スティーヴンとウィリア9
ジャンセンに転移魔法でウィリアの近くに行けると聞いた私は転移魔法を使い、半地下に続く階段の途中に転移して、今そこに居る。
私の前に薄い扉がありその前にウィリアを拐った男が、その向こう側にウィリアが居るようだ。
「今回の占いはインチキなんかじゃないわ!母が!夢に母が出て来て、わたくしに言ったのよ!あなたの幸せを願うから、レオンハルトという冒険者を町に呼びなさいって!」
「都合のいい夢、見てんじゃねーぞ!このアマ!お前のお袋もなあ、おとなしく俺の女になってりゃ死ぬ事も、化け物になる事もなかったのによ!」
男がウィリアの身体を壁に押し付け、舐め回すように顔をウィリアに近付ける。
「っ…!ウィ……!」
たまらず飛び出そうとした私の肩を、いつの間にか背後に立っていたレオンハルト殿に掴まれ制された。
レオンハルト殿は人差し指を立て、静かにと。
ウィリアに、男の話を最後まで聞かせるべきだと促す。
「巫女だから生涯男を知らないなんて勿体ねぇ、エイリシアを無理矢理俺の女にしてやろうとした時に、あの旅人が現れやがって…俺からエイリシアを奪いやがった!」
「なんですって…!?母を無理矢理…!?旅人…父…?」
「生涯純潔?笑わせんなよ、ちゃっかりお前をこしらえてんじゃねぇか、お前にもあの女の血が流れてんだぜ?ムカついたからよ、オヤジ達にお前らの居場所を探して殺すように言ったんだよ、娘は新しい巫女にすりゃいいってな」
男はウィリアの胸元の衣服を強く握ると、引き裂くように破る。
胸元が露になったウィリアは、それを隠しもせずに男を睨み付けていた。
「だから、生かしておいた娘のお前は俺の女にしてやるよ!」
「黙れ!お前は母に、父に!死んで詫びろ!」
ウィリアの怒声を合図に薄い扉が破られ、剣を手にしたスティーヴンが躍り出る。
ウィリアに触れる男の手を見た瞬間、激しい怒りがスティーヴンの身を焦がす。
「彼女に触るな!どけ!」
男の脇腹を蹴りあげ、ウィリアから離れさせる。
「遅れてすまない、無事か!ウィリア!」
ウィリアの方に視線を向け、彼女と目を合わせる。
怯えてなどいない、泣いてなどいない、彼女の目は真っ直ぐに私を見詰めている。なんて力強く美しい水色の瞳。
「ええ、無事ですわ。信じておりましたもの。」
今まで、拐われたディアーナ嬢が怯えも泣きもせずに助けられた時に、彼女は逞しすぎておかしい人だから。と思っていたが…。
そうか、信じていたのか…レオンハルト殿を。
そして、私も今
ウィリアに信じて貰えていたのだ。必ず助けに来ると。
「て、テメエ!何者だ!俺のウィリアにさわるんじゃねぇ!
」
「黙れ!俺のウィリアだと!?ふざけるな!ウィリアは俺の女だ!」
剣を構えたまま、自然に口から出た言葉に驚きもしない。
想い人だとか、大切な人だとか、そんな飾った言葉じゃ足りない。
ウィリアは、俺の女だ!俺の妻になる女だ!
剣を握って襲い掛かって来た男と剣を交える。
レオンハルト殿達と旅をし続け魔物や魔獣を狩ってきた私にとって男の剣は、児戯に等しい。
振り下ろされたり、突いてくる剣を数回薙ぎ払ってから、剣を持つ男の手の指を狙って傷を刻んだだけで、いとも簡単に勝負はついてしまった。
「わ、悪かった!もうしない!見逃してくれ!もうウィリアには近付かない!ど、どこかに消えるからよ」
男は地べたに尻をついたまま命乞いをする。
何とかして、逃げようとするこの男をラジェアベリアの牢獄に連れて行くべきなのだろうが……
ウィリアは…どうしたいのだろう…巫女として慈悲を与え罪を許すのか…?
「嫌よ…!許さない…!お前がいなければ母は魔物になんか操られなかった!そんな母を化け物と言った!」
「神に仕える巫女が、そんな事言っていいのかよ!慈悲の心はねぇのか!?」
「巫女じゃない!わたくしは、ただのウィリアよ!慈悲の心なんて持ち合わせてないわ!お前は母と父の仇よ!だから死んで!!」
ウィリアの男に対する怒りと憎悪は揺るがなかった。
男の背後に、剣を抜いたレオンハルト殿の影がユラリと揺れる。翡翠色の目だけが、獣のように光る。
刹那、部屋の中に血飛沫が飛んだ。
部屋の中、絶命して横たわる男の屍を前に、血の滴る剣を握って私は立っていた。
「ウィリアの…憎しみも、怒りも、俺だけのものです…。これは、レオンハルト殿にも譲れない。」
「…そうだな、それを分かち合えるのはお前だけだ…。ウィリアは強い女だろう…?王妃ってのは、お人形みたいに綺麗で守られるだけじゃ出来ないんだからな…」
レオンハルト殿は、くるりと背を向け半地下の階段を上がって行く。
「王子サマ、早く隠してやれよ…その豊満我が儘ボディ。」
あ、あ、あなた!見ましたね!?俺のウィリアの…!
いそいそと腰に巻いた布を外し、ウィリアの胸元を隠すように巻く。
そして、二人階段を登り始めた。
「……あー…えっと……二人の所に…戻りますか…もう一人増えてますけど…」
「増えてますの…?そ、そうですわね…あの…スティーヴン…わたくしの事…」
胸元を両手で隠して上目遣いで私を見るウィリアと目が合う。頬が紅をさしたように赤い。
「……先に城に行こうか、父に改めて紹介しないと…」
「何て、紹介されますの?わたくし…」
「それはもう、ウィリアは俺の女だから!こいつと結婚するからな!だな」
「王子らしからぬ、くだけた言葉ですこと」
輝く笑顔で涙ぐむウィリア。綺麗な綺麗な未来の私の妻。
創造主のあなたは、知っていたのですよね?
だから、書簡に『俺の女』なんて書いた。
ああ、手の平で遊ばれてる感がハンパない。ムカつくわ。
ジャンセンこの野郎。




