49# 零れ落ちる命
一人、自室に籠ったレオンハルトは窓の方を向きベッドに腰掛け、手にした回復薬の入った小瓶を眺めていた。
入江でジャンセンに言われた事を考え続ける。
━━━父…創造主は、俺に見切りをつけたって事か……?新しい修復人を生み出し、俺が居なくなるのを待っているのか…━━━
新しい修復人と、聖女…
頭の中で、ジャンセンとディアーナが寄り添う場面を想像してしまう。
心臓が潰れそうになる。
自分以外の誰かの物になる位なら、その命を奪ってしまいたいとも思う。
出来る訳も無いのに。
レオンハルトはシャツを脱ぎ、ジャンセンから受け取った薬を飲み干した。背後にスティーヴンが居た事に気付かずに。
「レオンハルト殿…」
スティーヴンの声にベッドから立ち上がり振り返る。
スティーヴンが目にしたレオンハルトの身体は、ガラスで出来ているかのように透明感を帯び、胸元から下に向け激しいひび割れが走っていた。
そして亀裂の激しい箇所から、光の粒子のような欠片が落ちてゆく。
「何ですか、その身体は…!」
あまりの痛々しさに声をあげたスティーヴンは、自分で自分の口を押さえる。
「そんな身体で、戦っていたんですか?旅をしていたんですか?!…!く、薬…!ジャンセンが持っていた薬なら…」
いつ、完全に割れるか分からない、ひび割れたグラスに命と言う名の水を入れ、滲み出る雫を無理矢理手の平で留めようとしているような、危ういレオンハルトの身体に混乱したスティーヴンが薬の事を思い出し口にするが、レオンハルトは緩く首を横に振った。
「それを、飲んでこれが限度なんだ…俺の身体を治せるのは聖女だけだからな…」
レオンハルトが愛し、レオンハルトを愛する者。
それが聖女の条件だと、旅に出る前に聞いた事を思い出す。
「だったら、さっさと恋人でも何でも作れば良かったんじゃないんですか!?あなたを好きになってくれる女性なんて、いくらでも居るでしょう!?」
私は何に対して怒りをあらわにしているのだろう?
スティーヴンは自身に苛立つように唇を噛み締める。
「オフィーリアになって、ふざけてる暇があったら、さっさと貴方の聖女になってくれる女性を探せば良かったんだ!」
レオンハルトはスティーヴンを見て、薄く笑う。
「それは無理だ。俺が愛しているのはディアーナだけ。彼女以外はあり得ない。…彼女の魂がこの世に生れた瞬間から…だから彼女しか俺を治せない。」
「……魂……?何年…前の話ですか?…ディアーナ嬢が生まれた16年前とかじゃないですよね…?」
何を聞いてるんだ、とスティーヴンは自身に思う。
でも確認せずにはいられなかった。
レオンハルトは静かに答える。
「千年たった頃から数えていない…」
「あなたは…馬鹿ですか…?」
千年以上もディアーナだけを想い続けていると言う。
そんな一途で苦しい想いを隠し、なぜ茶化すようにしか本人に愛していると言えない、本音を語らない。
どうしようもない馬鹿だ。




