女王編:43 轟く
ごり押しでくるならそれでいい。
だが、策によりダプリン戦術が破られればまずい。
女王軍はシェルト城とそのさらに奥にある王都によって、補給は問題ない。兵の数が少ないのでなるべく兵の損耗をおさえつつ、じりじりと長引かせて援軍を待ちたい。
だが、やはり圧倒的に数で不利だ。別に敵とて補給がないわけではないのだから、ものすごく急いで戦いを終わらせようとはしないだろう。
「敵補給線を完全に断ちたいけれど。可能かしら」
「難しいでしょうね。そもそも補給線を断つために割く人員がいません」
「そうよね……」
なんとか敵から仕掛けてもらって、変わらず罠にかかり続けてもらえればいいのだが。
しかし、そんなにうまくいくのかと、そういう不安が頭から離れない。
「――騎士団長」
「ハッ」
「とりあえず、陣形はそのまま。待ちを重視しましょう。あるかどうかもわからない策に右往左往して、既に整えられた陣形を崩すのは、あまりいい手ではないと考えます」
「同じ意見にございます」
「我々禁軍将軍も右に同じく」
「ありがとう。……ブロシエル伯、キャロルナ公はいかがでしょうか」
ふむ、とブロシエル伯が髭を弄る。
「ほっほっ。確かに陛下の仰る通り、今攻勢に転じても大した旨味はありませんなあ。あの待ちの陣形が消えれば、いまだ数で有利な反乱軍は嬉々として攻撃してくるに違いなく、また我々としても守備に徹していた中、今日はもう普通に戦えと言われても戸惑ってしまう。ですので特に反対意見はございませんぞ」
「反対意見『は』……ということは、何か、代案がおありなのかしら」
「否。ただ……魔術に長けた貴族同士の戦いになると、陣形や地形だけを見ていては、戦況が読めないことも多いですのでな」
しかし、『読めないこと』は陣形を変える作戦を変える云々でどうにかなるものではない、という。だから『反対意見は』ない、ということらしい。
「エキセントリックな動きをする指揮官がいないことを願うばかりです」
キャロルナ公は変わらず、取り澄まして言う。
予測がつかない何かが起きるかもしれない恐ろしさの中、二日目の戦いは初日と同じように進めることと決めた。
――そして二日目は、初日と同じように、突撃してきた騎馬を撃退した。しかし明らかに騎馬突撃の数は調整されていて、こちらの動きを見定めようとしている動きだった。防壁の隙を突かれてロングボウ部隊の数が削られ、一部の騎馬隊は重装歩兵を押し込んだ。
三日目、四日目は互いに相手の動向を注視する――半ば膠着状態となり、戦闘はあまり行われなかった。つまり一日目のような大勝は、そう起こらなかった。
そして五日目。
ここで女王軍は、予測のつかない事態を迎えることになる。
*
五日目の戦場の空気は、何やらそれまでとは少し異なっていた。もちろん俺は現場に出ていないので、あくまでシャルロットの映写の魔術を通して感じた『空気』の話にはなってしまうのだが――なんだか反乱軍に緊張が走っているような気がしたのだ。
「反乱軍の空気に当てられて、こちらの兵も固くなっているようですな」
「キャロルナ公にもそう見えますか」
ええ、とキャロルナ公が頷く。「何やらあまりいい予感がいたしませんな」
「はい……」
敵が固いのは悪いことではない、と思う。緊張で固まった敵は機動力も落ちるし叩きやすい。
だが反乱軍の兵たちは緊張はしていても、士気が落ちていなさそうで、それがどうも気になった。
「突撃ッ」
二日目と同じように騎馬が向かってくる。昨日と一昨日とほとんど戦闘がなかったので、兵の疲労は少ないものの、ロングボウ部隊も重装歩兵たちも少しずつ減らされているので、撃退するのも徐々に難しくなってきているのが見ていてもわかる。
(でもなんで五日目になって同じように突撃?)
三日目四日目と様子見をしていたのはなんだったのだろう。これじゃ、こちらが削られて、向こうがもっと削られる、という二日目の再演だ。
それとも、何か仕掛けがあるのか。
――そう考えたまさにその瞬間だった。ぴかっ、と反乱軍後続の騎馬たちの中から鋭い光が放たれたと思うと、
ドオオオ……ン
いつかの祭の最中に響いた轟音と同種の爆音が、映写の魔術から轟いたのである。