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プロローグ



――最近の女性向けライトノベルって、聖女、わりと追放されがちだよな。



ラノベにおける聖女の定義っていうのは人や作品によると思うけど、大体は莫大な魔力を持っていたり、敬虔に祈ったりして聖なる力を持っていたり、とにかく、人が羨むびっくりパワーで国を救ったりするのが、いわゆるラノベの聖女だと俺は思う。


んでもってその聖女は、人を見る目がカケラもないクソバカな国王や王子(あるいは、婚約者)に、「キサマはニセの聖女だ! 真の聖女を騙る詐欺師め騙しおったな!」と意味の分からん難癖をつけられ、国を追い出されたりするのである。


さらに、その追放されたり投獄されたりする聖女は――まあ当然のことだ――本物の聖女であるわけなので、追放先で愛され生活を送ったり、便利な生活を人々に提供して崇められたり、自分を追放したせいで滅びゆく国を見て「ざまあ」と笑ったり、過激なものだと自ら復讐に行ったりするのだ。



……そんな韓ドラみたいな追放系ラノベを姉が好んで読んでいた。



復讐モノ、シンデレラストーリーってのは男女問わず一定の人気があるものだ。浅く広くのオタクだった俺は、ジャンル問わずラノベをたくさん読んでいたのでわかる。姉に勧められたアタリ作品は、俺も結構読んでいた。


(感情移入先はもちろん主人公だ。復讐モノは主人公に共感してこそ、スカッとできるもんだしな)


……え? なぜそんなことを唐突に考え始めたのかって?

そんなの、決まっている。



「姫様」 



ノックと共に、きりりと表情を引き締めた侍女頭が寝室に踏み入ってくる。何十年とこのルネ=クロシュ王国の王族に仕え続けた彼女の貫禄は、奸智に長けた大臣たちと比べても見劣りしない。

そして彼女のそばについているのは、榛色のつややかな髪を背中に流し、瞳と同じ薄紫色のドレスを纏った、はっとするほど可憐な少女だ。女神か天使のような微笑みをその花のかんばせに浮かべ、 背筋を伸ばして立っている。


俺は――『姫様』という『自分への呼びかけ』を聞くと、二人に身体ごと向き直った。



「時間なのね」

「はい。支度を終えられ次第、中央神殿に向かっていただき、神事を行っていただきます」

「……わかりました」


俯いたことで肩にかかった髪を払う。

光の加減によって金にも銀にも見える白金の髪は腰までの長さで、常に手入れがされていることが窺える、光り輝かんばかりの艶である。



「――ヒルデガルド」



どこからどう見ても完璧な淑女の微笑みを浮かべたゆたかな榛色の髪の少女が、一歩前に踏み出して侍女頭の名を呼んだ。


「はい、シャルロット姫様」

「これより、お義姉様の――月の神子の側仕えたるわたしが、神子様のお支度をいたします。一時退出をお願いします」

「かしこまりました」


恭しく頭を下げた侍女頭が部屋を出ていく。

豪奢な調度品に彩られた華やかな部屋の中、俺は少女――シャルロットと向き合う。


シャルロットはゆっくりと笑みを深めると、「お義姉様」と俺を見て呼んだ。俺は肩がビクッと跳ねそうになるのを何とか堪え、『この身体』になってから十数年浮かべ続けて得意になった、淑女の微笑みを顔に乗せる。


「シャルロット、おはよう。今日も太陽神のご加護篤いよき日ね」

「おはようございます、お義姉様。これも太陽神の奥方たる月の女神が、この国をお守りくださっているからでしょう。――では、ルネ=クロシュの聖女、月の神子様。神事のための、魔力をお渡しいたします」

「……ええ」


ああ、白目を剥かないよう努力している俺をどうか誰か褒めてほしい。

月の神子様、お義姉様、とこちらに向かって呼びかけた彼女の紫瞳は、まっすぐ俺に向けられている。……それもそのはず、彼女の言うルネ=クロシュ王国の聖女、魔力をもって国を富ませる神事を行う月の神子とは何を隠そう、俺のことなのだから。



しかし、諸君は思うだろう。



なぜ、聖女である俺が、少女……シャルロットから神事のための魔力をもらわねばならないのか。魔力で国を満たして発展させるのが聖女ならば、神事には自身の魔力を用いなければならないのではないか、と。


当然の疑問だ。



「お義姉様」


シャルロットが俺に身を寄せる。そっと頬に手が伸ばされ、俺は身を固くして目を閉じた。恥じらう乙女か俺は……。



――瞬間、唇に柔らかい感触。



同時に、唇から流し込まれてきたあたたかい魔力が身体全体を満たす。

包まれるだけで腹の底から力が湧いてくるような、莫大な力が唇から流し込まれる。

そのあまりの心地良さに恍惚としかけるも、俺はハッと目を見開いて無理矢理正気を取り戻した。


「……シャルロット」

「大丈夫ですか? 魔力は十分にお渡しできたでしょうか」

「ええ、つつがなく」

「それはよかったです。お義姉様のお役に立てて、わたしは至上の幸せ者です」


シャルロットがうっとりと笑い、俺は盛大に顔を引き攣らせた――心の中で。


(いくら君が可愛く笑ったって、俺は騙されないぞ……)


それでも、俺はなんとか笑ってみせた。


「……ありがとう、シャルロット」


そして、今日も今日とて、俺は何かに強制されるように、『原作通り』のセリフを口にする。

しかし一点違うのは、原作の『彼女』は口とは裏腹に蔑んだような笑みを浮かべていたが、俺は恐怖と焦燥を押し隠した愛想笑いを浮かべている点だ。



そう。

俺はいわゆる『ニセの聖女』である悪役王女に転生した元日本人、しかも元男。

そして彼女、シャルロットは――この国の月の神子――『真の聖女』だ。



とある女性向けライトノベルにて、この悪役王女に虐げられ力や婚約者を奪われ、挙句の果てに使い捨てられて追放されながら、魔族の王子と結ばれて復讐を果たし、華々しいハッピーエンドを迎える、

――堂々たる女主人公様なのである。

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― 新着の感想 ―
[良い点] プロローグから百合百合!?これは期待出来そう
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