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女王編:45 シャルロットに迫る危機

 有利な陣形が崩された。

 いくら地形で多少は有利になるからといっても、数で劣っている女王軍は、正面衝突の状態が続けば確実に負ける。


 このままだと兵の士気も下がる一方だろう。逃亡兵も出始めるかもしれない。

 そうなればいよいよ危うい。


「まさか敵がこんなに乱暴な手段を取ってくるなんて……わたしの見通しが甘かった」


 だから今日、敵は緊張していたのか。

 味方を犠牲にする戦術を取ることを知る指揮官の緊張が、兵に漏れ伝わっていたから――。


「……私もここまでとは予想しておりませんでした。陛下、申し訳ない」

「キャロルナ公……」

「しかし、だからこそやはり解せません。これほどの無茶をしているのに反乱軍は突撃や戦闘に怯えも見せない。……一体何が彼らをああも駆り立てているのか」


 まるで、それこそ幻想小説に登場する魔法か呪いのようだとキャロルナ公が言う。


 彼のファンタジーめいた言い様が珍しくて、俺は苦く笑った。

 この聡明な叔父が、それほどに、この状況を奇妙に思っているということだからだ。


「……陛下」

「はい?」

「何やら映写の魔術にブレが生じておりませんか」


 え、と思って慌てて映像を見た。……たしかにたまにノイズが走る。


 援護までをしたからシャルロットが疲労してしまっているのか? それなら無理はいけないと伝えなければ。――義妹を失いたくないという俺の心情いかんだけでなく、もしも王女が倒れれば、士気にかかわるからだ。


「シャルロッ――」


 

『――これは王女殿下。

 姫君ともあろうものが観測官の真似事ですか?』



 突如として、映写の魔術(シャルロットの視界)の中に入ってきたのは、一人の騎士だった。


 浮遊の魔術で飛んでいるシャルロットを見つけ、同じように浮遊の魔術を使って追ってきたのか。

 その騎士はにやつきながらも、油断なくこちら(シャルロット)を見つめている。


『お前は――』

『自己紹介なんていらんでしょう。ここであんたには死んでもらうんですから』

『なっ』


 目の前の騎士が手を掲げる。

 そしてほとんど予備動作もなく、しかも無詠唱で、炸裂の魔法をシャルロット目掛けて打ってきた。


 間を置かず、ドンッ、という音。


 そして次の瞬間には、映写の魔術が切れ、送られてきていた映像が途切れた。


「え……シャ……」


 思わず立ち上がり、掻き消えてしまった映像のあった場所に駆け寄る。



「シャルロット……ッ!」



 微かな魔力の残滓だけが、そこに魔力でできた映写があったのだと証明する。

 映写の魔術が途切れたのは、シャルロットに魔術を維持できるだけの余裕がなくなったからだ。


「シャルロット! 大丈夫!? シャルロット……!」


 通信の魔術にも応答はない。意識がないか、通信の魔術に割く脳のリソースがないかだ。


 ――あの男。手練れだった。


 俺はシャルロットの前に現れた男の姿を思い出す。

 あれほど安定した浮遊魔法。間違いなくかなりの使い手だ。騎士にしては異様な、狂気じみた殺気と気迫があったが、やり手の近衛騎士達と相違ない立ち姿。


 常ならばシャルロットの敵ではないだろうが、シャルロットはこの四日間、ずっと複数の魔術を同時展開していた。今朝はさらに負担が増えた。慣れない人死にをその目で見て、精神も摩耗しているだろう。


 そんなところにあれほどの敵複数に取り囲まれたら。


(まずい……)


 ぞっ、と――寒気がした。


 俺の采配で最愛の義妹が怪我を? 

 命を……落とす?


 ありえない。

 シャルロットが負け、伏す姿を想像するだけで怖気が走る。


 戦場に出した時点で決めていなければならなかった覚悟が、再度目の前に現れる。

 

 ――シャルロットは真の聖女だから大丈夫だと、心のどこかで現実を侮ってはいなかったかと。


(嫌だ。シャルロットを失うなんて……絶対に) 


 あの子がエクラドゥール公爵にさらわれた時と同様、いや、いっそそれ以上といえるほどの恐ろしさに襲われた。



 俺のせいで家族が死ぬ。――それは俺にとっては真に迫る、()()()()()だ。



「……これでは戦場の様子も見えませんな。あなたに次いで殿下は女王軍の精神的支柱。討たれるなどということがあれば、軍は瓦解する」

「……」

「どういたしますか?」


 陛下、と問われ、俺は膝の上でこぶしを握りしめた。

 どうすれば。……どうすればいい。


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