39# 先代の巫女
「お待ち下さい、剣士殿!」
円卓に着いていた一人が立ち上がる。
「何だよ、巫女の占いだか予言だかで、何とか出来そうな俺達が呼ばれて来た、後は厄介ごとを片付けたら終わる話なんだろ?」
「そ、そうなんですが……行方不明は…もう一人居るのです」
町の長らしき老人が怯えるように言った。テーブルの上で組んだ手が、カタカタと震えている。
「?その様子だと、被害者が増えたかも知れないって意味ではないようだな…」
ドアを開いた状態で立ち止まり、真剣な顔で話を聞くレオンハルト。
…………の、片腕の中に私は捕らわれていた。
━━━ちょっと!待って!何ですの!この状況~!ウィリア様に見せ付けてますの?町長さんの話が頭に入って来ませんわ!静かなる戦い何処へ!?━━━
「…あーいつものレオンハルト殿に戻ってくれたようで何よりだが……町の男性が分かっているだけで五名行方不明だと言ったな、もう一人というのは?」
ディアーナを片腕で抱き締め、つむじに鼻先を埋めるレオンハルトの通常運転姿に、やれやれとばかりにフゥと息を吐きスティーヴンが尋ねる。
レオンハルトに冷たくあしらわれ、ショックを隠せないで黙りこくっていたウィリアが口を開いた。
「母ですわ……わたくしの母の、遺体です。母は先代海の巫女で、十年前に他界しております」
「十年前に亡くなったご母堂が行方不明とは?」
スティーヴンが説明を求めると、言い澱むウィリアに代わり別の初老の男が話し出した。
「先代巫女様は、ウィリア様に似て美しい方でした。なので…若くして亡くなった先代様を入江の先にある氷室に…御神体として安置したのです。」
「氷漬けにしたって事か?いい趣味だな、それは」
吐き捨てるように言ったレオンハルトが少し考える素振りを見せ、重い口を開く。
「行方不明になった奴等は…もう諦めろ、それとウィリア、お前の母親の遺体もな」
教会から出ると、レオンハルトは急いで氷室があるという入江に向かうと言った。だが……
「やはり、ディアーナは宿に置いて行く。スティーヴンもな。」
レオンハルトが抱き締めていたディアーナを腕から解放し、正面から見詰めた。
「イカやカニが巨大化した魔獣の仕業かなぁと思っていたが…今回は魔物の可能性が高くてな…普通の人である二人には、ちょっと危険なんだよ」
冗談を交えながら、何なら軽く笑んで見せながら言うレオンハルトだが、翡翠の瞳の奥に怯えが見える。
「……お強いレオンハルト様が……そんなに手強いんですの?魔物というのは……」




