42# 大蛇と女
女はレオンハルトの剣を片手で受けた。
正確には、氷を纏った左手で剣を受けた。
「うふふ、娘を知っているの?私にそっくりって事は、さぞ美しく成長したのでしょうねぇ…会いたいわぁ」
女の手から、剣を伝うようにパキパキと冷気がレオンハルトの腕に上がってくる。
「ああ、少なくとも娘の方が母さんよりは、ずっと美人だな!」
女の手から剣を離し、強く振って腕に張り付いた氷を払い落とす。
払い落とした氷がキラリと光り地面を照らすと、無数の人骨が散乱していた。
「男はメシか、そんな偏食の母さんなんか娘はゴメンだと思うぞ」
再び剣を構え、次は剣に炎を纏わせる。
「大丈夫よぉ、私になれば、そんな悩み無くなるわぁ…若い身体が…肉体が…欲しいのよ!!」
女は口を大きく開く。
唇の両端から耳に向けてプチプチと頬の肉が裂け、二又に別れた赤い舌先が延びて来る。
「連れて来て!私の娘!ううん、あなたを食べてから迎えに行くわ!」
長い舌先と、長い身体を鞭のように使い、前後からレオンハルトを捕らえようと激しく打ち据えて来る。
「っと!あぶねーなぁ!ババァ!」
紙一重で何とかかわしながら、目を凝らし女の身体を探っていく。
瘴気の濃い部分、黒ずむ魂が見える場所を探すが、身をかわすのに意識を取られ、中々見つけ出す事が出来ない。
━━━まずい、俺の身体が万全じゃない…!この程度の魔物に手こずるなんて……━━━━
「あら…」
女の動きが止まった。
「あらぁあ!素敵な器が側に居るのねぇ!」
裂けた頬は元に戻り、美しい女に戻った魔物はレオンハルトの顔をジイイっと眺めた。
「藍色の髪に、金の瞳…神秘的で美しいわぁ…欲しいわぁ…」
レオンハルトの心臓が鷲掴まれる。
━━━記憶を読まれた?何の抵抗も出来ずに俺が!?ディアーナの事を知られた!?━━━━
冷や汗が頬を伝う。記憶を読まれ動揺し、その隙をつかれ身体が硬直させられる。
「しまっ……!」
ストンっ…
レオンハルトの足元に、切り落とされた女の片腕が 転がった。




