6# お父様…
修復人と名乗る者を創造主の御子だと言う王は、彼が何者か理解しているようだ。
王太子であるスティーヴンはおろか、王以外の誰も彼が何者かは解っていないが、王自らがレオンハルトの前に赴き、両膝を床につけ右手を胸に当て頭を下げるのを見ると、回りの人々も同じように膝を折って胸に手を当てる。
それはこの世界での、神への祈りの儀式。
私とレオンハルト以外の全ての人が頭を下げ祈りの姿勢となると、ダンスホールは礼拝堂になったかのような厳かな空間となる。
そんな中、空気を読む気の無いレオンハルトがサラリと言ってのける。
「で、惚れたからディアーナ連れてくわ」
はい?何が「で、」なんでしょう?神どころか、勇者どころか、ただのチンピラでは?
「ええい、待たんか!創造主だか何だか知らんが、王族に嫁がせる筈のわしの娘を、どこの馬の骨かも分からん男に連れて行かせるか!」
ディアーナの父親である侯爵が立上がり、目を血走らせ唾を飛ばし喚き出す。
━━━お父様は私を、まだ王族にする事を諦めてないのね……
レオンハルト様が現れなくても婚約は解消されていたのに……
情けない━━━
軽蔑にも似た感情に、知らず知らず眉間に皺が寄る。
「陛下がかしずくから、どのような身分の高い者かと思えば…ただの無頼人ではないか!そのような男に娘を渡すならスティーヴン王太子ではなくとも弟君にでも…!さぁ、来いディアーナ!」
目を血走らせた父は、ディアーナの腕を掴もうと手を伸ばした。
「よさぬか!ディングレイ侯!!無礼だぞ!」
王の声が掛かるより先に、侯爵の身体は動かなくなっていた。
床から出た細い蜘蛛の糸のような物が身体のあちらこちらに幾重にも巻かれ、その場に縫い付けられている。
「一応俺の義父親になる人だからね、痛い事はしないよ」
父は動きを止められただけであった。口にも巻かれた糸の奥で何かモゴモゴ呟いている。
私と王が安堵の溜息をつけば、レオンハルトが柔らかい笑顔をこちらに向ける。
それから今度は、嘲笑を浮かべながら父を見た。
「でもな第一王子が駄目だから第二王子に嫁がせるとか、俺のディアーナを道具扱いするつもりなら……ディアーナの父親だろうが関係無い。消すぞ?この国ごと」
射殺すような視線を受けた父は、立ったまま泡を吹いて気絶していた。
陛下も苦悶の表情を浮かべながら胃の辺りを押さえている。