56# 姫を抱いたヒーロー
鍾乳洞の天井に開いた穴から、月の光を背に舞う様に降りてくる男達。
颯爽と現れたスティーヴン王子。立派です。ステキですわ。
颯爽と現れた師匠…ジャンセン…。ヒーローみたいでカッコいいです。
うん、レオンハルト姫を横抱きにしてますし。
「ほら!あのディアーナのビミョーな顔!だから嫌だったんだよ!つかもう下ろせ!」
プリンセスレオンハルト、ご乱心。暴れてヒーロージャンセンから降りる。
「あなたの痛む足では間に合わないと思ったので。実際、走るとか言って、歩くのもままならないじゃないですか。」
ハッと鼻で笑う性格の悪いヒーロージャンセン。
そんなバカップルの言い争いを無視して、スティーヴンは倒れたウィリアに駆け寄る。
ウィリアの身体を起こし、その冷えた身体に外套を掛ける。
うん、一番マトモだわ。さすが殿下。
「レオンハルト様、大丈夫ですよ?わたくし、そういう趣味にも理解はある方ですの。」
蛇女の腕に抱かれたまま、生ぬるい目をレオンハルトに向けてあげる私。
「ほらな!スゲー危機に瀕しているのに、それよりコッチ面白がる奴なんだよ!妹は!」
ほう…妹とな?いや、さっき師匠のお膝でお昼寝した時から、何となく思い出していたわよ。
すべてではないけれど。
「遊んでる場合ではないですよね、とりあえずディアーナ嬢に被害が及ぶ前に倒しましょう!私が倒すので、レオンハルト様に瘴気の浄化は任せますよ?私、出来ないんで」
刀を構えたジャンセンが早口で言う。ジャンセンに「分かった!」と頷いたレオンハルトが、何かに気が付いたように声を上げる。
「はぁ!?お前、新しい修復人じゃねーの!?瘴気を浄化出来ないって…!」
ジャンセンの返事を待つ間も無く、蛇女が攻撃を仕掛けて来る。
「おしゃべりは終わりよ!よくも、私の邪魔をしてくれたわねぇ!」
レオンハルトとジャンセンの間に鞭のようにしなる、巨大な尾が落ちて来る。
地面が抉れ、小石がつぶてのように飛散する。
「あぁ、忌ま忌ましい!この古いガタの来た身体を棄てられると思ったのに!10年待って、やっと新しい身体を手に入れられると思ったのに!!ガキどもがぁ!」
女は美しかった顔を醜悪に歪ませる。
所々、皮膚が剥げ落ち腐敗が始まっているようだ。
ディアーナの首は女の片腕に捕らわれ、足が空を彷徨う形になっている。女が攻撃のため激しく動く度に首が絞まる。
「ババァは早く逝きなさい。」
女の激しい攻撃を、軽やかに余裕綽々で全てかわすジャンセンは女の体力を削ぐように、わざと浅く傷を負わせながら女の身体を探るように見ている。
「うるさい!死ね!ガキぃ!」
━━━師匠、何か探して……あ!本体!━━━━
女は暴れ回り、鍾乳洞の中を長い尾で叩き回る。
ツララ状の鍾乳石が槍のように降って来るのをジャンセンは刀を使って全て払い落とす。
━━━今更だけど、師匠ってただの影じゃないわよね、一人で魔物とやり合ってるし…すんごい強い冒険者でも、魔物相手に一人って難しいもの━━━
レオンハルトはスティーヴンとウィリアを鍾乳石の雨から守るように防御の膜のような魔法を使っている。
その表情はかなり辛そうだ。
━━━いつも私には平気なフリして…弱音を吐かないで…本音も隠して………バッカじゃないの!?カッコつけしいが!━━━




