9# そして、今に至る
「レオンハルト殿、この乗り合い馬車を降りたら歩くのか?」
スティーヴンが尋ねるとレオンハルトは少し首を傾けたように頷く。
「ああ、今から向かう村は街道から逸れて獣道みたいな場所を突っ切って行くんだが」
「それは…令嬢のディアーナには酷なんじゃないか?彼女の…その…柔らかな絨毯の上しか歩かないような…白百合のような足では…」
━━━初めて聞いたわよ、そんな表現!白魚のような手なら聞いた事あったような気がするけど!て言うか、殿下の中の令嬢のイメージおかしくありません?━━━
「で、殿下、わたくしの事ならお構い…無…く……」
背後に立ち昇る仄暗いオーラに怖気が立つ。
刺激しないように、ゆっくりと背後に居るレオンハルトの方を振り返る。━━━鬼が居た。
「見た事あるのかよ…ディアーナの足…なぁ、答えろよ…」
「ち、違う!深窓の令嬢とは、そういったものだろうと!そもそも私とディアーナは、そのような親密な関係にはならなかった!それは、オフィーリアであったレオンハルト殿が一番よく知っているであろう!」
「当たり前だ、俺と付き合っていながらディアーナと親密な関係になっていたりしたら、お前なんかもう生きてないからな!」
何か変な三角関係みたいな会話になってません?
乗り合い馬車の他の乗客の視線が痛いですわよ…。
二人の肩に手を置き、グワッと力を込め肩肉を鷲掴むとニコリと笑う。
「お二人様とも…回りにご迷惑ですわ……だから、もう黙れ…」
永久凍土のように冷めた目で笑う私に、二人は口をパクパクさせて静かになった。




