第7話 勉強会
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午後。
オリヴィアがルーファスに経済学を教える時間となった。
場所は変わらずオリヴィアの勉強部屋。
ルーファスの正面にオリヴィアが座る。
その後方にアメリアが立っているという配置。
ルーファスはアメリアの方をチラリと見て、目で優しく挨拶をしてくれた。
(ルーファス様は今日も素敵だ……きっと博識なんだろうなぁ……)
アメリアは少し胸をときめかせながら、軽く頭を下げる。
優しいルーファスと一緒に勉強する姿を、思わず妄想してしまう。
しかし、使用人の身ではそんな願いも叶わない。
(それにしても、やっぱり緊張するなぁ……。こんな機会、二度とないだろうし)
昨日は絵画の説明をしただけとはいえ、それでも十分すぎるくらい嬉しかった。
だから今日はオリヴィアの勉強会とはいえ、参加出来るだけでも幸せに感じる。
しかし同時に不安になる。
午前中にみたオリヴィアの様子だと、ルーファスには何も教えられないはず。
(もし、オリヴィアがまったく教えられないとしたら、私はどうすればいいんだろう? 上手くサポートできるかなぁ……。ううっ……不安だ)
そんなアメリアの内心を知る由もなく、オリヴィアが口火を切る。
「さあ、ルーファス様! わからないことを何でも訊いて下さいな!」
自信たっぷりに言い放つオリヴィアに、アメリアは耳を疑った。
慌てて止めようとするが、時すでに遅し。
オリヴィアの言葉は、既にルーファスに届いてしまっていた。
(まずい……。何てことを……!)
アメリアは頭を抱える。
しかしもう仕方がない。
後は成り行きに任せるしかなかった。
オリヴィアは得意げに胸を張る。
その姿に不安になるアメリア。
「では……お言葉に甘えて」
「ええ! 遠慮なく!」
ルーファスは質問を始める。
「まずは……貨幣価値のことです。この国での銀貨は、金貨何枚分の価値があるのでしょうか?」
アメリアはその質問にホッとする。
どうやら最初の難関は突破できたようだ。
(うん。これは今朝、ちゃんと説明したからね。さすがにオリヴィアでも大丈夫でしょう)
心の中でエールを送るアメリアだったが、オリヴィアは自信満々に発言をした。
「金貨十枚ですね!」
アメリアは開いた口が塞がらなかった。
それはさっき教えたばかりなのに……。
「……どうしてですか? この国では銀貨の方が金貨より価値が高いということですか?」
案の定、首を傾げるルーファス。
アメリアは心の中で絶望した。
オリヴィアの間違いをフォローするために口を開きかけるが、それより先にオリヴィアが得意げに語り始める。
「ふふん。このお屋敷では金貨しか見たことがありませんから、きっと銀貨の方が希少性が高いんだと思います!」
その発言にアメリアの全身から冷や汗が流れる。
確かにオリヴィアが買い物をするときは、高価な物ばかり。
なので会計はすべて金貨。
でもモルガン夫人が必ず会計を済ませるので、銀貨を確認する機会すらほぼなかったのも事実。
(まずいなぁ……。この発言はまずいかも。こんな基礎的な間違いは逆にフォローできないよ……。オリヴィアの体面もあることだし……どうしよう)
そう考えていると、ルーファスの目が一瞬泳いだのが見えた。
オリヴィアの頓珍漢な回答に、戸惑ってるに違いない。
「なるほど……。そういえば私も金貨は毎日見ていますが、確かに銀貨はあまり見かけませんね。この国でも貴重品だということはよくわかりました。ありがとうございます」
笑顔でオリヴィアの間違いを誤魔化すルーファス。
この発言にアメリアの表情は明るくなった。
(さすがルーファス様……! 助かったぁ~!)
ルーファスの完璧な対応に、アメリアの心は安堵に包まれる。
そんな気も知らずに、オリヴィアはまだ得意げに話を続けた。
「いえいえ、さすがルーファス様ですね! 理解力が高くて素晴らしいですわ! 次の質問にもドンドン答えていきますね!」
褒められて嬉しそうなオリヴィア。
それを見てアメリアの顔が再び曇り出す。
(……このままではルーファス様に迷惑をかけてしまう。私が何とかしなければ!)
焦ったアメリアは急いで思考を回転し始めた。
そして一ついいアイデアを思いつく。
(そうだ! 思い切って話題を変えてみよう!)
これならオリヴィアの知識がなくとも問題ないはずだ。
「オリヴィアさん、少し質問があるのですが……」
オリヴィアの話を遮るようにアメリアが割って入る。
するとオリヴィアは口を尖らせた。
「あら……。まだルーファス様の質問の途中ですよ!」
「すみません。でも、この前のお茶会のときの話について、もう一度聞きたいと思いまして……」
そう言うとオリヴィアの表情はパァッと明るくなり、上機嫌な様子で説明を始めた。
「もちろん構いませんよ! 先日、お茶会でとても面白いことがありまして――」
(よし、食いついてきた! 後はこの勢いのままに……!)
アメリアはルーファスに目配せをして合図を送る。
その視線に気づいたルーファスが軽くうなずいた。
どうやらこちらの意図を察してくれたようだ。
アメリアはルーファスに小さくお辞儀をした。