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60# テントでおかんと

テントの中で目を覚ましたディアーナは、自分が簡易ベッドに寝かせられていると気付く。

身体を起こすと、ベッドがギシギシ軋む音がする。


ベッドの軋む音に気付いたスティーヴンがテントのドア…がわりの幕をノックする。


「ディアーナ嬢、起きたのか?」

「殿下、お入りになって。あの後のお話を聞かせて下さい。」


幕をめくり、スティーヴンが中に入って来た。

テントとは言え、意外に広めで天井も多少は高い。


「まずはディアーナ嬢…無事で何よりだ…気を失っていたが、傷も無く……だが、こう…君という人は不注意が過ぎると言うか…いくら、石頭だとは言え、魔物に頭突きを食らわせ、なのに落石で気を失うとか……」


お説教が始まった。しかも長い。

師匠がお父さんなら、スティーヴンはおかんだ。

それに石頭は余計なお世話だ。


黙ってお説教を聞いていたが、聞き疲れたディアーナが子供みたいに頬を膨らます。


「…殿下、くどいです。…わたくしの元婚約者が、こんな口うるさいとは思いませんでした…殿下は、もはや、おかんです。」


「…私も、元婚約者の令嬢がこんなのだとは思わなかったよ。」


こんなのだとは、どんなだ?と追及したかったが、後が怖いので我慢する。


殿下、おかんの意味分かってらっしゃるのかしら?


「とにかくだ、君が気絶したせいで大変な事になった。まずは、君が気絶したのが何らかの攻撃によるものだとパニックに陥ったレオンハルト殿が、この町をプチすると言ってきかなくなり。」


うへぇ…


「私が、レオンハルト殿を止めてくれとジャンセンに頼んだらシレっと『いいんじゃないんですか?人間の町のひとつや2つ』と言い出して。…そうしたらウィリアさんが、『町には善良な方もたくさん居ます!お慈悲を!』と泣いてすがり…。」


うはぁ…


「それより早く浄化しろと、ジャンセンに尻を叩かれたレオンハルト殿が浄化をしに向かおうとしたのだが、途中で魔力が尽きて直立不動のまま倒れて…」


ひぁあ…


「それを見て怒ったジャンセンは倒れたレオンハルト殿の頭に回復薬を叩き付け………これが、あの鍾乳洞ではなく、全て町に戻ってからの会話で…早い話が、町に居づらくなったのでな…。」


それでテントなんですね…。ギャラリー凄かったろうな…。


「……面目ないです。」ベッドの上で土下座致しました。


「ジャンセンには、ウィリアさんをラジェアベリアに連れて行ってもらった。彼女に、この町は居づらいだろうから、しばらくは王城で保護するつもりだ。」


王城…王都に向かったと言うのか…王都までは、かなり遠い。ディアーナ達も乗り合い馬車や徒歩で、何日も掛けて旅をしてきた。

旅に慣れてないウィリアさんを同行させるなら尚、時間を要する事だろう。


「では当分、師匠…ジャンセンには会えませんのね…。」

「転移魔法で、さっき帰って来たみたいだがな。」


スティーヴンが、遠い目をしている。

「転移魔法は使えないって…言ってたんだ…確かに言ってたんだ…君を助けに向かう時に!なのに…!」


相変わらず、おちょくられていますのね…殿下は…。



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