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王太女編:2 見えない思惑



 ――正直意味がわからなかったが、結果的に俺はシャルロットの言い分を飲み込み、渋々その要求を受け入れることにした。


 聖女に選ばれたのに魔力調整ができない。そんなことを無理に発表してみろ、シャルロットの経歴に瑕がつく。破滅フラグだ。あとシャルロットが傷つくのは俺も嫌だ。


また、王族から聖女を出したいという名目で、シャルロットを養女にするという無理を通したのだ。これで王族ではなく他の一族の令嬢に聖女をやらせたら宰相に面目が立たないし、偽りの聖女に仕立て上げられたその令嬢が不憫すぎる。これも不可能だ。


 ――だとすれば、俺が偽りの聖女を引き受けるのが最も誰にも迷惑をかけないし、「シャルロットの地位を奪った」というあらゆる方面で破滅フラグ的なリスクがあったとしても、少なくとも「シャルロットから言い出したこと」という言い訳が立つ。

 そもそも偽物として名乗りを上げるバカなんて前例がないので、俺が名乗りを上げても疑うやつがいるわけがないのだ。だって聖女本人の協力がないと嘘がバレるんだから。


 ――無論シャルロットの主張は本当かどうか疑わしいし、怪しい。


だって、それまでは、シャルロットは魔術でも学問でも、この上なく優秀だったのだ。魔力制御の精度こそ俺が上だったものの、術の威力・規模にあたっては、俺では足元にも及ばなかった。

 しかし怪しいといっても、シャルロットが「突然魔力の調整ができなくなった」と主張してまで、聖女を拒む理由がない。


 だから、疑わしいと思っても、納得するしかなかったのだ。



(本当に、この子は何を考えてるんだろう……)


 ――シャルロットは最近、すっかり感情が読みにくくなってしまった。


 子供のころはあんなに可愛く懐いてくれていたのに、最近は全てを完璧な微笑に押し隠し、内心がわかりにくい。

 反抗期なんだろうか。うざったく構ったのが悪かったのだろうか。シャルロットに嫌われるなんて辛すぎる。

 純粋に守ってあげるとは思えなくなっていても、結局俺はこの九年で、すっかりシスコンになっていた。




「じゃあ、シャルロット。魔力の譲渡方法のことだけは……あれ以外に、しない?」


 言いながら、顔が熱くなってくる。


 ――そう、あの、魔力を渡すための……キッスだ。

 俺はシャルロットから奉納のための魔力を供給してもらうとき、口移しされているのだ、それに困っている。


 前世で恋人がいなかった俺には、本来なら美少女からのキスなんて至福以外の何物でもないんだが――魔力譲渡にキスって必要だったっけ? と疑い出すと、俺の置かれた状況がアレなのもあいまってものすごく怖いのである。


「……お嫌なのですか?」

「え、あ、いや、そういうわけではないのよ? ただ、魔力譲渡に必要なのは肉体的な接触でしょう? それならただ手を繋ぐとかで十分のはず……」


 そう言うと、シャルロットはいつものように、完璧な淑女の微笑を浮かべた。


「……確かに手を繋ぐだけでも譲渡は可能ですが、唇から直接流し込んでしまう方が、圧倒的に時間がかからないのです。お義姉様がどうしても……とおっしゃるならやめますが、そうでないのならどうかご理解くださいませ」

「そ、そうなの……わかったわ……」


 わからない。シャルロットが何を考えているのかわからない。

 口移しが効率的っていうけど、シャルロットは恥ずかしかったりしないのかな。

 

 いやもしかして、女同士なんだし、神事に必要なことなんだから、意識する方が破廉恥なのか? 俺は百合も嗜んでいたが、あくまで創作は創作。現実の女の子の気持ちなんてわからない。


(考えたくないけど、必要ないのに無理矢理唇を奪われてました! 許せません! お義姉様は変態です! って誰かに後から言うつもりでいるとか……?)


 嫌すぎる。可愛い義妹が自分を陥れる準備をしている想像、嫌すぎる。

しかし、俺はゲスイン的悪役王女だ。何が起こっても不思議じゃない。


(何せ、助けたいと思っていた兄王子は俺のせいで死んだし、絶対に回避したいと思っていた聖女偽称も回避できなかったわけだしな……)


やることなすこと悪手になるのだから、俺はもはや俺を信じられない。


(それに……俺のヨコシマな視線に気づいて、嫌ってるのかもだし……)


 だってしょうがないじゃんか。美少女とひとつ屋根の下なんだぞ。

 妹っていったって血は繋がってないし距離は近いし(最近は若干距離を取られてるけど……やっぱり気づいてるのかも……)、しかもとびきりの美少女なんだぞ。子供の頃ならともかく年ごろになってきたら、多少は下心のある目で見ちゃうだろ!


(恋愛感情はないし、妹という感覚の方が強くはあるんだけどなあ)


 何せ俺はアイ×シャル過激派強火担である。俺×シャルなんて絶対許せな……いやディア×シャル……は……ありかも……でも中身が俺だからやっぱり駄目です。


 ――俺はちら、とシャルロットを窺い見る。

 春の女神が顕現したかのような可憐な美貌は、十八歳の今がまさに花盛り。ただそこに佇むだけで、光り輝かんばかりだ。


 魔力が調整できなくなったというのが真実だとしたら、いくら自分から聖女の役目を俺に渡しているからといって、シャルロットがそれを歯がゆく思っていないわけがない。

 シャルロットは優しく、正義感が強い。

 本当は、自分で国を救いたいと思っているはずだ。


(ごめんな……)


 なあ、シャルロット。お前が知ってるかはわからないけど、俺はお前を利用してるんだ。


 俺はお前が大切だけど、それでも。

 俺がお前に誠実な姉であったことなんて、本当は一度もないんだよ――。


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