25#王子だけが見ていた【スティーヴン目線】
かつて聖女だと思っていた、恋心さえ抱いていた少女が魔女のように見える。
あの少女がレオンハルトと言う名の、元々が恐ろしい男だと分かっていても、少女の姿を借りた彼の怒りは凄まじかった。
アジトだの犯罪組織だの、そんな括りを無視して国ごと…いや、世界ごと滅ぼすのではないかと。
「やめなさいレオン!」
隣に居たディアーナ嬢がオフィーリアに呼び掛ける。
あの喧騒の中を、凛とした力強い声音が通る。
そこに居た彼女は、私の知っているディアーナ嬢ではなかった。
深い藍色の髪に夜露のような小さな光をたくさん纏い、金色の瞳はまばたきもせずにオフィーリアを見つめている。
その姿はうっすらと光に包まれており、彼女の周りだけが聖域であるかのようだ。
夜空の月を体現したような、聖女を越えて女神かと見紛う程神々しいディアーナが居た。
彼女は一言だけをレオンハルトに告げ、すぐに、意識を手放してしまったのだが…
崩れ落ちたディアーナ嬢を抱き止める。
淡い光は消え、いつものディアーナ嬢が腕の中に居た。
「ディアーナ!ディアーナ!待ってくれ!行かないでくれ!」
オフィーリアの姿からレオンハルトの姿に戻った彼は、砦の高い場所から飛び降りて来て私の腕からディアーナ嬢を奪い取った。
あんなに必死の形相の彼を見るのは初めてだった。
彼女が誘拐された時でさえ。
「頼むから、行かないでくれ…もう一度俺をレオンと呼んでくれ…お願いだから…ディア…」
強く強くディアーナ嬢を抱き竦めながら、人目もはばからず嗚咽を漏らす彼の悲痛な願いが、私の心に深く突き刺さった。




