眼鏡のアイドルがいたっていいじゃないか!
高取和生さま主催「眼鏡ラブ企画」参加作品――
都内ヴィベックス本社のスタジオ。
元歌ウ蟲ケラの山田美桜ことミオタニアンは音源製作をしていた。
歌ウ蟲ケラを解散して、LUST BULLETSが主催するレーベルに残留するつもりだったが、ヴィベックス役員に昇格した歌ウ蟲ケラ元マネージャーの諸伏の誘いに応じる形で再入社を果たす。それからは専らアイドルへの楽曲提供やプロデュースを稼業にしていた。
「ふぅ~ここまででいいか。ジョニー、飲み物を買ってくれる?」
「了解です」
「なんかマフィアのボスみたいだな」
「うるせぇ。私がボスならアンタはその組織のチンピラだぞ?」
美桜と一緒に作業するのはハンソックこと長野反徒だ。彼は歌ウ蟲ケラがヴィベックスに入社した同時期に入社したラッパーだ。彼も音源製作に携わることがあり、ジャンルこそ違うが、お互いに楽曲提供などし合う中で親睦を深めた。
1分もしないうちにマネージャーのジョニーが帰ってくる。
ヴィベックス社長の華崎鮎美を連れて。
「社長!?」
「お仕事中ごめんなさいね。このたびは新たなアーティストさんを加盟させようと思って」
「はぁ」
「そのコのプロデュースを美桜さん、あなたに任せたいのよ」
「えっと、どういう感じのヤツです? ソロ? 何人のグループ?」
「ソロよ。いま巷で話題沸騰なアイドルのコ」
「え? じゃあ私、知っていると思うけどな」
「メガネアイってコよ」
「は?」
「知らない?」
「知らないです。メ文字も耳にした事がないですね」
「そう? こないだバズったって私は聞いたけど?」
「47全都道府県、マイナーなアイドルというアイドルすらも把握し尽くしてユーチューブで語り尽くしている私に知らないアイドルなんていない筈ですが?」
「でも、加盟はもう決定しているから、今度会ってよ」
「えぇ~全然怪しいじゃないですか!? どこの馬の骨だか分からない奴をよく誘う気になりましたね!?」
「あの、いいですかぁ!?」
「はい?」
「俺をこのコマに入れる必要ある!?」
そんなこんなでヴィベックスとの契約後にメガネアイと面会する事となった。
「だから何で俺も!? ミオタの仕事では!?」
「社長からモブ扱いされているからじゃない?」
「俺は俺で俺のアーティスト活動をしているの! 俺が主人公の作品もありますよ! 本作をお読みの皆さん『HUN:SOCK』のご一読よろしく!」
「ウッザ。何コイツ」
そこでマネージャーの与作が「入室お願いします」と美桜に声をかけた。
ドアを開けた美桜は目を丸くして驚く。
「保志野アイ!?」
彼女は「推しの子48」でセンターメンバーを務める大人気アイドルであった。しかし事務所と“なんらかのトラブル”があって、卒業を待たずに引退をしたのだと週刊誌やワイドショーが報じたばかりのアイドルだ。
「あ、メガネアイです! 宜しくお願いします!」
「いや~メガネアイって聞いた事がないけどなぁ。お前ある?」
「いや、俺にお前かよ。お前。勿論聞いたことないよ。アイって言うと保志野だよ」
「アハハ。私は個人的に思う事があって前事務所を退所しました」
「何を思ったの?」
「私、眼鏡が超チャームポイントのアイドルっていてもいいと思うのです!」
「はい?」
「だから眼鏡超チャームポイントのアイドルっていてもいいと思うのです!」
「綺麗に韻を踏んだな。センスあるぞ?」
「そういう話じゃないでしょ。それで何で大手事務所を辞めたの?」
「私が今後の活動方針を眼鏡のアイドルとして徹底していきたいと話したらダメ出しをくらってしまって……」
「それでやめるって大したモンだなぁ」
「それで退所してスグに本社に入社志望をだしたところ『ウチにも眼鏡アイドルのカリスマがいるよ』って華崎社長が快諾をしてくれて!」
「ウヘヘ~照れるなぁ~」
「いや、お前はアイドルとちゃうやろ。君、それは君という素材だから社長も快諾してくれたのでは?」
「私は眼鏡を掛けた私の愛を貫きたいのです!!!」
「えっ!? 何よ!? 急に!?」
「フッ、その気があるならば、いいだろう? 眼鏡人気タレントランキング第3位の私が力を貸してやらんでもない……」
「急にもっと何!? コイツは!?」
「何でもします!! おねぇさま!!」
「あの? 2人とも正気ですか?」
「メガネを外しなさい」
「はい」
「まんまテレビでみる保志野アイ! 可愛いなぁ!」
「そっとこっちへ……私に抱かせなさい」
美桜もバッとカッコよく眼鏡を外してみせた。
「いや! いらんから! そういうナレーションは! そもそもコレ何なのよ!?」
ゆっくりとアイが美桜に寄っていく。
「あの……優しくお願いします……」
「任せなさい」
そして2人は1つになった?
「何でクエッションマーク!?」
かくして大人気アイドル保志野アイは「メガネアイ」と改名し直して、ヴィベックスにて再び歌手デビューを果たす。
元々そんなに歌が上手くない彼女を配慮してかラップ調の歌を美桜が手掛け、更にそのサポートをハンソックがしたという。
とにかくヴィベックスからの支援は手厚かった。
人気ドラマ「わがままなザッハトルテ」の主演を後押しし、さらにその主題歌の「弱虫栗ケーキ」の大ヒットまでお膳立てした。全て彼女の眼鏡キャラを尊重して。しかしてその時はやってきた――
「遂に決別の時がきたわね」
「ええ。誠に遺憾でしたよ」
「急に場面変わってココ何処!? どこの砂漠よ!?」
「眼鏡キャラは2人もいらないなんて、よくも私の前で言った」
「本音です。おねぇ様。私は赤渕眼鏡をトレードマークにしていたいと言い続けたのに、黒縁こそ私好み。黒縁にしなさいとか変な事をほざきやがって」
「いや、最初から君が相手にしなければいい話でしょ」
「貴女がどうしてもって言うのならばイイわ。今日限りで眼鏡キャラを貴女の為にやめてあげる!」
「よ! 大人の対応! 最初からそうしろ!」
「そうですか。じゃあ」
「それでも。私から眼鏡キャラを奪おうっていうのならば、あの桜の木の下までかけっこして私に勝ちなさい」
「いや、お前に勝ち目ないだろう」
「うけてたつわ! おねぇさま!」
眼鏡キャラを懸けた世紀のかけっこ対決が始まる。
アイは勢いよく走りだすも途端に砂嵐が吹きすさぶ。
美桜はゆっくりと歩く。砂嵐にも全く動じず。アイを嘲笑うかのように。
「くっ、メガネが砂にまみれて前がみえない!! でもコレは外したくない!!!」
眼鏡の愛に溢れているアイは落ちそうな眼鏡を片手で抑えながら、前へ前へとなんとかその足を進めた。
砂嵐が収まる。顔をあげるとその桜の木の下に眼鏡のレンズが砂でビッシリになった美桜が仁王立ちをする。横にはモブのラッパーもちゃっかし立つ。
「だから! 何で俺がそういう役回り!?」
アイは負けを悟った。そう、これは急がず焦らず眼鏡で前が見えなくなっても、メガネキャラを貫き通す戦いだったのだ。
「負けた! くやじいっ!!」
アイはその場で泣き崩れる。
「いや、ホント、何をやっているのよ? この番組は。いやこの作品は」
アイが顔をあげると目の前に美桜がいた。
「立ち上がりなさい。私の勝ちである以上は私の言うとおり明日から少なくとも1年間は黒縁メガネにしなさい。でも、だけど、貴女の眼鏡に対しての迸る愛は確かに受けとったわ。明日から貴女は『メガネアイ』から『メガネ愛』になるの。いい?」
「もはや芸名かよ」
「わかったわ。おねぇさま。眼鏡愛にあふれたタレントとしてもっと強くなる!」
「ふふ。これからが楽しみね」
こうして唯一無二の超眼鏡アイドル、メガネ愛は爆誕した――
「いや! コレさ! この作品に俺がでてくる意味ってある!?」
イチイチうるせぇなパッキン野郎。
「ナレーション、ときどき変に弄ってくるな!」
「おい、ハンモック。じゃなかったハンソック」
「何だよ?」
「もうスタジオに誰もいないから帰るぞ?」
「いや、だから、俺、何の説明も聞いてないのに此処にいるのだけど!?」
「もうこの作品は終わるからさ。お前がメインじゃないからさ」
「納得できねぇよ!! 何なの!? これ!?」
「はい。ここでメガネアイ改め、メガネ愛の新曲を皆様どうぞ」
『メガネに恋して Feat.HUN:SOCK』
「俺も眼鏡をかけているし~」
「ありがとうございました!」
∀・)読了ありがとうございます(笑)ふざけましたわ(笑)でもどうだろう。眼鏡キャラである事を徹底したアイドルっていなくないと思いませんか?それで「いてもいいんじゃない?」という発想からこの作品が生まれたとかそうでないとか(笑)ちょっとでも楽しんで貰えたら嬉しいです。「眼鏡ラブ企画」ではもっとも眼鏡愛を極めた作品になったかもです。同企画では『わがままなザッハトルテ』も応募をしております。また本作と関連した作品『歌ウ蟲ケラ』も連載中です。宜しければ是非☆☆☆彡