69# 瀧川廉として生を受けて2【現代日本でのレオンハルト】
「ミァちゃんからゲーム借りたんだけど、コントローラー無くてさ」
無防備に俺に背を向け、不安定な椅子の上に立って高い棚の上を探り始める。
「ミァちゃん?…そんな友達いたっけ?…俺はゲームなんかしないから、コントローラーなんて持ってるワケ無いだろ?」
「あ、みっけ!うわ!わぁ!」
在る筈の無いコントローラーを手にした香月がバランスを崩し、椅子の上から上体を此方がわに捻って倒れて来る。
「香月!」
落ちて来る香月を正面から抱き止め、そのままキツく抱き締める。
香月の肩に顎を乗せ、香月の首筋に唇が触れると涙が零れた。
「あいたたた!ゴメーン!お兄ちゃん!じゃあね!」
コントローラーを手に部屋を出て行く香月の後ろ姿を見送って、小さく呟く。
「ああ、さようなら…香月」
頬を伝う涙の意味は、もう幾度となく繰り返された死別の涙だと……分かっていた。
深夜、香月の部屋を訪れる。
ベッドの上では、愛しい妹が眠るように息を引き取っていた。
「……っくっ…うっ…うくっ…うぁあ…!」
香月の亡き骸を抱いて、獣の咆哮のように激しく嗚咽を漏らす。
数え切れない程の愛しい人の死を見てきた。
だが、慣れる訳がない。いつだって引き裂かれるような苦しみに魂が悲鳴をあげる。
「ごめん…!ごめん香月…!ごめん、ディアーナ!何度君を苦しめたら俺は……」
いっそ、俺が君と結ばれるのを諦めてしまえば、神はディアーナを輪廻から解放してくれるのだろうか?
無理だ……無理だ……!諦められない!
香月を抱き締めたままの廉の身体に亀裂が入る。
ガラスを叩いてヒビを入らせたように、廉の身体中を無数の亀裂が埋めてゆく。
身体が砕ける寸前、だらりと下がった香月の手の先にあるゲームに目が行く。
━━━まさか……そこが次の世界か……?まさか、そんな…━━━
ピシピシッ…パリン!
廉の身体は僅かに笑んだまま砕け散り、その破片は輝きながら光の粒子になり、やがて消えた。
そこには生まれてからずっと一人っ子だった瀧川香月の亡骸だけが横たわっていた。




