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第一話 弟子入り試験

 第一回NoTitle Japan League通称NTJL1から一年が経とうとしていたある日の深夜、コンビニへ夜食を買いに行こうとオレが家の扉を開けると、そこに立っていたのは一人の少女だった。


 少女のゴスロリ系の服の上から両肩にかかった革製の赤いそれは、オレに少女が小学生であるということを即座に理解させるのには十分すぎた。


 ――女子小学生の出待ちなんて読めるかー!


 そしてその光景は、直前までNTJL1を見返していたオレにそう叫ばせたのだった。


 するとその少女は首をやや傾げ、口を少し開け、きょとんとした目でこちらを見つめた。


「いや、すまない。こっちの話だ。それより何か用かな?」

 とオレが腰を落としながら声をかけると、少女は真剣な面持ちになり、口を開いてこう言った。


「あ、はい、そうでした。実は、その……弟子にしてもらいに来ました!」


 直後、オレは耳を疑ったが、この少女は確かに言ったのだ。

 弟子にしてください、と。


「は、はあああぁぁぁ!?」


「ダメ、ですか……?」


「いや、待て待て待て。ダメも何もオレは君のことを何も知らないし、君も本当にオレのことを知って――」


「――う、うえぇぇぇん、うえぇぇぇん」


 オレが自己紹介などを求めようとした途端、少女がその場で泣き出してしまった。

 え、オレ何かまずいことを言ったか?


 というかこの状況は少々、いやかなりまずい。

 深夜に東京のど真ん中で女子小学生を泣かせている成人男性。


 警察に見つかれば少なくとも署への同行は免れない。

 この場オレが取るべき最善策は……。


「何か気に障るようなことを言ってしまったならごめんな、こんな時間に家の前で立ち話っていうのもなんだし一旦上がってくれ」


 家に入るよう促すと、少女は涙を拭いながら首を縦に振った。



***



「落ち着いたか?」


 リビングのソファーに並んで座る少女が泣き止んだのを見て声をかける。


「はい。えっとまずは、家にまで上げていただきありがとうございます」


 小学生の割にしっかりしているなと感心していると、少女が「では本題ですが」と続けた。


「私のことを本当に覚えていないんですか?」


 そう言われてピンときた。

 だがそれは少女が誰であるかということに対してではなく、少女がなぜ泣いたのかということに対してのみだ。


 正直に言って、全く覚えがない。


「その様子では完全にお忘れのようですね……。ツバサですよ、ツ・バ・サ」


「マインドゼロになって気絶していたところをオレが助けたあのツバサか!」


 呆れ気味に発せられたその名前を聞いて今度こそ一人の人物が浮かんできた。

 まさかゲーム内で出会っていたとは思いもしなかった。


「やっと思い出してくれたんですね! それでは師匠――」


「――待て待て待て、いつオレが弟子にしてやると言った」


「ではいつ言っていただけるのでしょうか」


「そうだな、じゃあまずは試験をしよう。ツバサがオレの弟子になるだけの素質があるかどうか。オレがツバサにその素質があると判断すれば弟子にしてやる」


 そう言うとツバサは一瞬何かを考えた後、「わかりました」と言い、ランドセルの中からNo Titleをプレイするために必要なフルダイブ型VRマシンを取り出した。


 そしてツバサがそれを装着する。


 オレも同様にゲーム開始の準備を整える。


「それでは早速試験をお願いします」


「ああ、了解だ」


 そして二人は仮想空間へと意識を移した。



***



 そしてオレたちはゲーム内のダンジョンの深層一層で落ち合い、試験内容を具体的に話し合った。


 その結果、オレとツバサがこの場で決闘をし、ツバサが少しでも良い戦いを見せれば、一時的に仮免許ならぬ仮弟子となる、ということで合意した。


 ここまでしておいてなんだが、オレは端から弟子を取る気はない。


 約一年前、NTJL1に優勝した直後の浮かれたいたオレならば十人でも百人でも取っていたかもしれないが、今は状況が違う。


 NTJL1の優勝によって出場した世界大会では初戦敗退。

 約半年前に行われたNTJL2ではベスト4止まり。


 自分以外に時間を使うほどの余裕はとてもない。


 ではなぜこんな条件にしてチャンスを与えたのか、となるが、これでいい勝負になるなんてことはまずあり得ないだろう。

 正直なところツバサの攻撃はオレに掠りすらしないだろうと考えている。


 理由はオレとツバサの出会い方が物語っている。


 マインドゼロ(スキルの使いすぎによってエネルギーの回復が間に合わずゼロになること)になって気絶、なんてのは初心者のすることだ。


 誰かが助けてくれない限り気絶すればその先に待っているのは、死のみ。


 そんな初心者に良い戦いをされるオレではない。


「お互い全力でな」


「はい!」


 一応そう確認して互いに距離をとる。


 間もなく5、4、3、2、1とカウントダウンが始まり、0のタイミングで決闘開始の文字が映し出される。


 それと同時に、眼前に天使が浮き上がった。


 その天使の両手にはクナイが一本ずつ。


 そしてオレは悟った。



 死んだな、と。

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