スティーヴンとウィリア4
久しぶりに帰った城内を懐かしむ余裕もなく、スティーヴンは自室へと走る。
途中、見知った顔を何回か見たが、足を止める余裕等無かった。
自室の前に着くとドアをノックする。
「ウィリアさん、私です…スティーヴンです」
返事は無かったが、静かにドアが開く。中から顔を覗かせたウィリアの表情は憔悴していた。
「…殿下…申し訳ございません…わたくし…殿下にご迷惑をお掛けするつもりでは…無かったんです…。」
ウィリアは頭を深く深く下げ、震えていた。
彼女の姿は、初めて逢った時の艶やかな女でも、鍾乳洞で泣きじゃくっていた幼い少女のようでもなく
脆く儚げで弱々しい、手折ればすぐ枯れてしまう花のようだった。
「いや…私の方こそ…まさか、こんな事に、なっているとは思ってなかった…すまない」
鍾乳洞の件から10日…ジャンセンに無理矢理連れて来られた彼女は私の部屋に案内され、ただただ、そこで時間を費やした。
城内である事で、部屋を出て歩き回る事も出来ず、誰と話す事も出来ず、自身を責めて責めて時間を費やした。
「もう…良いのです、殿下…わたくしを、あの町に戻してください…町の長達が処罰を受けるならば、わたくしも…」
「何を言う!君が何の罪を犯した?幼い君が、自身を守るには言いなりになるしか無かったのだろう!?」
「それでも、わたくしは…父と母を見殺しにした…そして、父と母を殺した者達の…奴隷みたいなものだったのですわ…」
私は今…変な事を考えている。
この状況で、こんな事考えるのは間違いだと分かっているのだが…。
傷付き、震えて涙する…。
何だか守ってあげたくなる…。
女の子って、こんなのが普通だよね!?
私の感覚が、もう異常なんだと思うが…こう…守ってあげたくなるような…これが、女の子ってもんだよね!?
間違っても、暴れまわるから止めなくちゃ、それが女の子…じゃないよね!
かつての婚約者が、アホみたいに好戦的になっていたり、
かつての想い人が、男だった事を抜きにしても剣を抜いてアッサリ人の首を斬っちゃうような恐ろしい女だったり…。
私の中の普通の女の子が何なのか、分からなくなりつつあったんだけど…なんか安心した…。
「ウィリアさん、今…私が一番思うのは…君、レオンハルト殿とお付き合いしていたら、身が持たなかったと思うよ?」
ウィリアは、訝しげな顔を見せる。何を言ってるの?とでも言いたげに。
「…わたくしが想像していたより、恐ろしい方だと…それは、ディアーナ様がお倒れになった時に分かりました…。」
「プチプチ言ってたからね」
「なんですの…?プチって…いえ、なんとなく分かってはいますけど…。分かりたくないと言いますか…」
スティーヴンは少し考えるそぶりを見せ、小さく頷くとウィリアの手を取る。
「君が自分を責めている事が小さく見えるような、そんな場所に行こう!」
「え…?どういう…きゃっ!」
スティーヴンはウィリアの手を取ったまま、転移魔法を使った。「あ、ほんとに使えた!」と思った事は内緒だが。
二人は暗い森の入り口、スティーヴンが数時間前まで夜営の準備をしていた場所に現れた。
「「「「……………」」」」
四人、無言でそれぞれを見る。
焚き火の前、レオンハルト殿の膝の上に横向きで座るディアーナ嬢。
……イチャイチャしてんのか……と思ったら、微妙に違っていた。
レオンハルト殿、空気椅子中。そこに座るディアーナ嬢…
え、これ何かの罰!?
「あら、殿下!…と、ウィリアさん?」
ディアーナ嬢はレオンハルト殿の膝から降りると、ウィリア嬢の前に来た。
「ウィリアさん何だか、やつれてません?大丈夫ですの?」
ウィリア嬢は、ディアーナ嬢の手が顔に触れると涙を溢す。
「ディアーナ様…ディアーナ様には…母が…申し訳ございませんでした…あのように危険な目に…わたくしのせいで…」
ディアーナ嬢が私の顔を見る。私は頷く。
彼女が憔悴している理由、それは強い罪悪感。
「それ、なんで?ウィリアさん、何にも悪い事してないのに?」
「それでも…わたくしは…わたくしの母が…」
「うっぜ!!」
ディアーナ嬢は仁王立ちで腰に手を当て、ウィリアを睨む。
「ヘタレか!うぜぇ!!」




