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吾輩は冒険者について行く

 カウンターの上でお座りしながら冒険者たちが掲示板から取ってきた依頼が受理されていくのを眺めている小顔で可愛い黒猫。

 こんなに可愛いのは吾輩しかいない。


 猫好きが多いこのギルド。

 受付の隣に座っている吾輩がじっと眺めていることが面白いのか、皆一様に笑いながら一撫でしてから冒険へと出かけていく。


「おぉ! クロ! お前がここにいるときは良い事があんだよなぁ!」


 と言う者もいる。

 何やら吾輩は幸運の猫になっているらしい。

 午前中の割と早い時間には冒険者達も少なくなり、静かになったギルド内。受付が落ち着くのを待っていた冒険者はだいたいこの時間に受付に来る。


「やぁ、リッケン・シュヴァルツヴァルト三世!」


 吾輩はクロである。

 特殊な名前で呼ぶこの金髪で青と白の派手な服装で赤いローブを来た男。

 名前はロイ・クラッシュ。一応これでも元貴族であり凄腕の魔法使いである。ちなみに派手な服装やローブは貴族だからとかではなく、完全にロイの趣味である。


「あ、ロイさんこんにちは!」

「あぁ、今日も麗しいな。ミリエール嬢」


 キザったらしい動作をしながらロイは挨拶? を返す。


「はいはい。今日はどの依頼ですか?」

「フッ……! 僕にふさわしい依頼さ!」


 そう言ってロイは依頼書をカウンターの上に置いた。

 ミリエールは依頼書を受け取って内容を確認する。


「大量発生したスライムの討伐ですか。確かに魔法使いであるロイさんにはぴったりの依頼ですね!」

「だろう?」


 前髪をサラ―っと指で弾きながら言うロイ。

 いちいち動作がうざい。


「はい。受理しましたー!」

「フッ……! では行ってくる」

「はーい! お気をつけてー!」


 ローブをバサッと翻してギルドから出ていくロイ。

 最後の最後まで動作がうるさかったが、彼の使う魔法は結構面白いのでたまについて行ったりする。

 そして、今日も特にやることもない吾輩は、ロイの依頼について行くことにした。

 ぐぐーっと伸びをして吾輩はカウンターから降りる。


「クロちゃんもお出かけ? 気を付けてねー!」


 ミリエールの声に尻尾で返事して吾輩もギルドを後にした。



 *****



 街を出ていくロイの後ろをつけていく吾輩。

 街道を進むロイは身の丈はある杖に腰かけて飛びながら移動していた。実に魔法使いっぽい。

 結構な速さで移動する彼を追いかけるのはかなり疲れるため、吾輩もまた空間魔法で正方形に空間を固めてその上でお座りしながら正方形の空間を動かして移動している。

 傍から見たらお座りしながら空中移動しているようにしか見えないだろう。


 すすいーっと移動する吾輩。顔にかかる風が心地よい。

 そして何より楽ちんである。


 進んでいる方向としては吾輩が来た森方面とは真逆の北。こちら側は広大な草原が広がっている。

 さわさわと心地のいいそよ風に吹かれて草が揺れる音が耳をくすぐる。

 人里に向かう事ばかり考えていた吾輩。ここまでしっかりと風景を見たのは初めてかもしれない。悠々自適な飼い猫生活もいいが、こうして旅をするのも悪くないのかもな。

 と言っても、しばらくは迷宮都市で悠々自適な飼い猫生活を送るつもりだが。


 街から出て一時間ほど経過したところで、草原にぽっかりと大きな穴を開けたように大きな湖が遠目に見えた。

 どうやらロイの目的地はあの湖のようで、移動するスピードを上げた。

 それに合わせて吾輩もスピードを上げる。


 湖についた吾輩たちが見たのは湖の覆いつくすほどのスライムだった。

 少し青みがかっているプルプルなボディ。この世界のスライムは液状ではなく個体タイプのようだ。

 一匹や二匹なら可愛いものだが、さすがに湖を覆いつくすほどの量だとちょっと気持ち悪いな。


「フッ、予想以上に多いけど、僕の魔法の前では有象無象でしかないね」


 ロイは地面に降り立つとバサッとマントを翻して杖をクルクルと回して構えを取った。

 動きがうざい。

 そして身の内に宿る魔力を練り上げていく。練り上げる速度に内に秘める魔力量。やはりそこらの魔法使いなんかよりも格が違うな。


「喰らいたまえ! 僕の華麗なる魔法っ! "サンダーエクスプロージョン"ッ!」


 練り上げられた魔力はロイが発したキーワードによって魔法となった。

 湖の中心に小さな雷球が出現して、それが爆発するように一気に膨れ上がる。バチバチと稲妻を放ちながら膨れる雷球は、大量のスライムたちを飲み込んでいった。

 サンダーエクスプロージョン。名前的にはそのまま雷大爆発なんだろうな。

 爆発するように広がる雷球を出現させる魔法か。面白い。


 湖を覆った雷球はその大きさを一気に縮めていき、最後には何事もなかったように消え去った。

 雷球が消えた後の湖は雷球の衝撃によって激しく波打っており、波打ち際には大量のゼリー状の物体が漂着していた。


「フッ……。他愛ない」


 マントバサバサするな。

 こうしてたまにロイの後をついて行くと、サンダーエクスプロージョンみたいな見たことのない面白い魔法が見れたりするので吾輩の魔法製作に役立っているのだ。


 見届けた吾輩は空間魔法の一つである空間転移を使用して迷宮都市へと帰る。

 転移地点はギルドの屋根の上。ここなら人もいなければ他の動物もいないので座標被りなんてことはない。

 座標被りとは空間転移で飛ばした物体と、設定した座標に存在する物体が被ってしまうことだ。そのまんまだな。

 例えば、座標設定をミスって移動先の座標が壁の中だったりした場合そこで身動きが取れず窒息してしまう可能性がある。まあ、吾輩は壁の中だったり地中だったりしても破壊して脱出することが出来るが、転移の度に壁や地形を破壊しても周りに迷惑が掛かるだけなので、こうして飛ぶ座標は屋根の上のように何もない場所を選ぶようにしている。


 さて、まだ日が高いので日向ぼっこでもしようか。

 吾輩は屋根から窓伝いに地面に降りたつと気持ちのいい日の光を浴びながら街へと繰り出す。

 今日はどこで日向ぼっこするかね。

エクスプロージョンッッッ!!!!(՞ةڼ◔)

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