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吾輩は逃げられてしまう

 湖に向けてウォータージェットばりの水を尻尾から放っている可愛らしい黒猫。

 そう吾輩である。

 クレプスクルムと名乗るドラゴンに師事して一か月ほどが経った頃である。


 神から貰った吾輩の身体はハイスペックだと言うのはわかっていたが、クルムさんに扱い方や身体の動かし方を教えてもらい、ハイスペックどころではないことが分かった。

 まず、吾輩の九本の尻尾はこの世界に現存するすべての魔法が使えるようだ。そして、今までわからなかった九本目の尻尾の能力もクルムさんから教えられた。

 九本目の能力は創造。新しい魔法もそうだが、物質や現象を作ることが出来るすごすご尻尾である。


 作った魔法は属性ごとに他の尻尾で発動しなければならないが、それでも万能な尻尾だな。

 今使っているウォータージェット的な魔法もその一つである。


『うむ、うむ。さすがは九尾の猫殿だな。シュトルム殿もそうだったが、クロ殿も膨大な魔力量を有している。それに飲み込みも早い。ここまで来ればクロ殿は単体で一つの街を消し炭に出来るな』


 なんと物騒なことを言うんだこのドラゴンは。


『そんなことはしない』

『とか言ってー。ムカッと来たら壊しちゃうんだろー?』


 最近わかったが、このドラゴンことクルムさんはたまにノリが軽い。


『こほん。まあ、力の使い方はそれぞれだ。シュトルム殿のように暴れてもいいし、人間との共存を目指してもいい。まあ、おそらく――』


 そこまで言ってクルムさんは森の方に目を向けた。

 それに釣られて吾輩もそちらを見る。

 何かいる気配はないが、吾輩のキュートでハイスペックな三角耳は小さな音を捉えた。その音はどうやら話し声のようで、吾輩は集中してその声を拾うことにした。


「ドラゴンの存在は確認できたな」

「これで依頼は完了だろう。一度戻ってギルドに報告しよう」

「「ええ」」


 声の種類から見て四人。

 ギルドとか言う単語が聞こえたあたり、ファンタジー定番の冒険者ギルドと言う奴だろうな。

 吾輩も行ってみたい。

 どうやら彼らはクルムさんにしか目が行っておらず、吾輩には気が付いてないようだ。


 ふむ。挨拶がてら彼らにコンタクトを取ってみようと思う。

 吾輩の愛くるしさなら彼らもデレデレになるだろうさ。


 藪をかき分けて彼らの所へと向かう。藪をかき分けるときに音が出てしまい、彼らはこちらに視線を向けた。


「にゃー」


 こんにちは。

 ファーストコンタクトはもちろん挨拶である。

 藪から顔だけ出した吾輩に彼らは安堵したように息を吐いた。


「なんだ猫か」

「ビビったわー」


 男性二人は吾輩が猫だとわかると小さく声をあげて空を仰いだ。


「あらぁ、可愛い猫ちゃんねぇ」

「こっちおいでー」


 女性二人は愛らしい吾輩を見てにこにこと笑みを浮かべてちょいちょいと手を動かす。

 猫好きに悪い奴はいない。

 と言うことで、吾輩はその手に釣られるように藪から全身を出す。

 すると、にこにことしていた女性二人の顔がどんどん青くなっていく。

 不思議に思い、男性たちのほうを見ると同じく顔を青くして震えていた。


「きゅ……」


 きゅ?


「「「「九尾の猫だあああああああああああああああああッ!?」」」」


 へ?

 吾輩の全身を見た彼らは先ほどまで息を殺していたのが嘘のように、彼らは跳びあがって逃げて行った。

 なんでや。

 吾輩キュートやぞ。逃げるなや。


『フハハハハ! まあ、そうなるだろうな。人間たちにとって九尾の猫は恐怖の対象だ。主にシュトルム殿のせいだがな』


 魔王のような笑い声をあげるクルムさん。

 そっか、九尾の猫は恐怖の対象なのか。人間に愛でられることはないのだろうか。

 もったいない。吾輩はこんなにも愛らしいのに。

 シュトルムの野郎、なんと言う置き土産を残してくれてんだ。

 つか、クルムさんも先に行ってほしかったぞ。


『と、言う顔をしているな? 我が言う前にクロ殿が彼らに近づいたのだろう? 我としては面白い物が見れたがな。実に愉快! フハハハハ!』

『笑うな』

『ふごッ!?』


 ムカッとしたのでとりあえず猫アッパーをかましといた。

 こりゃ人間との交流は難しいのかねぇ。

 こんなにキュートなのに。

にゃ

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