4# この場から逃れたい
話は数日前にさかのぼる。
ダンスホールを出ようとした私を呼び止めたのはオフィーリア子爵令嬢。
たった今、私から婚約者である王太子スティーヴンを奪った相手。
「婚約を破棄なさったのですよね?」
「え…えぇ…そうですわね」
誰のせいだと思ってんだと、わたくしの中の私が悪態をつく。
ドレスの裾を翻しながら私の前に駆け寄ったオフィーリアは、私の手を取り片膝を床についた。
「ならば私と結婚して戴けませんか?ディアーナ嬢…私の聖女」
ドレスを着た美少女が騎士のように跪き求婚する様相に、その場が凍り付く。
私も凍り付く。と言うか石化する。
そして皆の視線が求婚を受けている私に集中する。
「そ、そ、そんなちゅ、趣味はござ、ございませんわよ!!」
噛みまくりながら、はしたなくも大きめの声で答える。
しかも声、裏返ったわ。
婚約者を奪った相手は、まさかの私をお姉様とか呼びたい趣味の人?
オフィーリアに取られ…いや、囚われた手が冷や汗をかいている。
どうやら私は、スティーヴンに婚約破棄を言い渡された時よりもパニックに陥っているようだ。
「ディアーナ…」
鈴が鳴るような愛らしい声で、愛おしげに私の名を呼ぶ。
オフィーリアは目を細め頬笑むと、その姿を少女から青年に変えた。
「!!!????」
ダンスホールに居る全ての人が目を見開き、声を失っている。
淡いシャンパンゴールドのドレスを着た金髪の美少女は薄い光の粒子に包まれ、霧が晴れるように光の粒子が消えると
白いシャツにパンツスタイルで長いブーツを履き、濃紺のマント身に付けた金髪の美しい青年にその姿を変えていたのだ。
そして青年は私の手の甲に唇を落とす。
「俺の名はレオンハルト、旅の剣士です」
はぁ?旅の剣士が女装(?)して一国の王子をたぶらかすとか、何なの?
私から婚約者を奪っておいて、次は私にプロポーズとか何なの?
もう一人称俺だし、聖女だと言われていた元オフィーリアが、悪役令嬢の私の事を聖女とか言っちゃってるし何なの?
あぁ……カオスだわ……理解出来るか、んなもん……帰りたい……。