50# 聖女でなくとも…。
翌日の朝
レオンハルトはスティーヴンを伴って教会に来ていた。
不測の事態に備えてディアーナは連れて来ていない。
ジャンセンに任せてある。
教会の会議室で、鍾乳洞の氷室での出来事をウィリアを始め、町の長達に報告した。
ウィリアは自身の母が魔物になった悲しみに泣き崩れ、町の長達は、事が終息していない事を知ると、不安と恐怖に震える。
「た、倒してくれるんだろう!?化け物を!」
誰かの声があがる。
「倒すつもりではいるが…現れない限りはなぁ…まぁ、町の皆に、なるべく海に近付かないようにと…あと、ウィリアも気をつけてくれ。じゃ!」
レオンハルトは、騒ぎ立てた町の長達を無視してさっさと教会を出た。
━━━かつて、巫女として崇拝していた女を化け物と呼ぶのか…しかも娘の前で…なあんか、イラッとする━━━
レオンハルトの思考がそのまま顔に出ていたようで、スティーヴンも引き留めはしなかった。
帰路についている中、スティーヴンがレオンハルトに話しかけた。
「…レオンハルト殿…差し出がましい事だと分かっているのですが、今日ここにディアーナ嬢を連れて来たくなかったからとは言え、ジャンセンに彼女を任せて来るのは…私は反対でした。」
先日のジャンセンとの事を思い返すだけで、スティーヴンは背筋がゾクリと粟立つ。
ハッキリと自分を殺すと言い切った、人外の何か。
レオンハルトと同じ、神の御子だとしても、もう恐ろしさしか感じない。
「何だ王子サマは、アイツが何者か分かってんのか?」
「正確には分かってませんが、レオンハルト殿と同じ世界を知る者だと思ってます。…父に仕えているのが信じられませんよ。」
レオンハルトが、ふ、と何かに気付いた顔をする。
「王さんには仕えてないぞ?と、言うか王都から来た影、シャンクに着く頃にはジャンセンと入れ替わっていたしな」
「ええっ!?」
驚きを隠せないスティーヴンに苦笑しながら手の平を左右に振るレオンハルト。
「だいたい、あんな化け物を人間が飼い慣らせる訳がない。」
「レオンハルト殿が化け物と言ってしまうのですか」
あなたも同じでしょう、とでも言いたげにスティーヴンに顔を見られたレオンハルトは、ポツリと呟いた。
「……化け物だろ?今の俺より強いし…彼女を…欲しがっている…」
「そう言えば、この前ディアーナ嬢と口付けをしていましたよね?あの時、ディアーナ嬢がレオンハルト殿に何か流れたとか、不思議な事を言ってましたが」
思い出したようにスティーヴンが言った言葉に、レオンハルトは忘れていた可能性と、嫌な想像をしてしまう。
━━━身体を完全に回復させるには、聖女として目覚めたディアーナと身体を重ねる必要があるが……僅かな回復だけなら、聖女に目覚めていないディアーナを抱くだけでも……━━━━




