22# 王子は思う【スティーヴン目線】
ディアーナ嬢と私が武器屋を探している際、女性の悲鳴を聞いた。
ディアーナ嬢と共に声のする裏通りへ向かい、男達に囲まれてている少女を助けに入った。
男達は、暴れる様子は無く、ただ不自然な程の威嚇をしてきたので、私は面倒だなと思いながら少女を背に庇うように男達の前に立ちはだかる。
悪態をつきながら男達が居なくなった後に振り返ると、私の背後にいた少女が居なくなっており、離れた場所に居た筈のディアーナ嬢も姿を消していた。
「なっ…!」
何がどうなったか分からない、表通りに出て来て狼狽える私はさぞ滑稽な姿を晒していたのだろう、道を行き交う人々の視線が冷たい。
「……私は殺されるな……レオンハルト殿に」
「殿下」
人混みの中から呼び掛けられる。
「振り返らずにお聞き下さい、本日、この地の人身売買の組織を壊滅させるとの、陛下からの御命令です。」
「人身売買!?ディアーナ嬢は、その組織とやらにさらわれたと?」
「おそらく……そして、その際には御子様に好きなようにさせろとも。」
嫌な予感がする…予感と言うよりは、もう確定ではないだろうか。
「ディアーナ嬢を拐わせたな…?レオンハルト殿を利用する為に…それは、父上の判断か?」
「いいえ……私の一存でした事……陛下の憂いを無くす為に。」
父の付けた影は優秀だ、闘いに於いての実力も申し分無いが、何より忠誠心が篤い。
「馬鹿な事を…!レオンハルト殿が許す訳がないだろう!死ぬ気か!」
思わず振り向いてしまった。
スティーヴンの背後に立っていた黒髪の青年は、逃げも隠れもせずに静かに目を伏せこうべを垂れる。
「殿下には、ディアーナ様を避難させて欲しいのです…私の事はお構い無く、レオンハルト様に賊の一味として殺されていたとしても何も見なかった事にして下さい。」
自身の命まで、ないがしろにする事が忠誠心というものなのか?吐き気がしそうだ。
「アジトまで案内致します。こちらへ…」
思う事は多々あるが、それを言った所で……
私は無言で青年の後に着いていく事にした。




