38# 癒しの聖女とは…?
「まぁ…聖女になられるかも知れないのに魔力がございませんの?あらあら…癒しの聖女様が…」
魔王や、倒すべき悪の権化のような存在が確認されていない此方の世界では、それを倒す勇者という存在も無い。
あるのは、現役の国々の頂点に在る者の中でだけ語り継がれる創造主の御子という修復人の存在。
だが、それは一般的には知られていない。
此度のレオンハルトの立場は魔法を使って魔獣を倒せる強い冒険者である。
だが、聖女というものだけは、その存在が確認された訳でもないのに何処かに居る筈だとか此方の世界に住まう人々の間で思われていたりする。
全体的に信奉者が多い故に偽者も多く現れ、曖昧だった聖女の定義が「癒しの」になってしまっている。
「まあ…癒しの力も使えないのでしたら、レオ様のお側にいらっしゃる意味は…ありませんわねぇ…」
勝ち誇ったような言い方をされた。
だが、そんな言い回しよりも私の精神を揺さぶったのは
「……やめて……レオって…」
私の言葉じゃない。
レオンハルトが愛称呼びされた瞬間、私の中の誰かが声をあげた。
小さな小さな声をテーブルの遠く離れた場所からレオンハルトが拾う。
しなだれかかるようにレオンハルトの身体に触れるウィリアの手を左手を動かして払う。
「俺に触らないでくれ。不快だ。」
レオンハルトは席を立ち、扉に向かう。
「ディアーナ、スティーヴン、行くぞ。」
相変わらず素っ気ない。まだ静かなる戦いは続いている。
だけど……
あなた、私を見てくれているのね…。
涙が一粒こぼれた。




