吾輩は看板猫になる
白髪ケモ耳美少女に抱っこされながら移動させられている大人しい黒猫。
吾輩に決まっている。
この少し前まで吾輩はギルドの受付カウンターで寝ていたのだが、白髪ケモ耳美少女ことミリエールに抱きかかえられて目が覚めた。
ミリエールは吾輩をどこかへと連れていくようだ。
階段を上り、廊下を進んでいく。
その突き当りにある扉の前まで来たミリエールは、吾輩を片手で器用に抱えなおした後扉をノックした。
「ミリエールです」
「入れ」
ミリエールの言葉に、中から返ってきた声は凄く渋い良い声。
「失礼します」
扉を開けて中に入りつつ言うミリエール。
吾輩は彼女の腕の中で大人しくしつつ、その部屋の中にいる人物へと視線を向けた。
窓からさす光を反射するほどの綺麗なスキンヘッドで、その顔は彫りが深く四角い顔。その眉間には深い皺が寄っている。歳にして四十代くらいだろうか。だが、見た目の年齢とは裏腹に現役と言われても納得できるほどの鍛え抜かれた身体。
座っている状態なのに大きく見えるその体躯。
その男は体躯に似合わない洒落たティーカップを片手にこちらを見ていた。
ティーカップが小さいのか、はたまたこの男の手がデカいのか。いや、明らかに後者か。
彼は手に持ったティーカップに口をつけて中身を一口飲んでカップをソーサーへ静かに置いた。
そしてこちらを向く。顔こわ。
「どうしたミリエール。この時間だろお前は休憩時間だろう」
「はい。一つお願いがありまして」
「ふむ。聞こう……と思ったが、その猫のことだな?」
「はい」
なんと、吾輩のことであったか。
「丁度二時間ほど前にギルドに迷い込んできまして。この通り大人しくいい子なので、うちで飼えないかなぁと」
キターーーー!!!
ぜひ飼ってくださいお願いします。
吾輩、夜泣きしないしお風呂も元日本人がゆえに大好きなので汚くしません!よろしくお願いします!
必死か。
いや、必死なのだ。
「……わかってるのか? うちは冒険者ギルド。荒くれ者が多い。その猫に刃を向ける馬鹿者がいるかもしれないぞ?」
その時は吾輩の研ぎ澄まされた爪が猛威を振るうことになる。
可能な限り人は傷つける気はないがな。
「うーん。大丈夫じゃないですかね。私もこの通り猫獣人ですけど乱暴されたことはないですし、それにマスターが猫を傷つけるなって言えば従わない人たちはいないしょ?」
おどけた様に言うミリエール。
それに対してマスターと呼ばれた男は一度カップを手に取って一口飲んで深く息を吐いた。
「……はぁ。まあいい。まさか拾った猫が猫を拾ってくるとはな」
「拾って来たんじゃないですぅ。迷い込んだんですぅ」
何それ可愛い。
口尖らせちゃってー。
「世話はお前がするんだぞ」
「わかってます。マスター――いえ、お父さんには迷惑かけませんよ」
まさかの父。
似ても似つかない二人がか。あぁ、でもさっき拾った猫がって言っていたし、養子か何かなのだろうな。
こんなスキンヘッド筋骨隆々のおっさんからこんなかわいい猫耳美少女が生まれるはずがないもの。
「すでに迷惑かけているがな。さて、休憩に戻れ、一時間は貴重だぞ」
「はい。失礼しました」
「にゃ」
ありがとうスキンヘッドのおっさん。
吾輩は抱えられたまま一階へ。受付の方にはいかずに別の部屋へと向かった。
その部屋には他の職員もいるようで、各々くつろいでいるところを見るに、この部屋は休憩室のようだ。
ミリエールは吾輩を近くのテーブルの上に下ろした。
「おや、ミリエール。その子は?」
その行動に気が付いた一人の青年が近づいて来て言う。
「お疲れ様です。ゼンリさん。この子はギルドに迷い込んで来てしまった猫ちゃんです!」
「迷子猫かぁ。ずいぶん大人しいようだけど飼い猫だったりは?」
吾輩まだ飼われておらん。
「んー、依頼掲示板を見た限り捜索依頼とかは出されていなかったんですよね」
「うーん。となると、飼い猫捜索をまだ出していないか。または野良猫ってことだよね。しばらくはうちで保護するかたちになるね。マスターには?」
「飼うっていいました」
「あはは。ちょっと気が早いね。ここまで大人しいなら看板猫も務まるかな? そしたら飼い主が依頼に来てもすぐにわかるだろうし」
ふむ。看板猫か。
むさい冒険者ギルドの癒しになってやろうではないか。
「にゃにゃ」
「おや? 看板猫やるきかい?」
「にゃ、にゃにゃにゃ」
ゼンリと呼ばれた青年の問いに吾輩は鳴きながら頷く。
「賢いな君。僕たちの会話を理解しているのか」
当たり前である。
吾輩はそこらの猫よりも賢いので人の言葉を理解しているぞ。元々人間だしな。
「にゃ!」
ゼンリの言葉に吾輩は胸を張って答える。
「あはは。これからよろしく頼むよ黒猫君。そうだ、ミリエール。この子の名前は?」
「もちろんクロですっ!」
「まんま過ぎないかい?」
「でも、クロって感じですから!」
おお、さすがミリエール。
そう、吾輩は黒猫のクロである!
「あはは。ミリエールらしいっちゃらしいか。じゃ、改めてよろしくクロ」
「よろしくね! クロちゃん!」
「にゃ」
こちらこそ。
吾輩はゼンリに撫でられながら短く鳴いて答えた。
こうして、吾輩は冒険者ギルドの看板猫となったのである。
九尾の化け猫は看板猫になった。
お読みいただきありがとうございます。
これにて九尾の猫クロの転生してから現在までの過去語りは終わりとなります。
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