 ロマはメアリーにそう言った。

 彼女を小馬鹿にするような、そんな言い回しであった。


「……歳をとるのも、嫌なものよね。確かに。祈祷師の一族は人間の寿命と比べてはるかに長いことぐらいは分かっていたけれど、まさかここまで長生きするとは思いもしなかった……。多くの人々が亡くなって、多くの人々と出会っていく。ある意味では、これは私に課せられた罰なのかもしれない」

「罰?」


 ロマは冷笑する。


「そんなものを負っている自覚があったの? あなたには」

「……あったよ。ずっと、ずっと昔から…‥。フルが居なくなって、ルーシーが死んで……。あの英雄譚を知っているのも少なくなっていって、確かに世界は平和になったけれど、それでも問題は山積していて、どうすれば良いのか分からなくなる時だってある」

「……だから?」


 ロマの言葉にメアリーは首を傾げる。


「あたしと戦っている時のメアリー・ホープキンはそんな人間じゃなかったはずでしょう。何をしょぼくれているんだか。何だか、あたしだってやる気が削がれてしまった気分よ……」


 ロマは深い溜息を吐き、手を差し出す。


「‥…何を?」

「あんたが言っている、知恵の木の崩壊とやら。ちょっとばかし気になったから、手伝ってあげる。暇だからね、この体だと人間の寿命よりは長く生き続けることになるのだし」

「良いの?」

「良いって、言っているでしょう? それとも心変わりするのをチンタラ待つつもり?」

「いやいや、そんなつもりは……」


 そう言って、メアリーはロマの右手を握り——強く握手を交わすのだった。



◇◇◇



 シグナルのアジトに三人がやってきたのは、それから直ぐのことだった。


「まさか、メタモルフォーズと一緒に帰ってくるとは……。本当に、いつも驚かされますね、全くあなたという方は」


 ライラは溜息を吐きつつも、幾度か頷いてそう言った。


「さて、役者は揃った。……これからどうする? レーデッド」


 レーデッドは、すでに決まっていた。

 これから何処へ向かい、何をするべきであるかを。


「メタモルフォーズが作られた地、シュラス錬金術研究所へ向かいたいと思っているんだが」

「……シュラス錬金術研究所、か。でも、あそこにはもう何も残っちゃいないよ? 私たちが足を踏み入れたときに、殆どの施設が崩落してしまっているし。それに、リュージュが死んでからはあそこは誰も管理していないからね。一応、研究途中だったメタモルフォーズは全て殺されたはずであるのは、間違いないけれど」

「あのメタモルフォーズが何者であるのか、先ずはそれを知りたい」


 レーデッドの言葉に、メアリーは頷く。


「言いたいことは分かるけれど……。でも、何もきっかけがない以上、そう言い切ることは」

「メタモルフォーズを探しているの?」


 ロマは、メアリーの言葉に割り込むようにそう言った。


「ええ……。でも、メタモルフォーズはもう消滅しているはずでしょう? だから、そこに行ったところで——」

「……そうとも言い切れない、としたら?」


 えっ? と言ってメアリーとレーデッドはお互いを見合った。


「あたしも噂を聞いただけだから、実際にそうであるとは分からないのだけれど……。メタモルフォーズや旧時代の科学技術を再興しようと企んでいる組織が居る、って話を聞いたことがある。もしかしたらシグナルがそうなのかな、って思っていたけれど……。実際は違ったようね」

「まあ、あの頃の組織の名前を借りているだけに過ぎないからね……。それに、あの時代のシグナルを知っているのは、もはや殆ど残っていないし」


 メアリーはそこまで言ったところで、


「ちょっと待って。今、何て言った? メタモルフォーズを復活させようとしている組織が存在している——ですって? 流石に聞いたことがないわよ、それ。ねえ、ライラ?」

「まあ、確かに……。ただ、我々も既にあの施設のことはノーマークでしたから、もしかしたらその後に何かしら変化が起きていた、と言っても否定は出来ませんね」


 ライラの言葉に、メアリーは深く溜息を吐く。


「それを調べ上げるのがあなたの仕事でしょう……、と言いたいところだけれど、まあ、仕方ないわね。どうする? シュラス錬金術研究所ならば、ここからそう遠くない場所にあるし……。先ずはそこに向かってみるのも、一つの手かもしれないけれど」


 メアリーが言ったその言葉も、レーデッドにとっては彼の意見の後押しとなった。

 結果として、彼らの次の目的地は決定した。

 目的地は、かつてメタモルフォーズに関する非人道的な研究が繰り広げられた、禁断の研究施設——シュラス錬金術研究所だ。



◇◇◇



「メアリー・ホープキンは、知恵の木を破壊しようとしているのか」


 男の問いに、オール・アイはゆっくりと微笑みながら頷いた。


「彼女は、世界を変えようとしている。変えることなど、出来やしないのに……」

「ならば止めれば良いではないか」

「それじゃあ、ツマラナイでしょう? 確かに『我々』は干渉することが出来る。どんな世界の理をも凌駕することが出来るのだから……。けれど、それを簡単に実行してしまったら、せっかくの遊戯が面白くなくなってしまう。永遠にこの世界を監視し続けるのだから、少しぐらい楽しみがないと、ねえ?」


 オール・アイの言葉を聞いて、男は球体のようなベッドに横たわる。

 そして、全てを総括するように——たった一言だけ呟いた。





「——まあ、それも一興か」






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