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女王編:53 絶望

 挑発し、向こうに魔術を撃たせる。


 そして全部俺が吸収、跳ね返して兵の数を削る。敵が動揺したところを歩兵と騎馬で崩す。

 これを続ければ、今日を生き残る目が見えてくる!


 ――だが。

 


「攻撃魔術を撃つな! 何やら女王は妙な術を使う! 無策で魔術を放てばあの魔女の思う壷であるぞ!」


 

 そう上手くはいかないらしい。

 一際豪華な鎧を纏った男が馬上から声を張り上げ、俺の挑発をかき消してしまった。


(あれは……ロゼー侯か)


 文官だと思っていたが戦場にも出てくるのか。

 ギロッと遠くから睨まれ、は、と笑った。……そうだよな、あんたは俺が嫌いなんだった。何せ息子の名誉に傷をつけた女なわけだしな。


「無謀にも突撃を仕掛けてきた魔女の犬どもに、矢をたらふく食らわせてやれ!」

「くっ……!」


 結界を展開しようとして、魔力が足りないことに気づく。……そうだ、敵の魔術を跳ね返していたことで自分も回復している気がしていたが、本来俺の魔力はほとんど尽きかけているのだ。


 魔術で防ぐことを諦めて、矢を切り飛ばしてなんとか身を守る。……本当に剣を訓練しておいてよかったし、生まれつき性能のいい動体視力()に感謝だ。


「死ね魔女め!」

「陛下!」


 乱戦の最中、横から飛び出してきた騎兵の剣を、なんとか剣で受ける。

 そこで、鍔迫り合いになって気づいた――こいつ、首筋にあの黒い呪印がある!


「くぅっ」


 凄まじい力で押されるも、全力でもって弾き返し、据わった目でこちらを睨みつけてくる男に馬の鼻を向ける。距離を取り、息を整える。


(他のやつらは、さすがに女王を直接手にかけるのを、躊躇って、剣で斬ろうとまではしてこないのに……)


 やはり呪印のせいか。


 今まで出てこなかったのは、戦いの真っ最中に呪印をつけられたからか? ということは、この中にあの黒い呪印をつけられる者が紛れ込んでいるのでは?


 しかし長く考える余裕を、敵は与えてくれない。


「よそ見をしている場合か魔女め! ――よくも罪なきエウラリアお嬢様を殺したな!」

「ッ……あなた、元エクラドゥール派の者ね……!」


 この様子じゃあ俺の仕業じゃない、と言っても聞かないよな。

 猛攻を受け流しながらなんとか思考を続ける。


 ……力だけでなく憎しみも増幅させられているのか? シャルロットを襲った奴も、アンベールの娘たちの婿たちだって言うし……そうだったらあの呪印、ますます闇の力臭いな。


 呪印をつけた者を探せないか? 

 そいつを見つけられれば、この反乱の目的を聞き出すことも可能になるはずだ。


(いや。

 だめだ、そんな奴探してる余裕なんてない)


 攻撃魔術を跳ね返すことが出来る――その強みをすぐさま封じられて、最初の勢いも削がれてしまっている。


(まずい……もたないぞ……)


 ところどころで悲鳴が聞こえる。

 槍に、剣に、矢に貫かれて人が死んでいく

 つい数秒前まであったはずの万能感が薄れていき、焦りが喉をせり上がっていく。


(くそっ……早く……! 早く帰ってきてくれ……アルベルティ侯……)


 このままじゃもうもたない。

 多く削ってはいても倍近い戦力が、こちらをすり潰そうとしてくる。日が沈むまで、もたない!


(早く……っ)



「――陛下っ、何か……聞こえませんか」



 その時、すぐそばにいた護衛の声がした。思わず、顔を上げる。


 ――何か聞こえる?


 耳のすぐ横を横切った敵の剣の切っ先から距離を取って、耳を澄ませる。


(確かに……聞こえる……)


 これは、馬のいななき?


 しかも近くからではない。遠くから……敵陣のさらに向こう側から、馬の蹄の音が、乱戦場(こちら)に近づいてきている?



「援軍だァーッッ!」



 ――不意に、敵が叫んだ。「ロゼー侯傘下の領地から援軍が来てくれたぞ! その数――三千!」


「……そんな」


 まさか、この状況下で敵に援軍? 三千も?

 冗談じゃない。そんなの、もう。


「……終わりだ」


 誰かが言う。



「もう終わりだ……!」



「……ッ」


 ああ。


 ――馬の蹄の音が近づいてきている。

 俺は肩で息をしながら、ただ呆然と土煙を立てて迫る騎馬の軍勢を眺めているしかなかった。


 最後まで抗えと頭が言う。

 たがもう無理だと心が答えた。


(俺じゃ……やっぱり……)


 馬が迫る。絶望と失望に俯いた。

 ごめん、兄さん。キャロルナ公。シャルロット。アインハード。

 約束したけど、やっぱり俺じゃ無理だったのかもしれない。

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