40# 初めての口付け?
「俺は……死なないんだ……死ねないと言うか……」
「え?……そうなんですの…?」
いきなり何の告白だろうか。
でも、人間ではないと言ってるから、そうなのかしら?
ディアーナはレオンハルトの告白の意味を考える。
「死ねないけど、痛いし、傷付くし…とにかく大変なんだ」
「それは…どんな苦痛を受けても、死で解放されないと言う意味ですの?」
言いたい事は何となく分かるが、やはり意図が分からない。
大変だけで終わる話でもないと思うが。
確かに、不老不死だからって無敵ではないと思うけど…。
「……ごめん、ディアーナ、少し力をちょうだい」
レオンハルトは右腕で、向かい合ったディアーナの細い腰を抱き寄せると左手でディアーナの顎先を上向かせ、唇を重ねた。
突然の事に抵抗も忘れ、立ち尽くす。
側に居たスティーヴンも同じように立ち尽くしていた。
「ありがとー!これで頑張れるー!」
唇が浅く重なるだけの短いキスを終えると、レオンハルトは満足げに、腕を振って入江の方に向かっていった。
残されたディアーナとスティーヴンは呆然と道の真ん中に立ち尽くしていたが、ディアーナが我に返って慌て出す。
「戦う為のパワーが出るおまじないとかじゃない、すごいまずい!ヤバイ!」
「そうか…初めてのキスは不味かったのか…レオンハルト殿が気の毒だな…」
「ちがーーーう!!」
「上手く言えないのですけど…唇が触れた瞬間、わたくしの中からレオンハルト様の方に何か流れたんですの!」
ほんの一瞬にも近い、短いキスだった。
それなのに、大量の水を流し与えたようにゴッソリと何かが流れ出た。
私…何かを見落としてる…!
「私も行くわ!氷室!」
「えっ!それは、危ないだろう!」
スティーヴンが慌て出す。
剣を扱えるスティーヴンでさえ連れて行けないと判断したレオンハルトの元に、戦う術を持たないディアーナが行くなど。
「レオンハルト殿が止めたのに、行かせられる訳ないだろう!」
「知らなかった事にして下さい!」
「そういう問題じゃない!」
往来の真ん中で押し問答が始まる。人目も憚らず大声を出す二人の前に、黒髪の青年が綿毛が落ちてきたかのように、フワリと不意に姿を現した。
「師匠!」
「師匠!?ジャンセン…?」
ジャンセンはこめかみを指先で掻きながら少し うーんと唸る。
「師匠呼びは駄目って言いましたよね、ディアーナ様…」
スティーヴンの前だからか、普段の口調ではないので違和感がある。やがてジャンセンはパンと手を叩いた。
「私がレオンハルト様の所に行きましょう。多少の魔法も使えますし、戦闘に関してはお二人様よりは役に立てるかと。」
スティーヴンとディアーナは顔を見合せ頷いた。
「すまん、ジャンセン…頼んだ…」
「師匠…お願いします…」
「……ディアーナ様、帰ったら覚えてなさい」




