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女王編:55 引き金は

 *




 城に戻ってすぐに軍法裁判が行われることになったのだが、問題が一つあった。

 騎士団長はいたが、軍部の実質的な頭である軍務大臣がまだ帰還していないことである。


 軍の統帥権は俺にあるので、法律的には裁判を行うに問題はないのだが、さすがにアルベルティ侯の意志を無視して裁判を行うのも気が引ける。実際、残った禁軍や騎士団にも、延長すべきだという意見が強かった。


 また、軍部次席(俺を入れれば三席ということになるが)である王立騎士団長グランツ侯も、戦いの中で脇腹を負傷して、治療中だ。この二人を差し置いて裁判はさすがに執り行うことはできないということで、しばらく延期することになった。


 しかし無期限延期はできない。時間を延ばせば延ばすほど、捕えた主犯格が自害する機会を増やしてしまうからだ。


 ――そのため俺は、シャルロットとともに騎士団長の邸を訪れ、見舞いの名目で期日の相談をしにいくことにしたのである。



「連絡がつかなくなった……アルベルティ侯とですか?」

「はい。つい先程私に届いた報告ですが。交戦中で余裕がないのか、大臣の身に何かがあったのか、判断がつかない状況です。この五日間で王都に戻ってきた伝令も少ないようで……状況は判然といたしません」


 騎士団長の見舞いに行けば、未だ大事をとって床にいる彼から出てきたのはそんな言葉。こちらも帰ってきたばかり、あちらも余裕がある状況ではなく、情報が混乱しているのだという。


「国外……さすがに遠視の魔術が届く距離ではありませんね」


 シャルロットが呟く。そりゃそうだ。届いたら本物の千里眼である。


「通信の魔術に応答もないのですか?」

「はい。通信のための魔力は届いているはずなのですが……」

「そうですか……」


 本当に危ない状態なのか、それとも、もう手遅れになってしまっているのか。

 派遣した軍ごと壊滅? ――まさか。かなりの数だぞ。

 何にせよ、伝令が帰ってきてくれないと状況がわからない。


「……軍法裁判を執り行うのは、現状なかなか難しいようですね」

「私がこのような状態でなければ。申し訳ない」

「とんでもない。よく療養して、全快して戻ってきてください」

「恐れ入ります、陛下。しかし……捕まった彼らは、まだ何も話さないのですか?」


 ええ、と頷く。


 ダンネベルク公は討ったので、今主犯格として捕縛されているのは、財務大臣ロゼー侯爵と外務大臣リストルーヴ侯爵だ。また彼らに続く戦犯として、主犯格の一族や傘下の貴族、そしてエクラドゥール公爵派の貴族の一部。


 ロゼー侯の息子とその伯父は女王軍の窮地を救った功があるので連座どころか罪を免除される可能性すらあるだろうが、謀反は国家反逆罪に当たるので、主犯格は本人の二親等まで連座で処刑されることになる。


 もう、末路は決まっている――という言い方は酷薄かもしれないが――のに、何故口を割らないのだろう。それほどまでに、隣国と繋がっているのを認めたくないのか。


「結局、彼らの言う真の聖女とやらも、擁立する王も――その存在の有無すらわからないままですね」

「あの様子では、尋問しても口を割らないでしょう」


 尋問やら拷問のための器具や魔術はあるが、それを使えば話すだろうか?

 必要となれば命令を出さなければならないのだが、それも気が進まない。話を聞いてどうするんだ、と、何故かそう考えてしまう。


 どうも、嫌な予感が拭えないままだ。

 もう、戦いは終わったというのに。


「こちらも早急に人を送って何が起きているのか確認します」

「お願いするわ」


 頭を下げて、そのままお暇する。

 騎士団長の奥方とそのご子息に見送られながら邸を後にし、王城に戻る。


「一体、何が起きているのでしょう……。いっそ瞬間移動で確認してまいりますか? 魔力を辿れば可能かと思います」

「いくらなんでも国外まで探知の魔術を使えば、あなたといえどもオーバーヒートしてしまうでしょう。やめておきなさい」


 王宮内廷を二人で歩きながら、俺は騎士団長とした話を反芻する。


 消息不明となったアルベルティ侯。

 いまだわからない反乱の意図。

 誰もそれが何かわからない黒い呪印。

 ノヴァ=ゼムリヤがリェミーを攻めてきた理由。


「一連の全ては……あの、修道院放火から始まっている」


 エウラリア・エクラドゥールの死。

 それが『何か』の引き金を引いたのか?



「――いいえ? もっともっと前から、考えていたことですわ」


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