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生前やっていたゲームの悪役令嬢に転生した私はヒロインに求婚されましたが、ヒロインは実は男で、私を溺愛する変態の勇者っぽい人でした。私、前世でナニかやらかしました?  作者: DAKUNちょめ
金の髪に翡翠の瞳。天使の様な乙女ゲーム主人公オフィーリア

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この舞台の脚本は、多分黒い人。

月明かりすら無い闇夜の中庭にて、光源がぼんやりと頼りなげなランタンの灯りのみの暗がりに居りながら、不自然な程に眩く金色の髪を輝かせているオフィーリアはニッコリ微笑んでエティロールの顔を覗き込んだ。


「お、お前はハワード殿下が連れて来た…フローラの偽者…。」


エティロールは、ハワードが連れて来た偽フローラであるオフィーリアに対し、自分と同じハワード側の仲間だと解釈しているようで、声を掛けてきた相手が偽フローラだと気付くとホッと安堵の息を漏らす。


「ちょうどいいわ、私は学園から一旦離れるからお前、私を見なかった事にしなさい。ロザリンドが時々学園を脱け出して港に行ってるらしいから、今度は学園の外であの女をやるわ。」


「……やるわ?諦めてませんの?男達にロザリンド様を襲わせる事を。」


「諦めて無いわよ!私は、寮母なんかで終わらないわ!ハワード殿下に働きを認めて貰う為にもやるわ!!」


オフィーリアは首を傾げて「まぁ…」と呟き、困った子どもを見るような柔らかい表情を見せたが、やがてニィと口角を上げて笑い、壁の上に目線を送りながら言った。


「そうか…やんのか、ババァ。……だってよ!ディアル!」



街中に在る学園を外界から隔離する様に、学園の広大な敷地を囲う塀という名の高い高い壁。

その壁の上から踊る様に飛び降りたディアルが、エティロールの前にタンッと片足で着地した。

いつの間にか現れていた月がエティロールの前に立つディアルを照らす。


「お、お前は確か、海賊騒ぎを起こした…転入生!!」


寮母であるエティロールは男子生徒であるディアルの名前までは知らない様だが、学園内で海賊騒ぎを起こして有名人になったディアルの目立つ姿は見知っていた様で、行方不明となったディアルが此処に現れた事に驚愕して後退った。


「ババァ、さっきから俺やディアルの事を何度もお前呼びしやがったよなぁ?いー根性してるぜ。」


「え!?え!?え!?な!?な!?な!?」


およそ天使の様な外見とは結び付かないオフィーリアの物の言い方にも驚き、混乱したエティロールはオフィーリアとディアルを何度も何度も交互に見る。

首が左右に激しく動き過ぎて、何だか玩具の首振り人形みたいになっていた。


「人を陥れてでも学園というこんな狭い世界で出世したいと言う欲深いマダム、俺が貴女をもっと広く、楽しい世界へご案内しましょう。」


ディアルはエティロールに顔を近付けると彼女の頬に指先を当て、美少年と呼ぶに相応しい美しく整った顔に優しい笑みを浮かべる。


「た、楽しい……世界?」


美少年であるディアルの顔が近付き、甘い声音で口説かれる様に囁かれる。

年甲斐も無く、思わずときめいてしまいそうなエティロールの背中と膝裏にディアルが腕を回し、エティロールをお姫様を扱うかの様に横抱きした。


「きゃあぁあ!!」


エティロールはまるでうぶな少女の様に顔を赤く染めて、恥じらう乙女の様な高い頓狂な声を上げた。


「さぁ、マダム!まずは学園を出たかったのですよね?それから港ですか。エスコート致しましょう!超絶イケメンのこの俺様が!!」


壁の前に立つオフィーリアが右腕をスッと横に延ばし手の平を上に向ける。


エティロールを姫抱きしたディアルは、少し助走をつけてオフィーリアの右手の平に片足を乗せ、オフィーリアの手をジャンプ台がわりにしてそのまま数メートル、真上に高く飛び上がった。


「ぎゃああああああ!!!!」


先ほどまでの恥じらう乙女の様な声は消え、エティロールの口から老婆の断末魔の様な声が出る。

高く飛び上がったディアルは塀の上に飛び乗り、そのまま塀の外である街に向け飛び降り、走り出した。

エティロールを姫抱きしたまま家屋の屋根に飛び移り、屋根の上を走り、屋根伝いに港町を目指す。

絶叫マシン並の、ごっついスピードで。


「わはははは!!マダーム、まだ寝ちゃ駄目だぜ!?俺のエスコートは始まったばかりさ!!あははははは!」


エティロールはディアルの腕に抱かれたまま失神状態になってしまった。

泡を噴いて首がカクンと後ろに倒れたエティロールを抱き上げたディアルは10分足らずで港に着いた。


「寝ちゃ駄目だって言ってんのにー。んもぉ!つまんない!」


港町には数人乗りの船が待機しており、そこにはディアルがスリーと呼んだ海賊ドラゴンの側近の青年が、ランタンを提げて数人の海賊と居た。


「ディアルさん、こっちです!」


「あー、ありがとう!じゃあマダム渡すわ!ババァだけど女性だからね?暴力は駄目って言っておいてね?ババァだけど!」


「デュラン殿下は、いくら腹が立っても女性に暴力を振るう方ではありません。女性と言うか…クソババァだけど。」


「うふふ!いーわね、スリー!その性格好きだわ!……さて、わざわざ呼びつけといて悪いけど、また何度か此方に来て貰うからねってデュランに伝えておいてね。」


頷くスリーに失神したままのエティロールを渡したディアルは、スリーの船が港を離れ大きな海賊船に吸い込まれる様に消えて行く様子を見ていた。


「愛するロザマンジの純潔を守る為に来いって言ったら、飛んで来たわねーデュラン。愛してるわねぇ~!早く二人を逢わせてあげたいけど……もう少し、舞台を整えさせて貰うわよ。」


一仕事終わったディアルは港町を歩き回り、夜分にまだ明かりのついている酒場を目指す。

ディアルの野生の勘が冴える。

ここに来れば只でメシにありつけると!!


「ゴロー!!居るんだろ!!メシ喰わせろ!!」






女子寮の中庭に残ったオフィーリアは何事も無かったかのように静かにフローラの部屋に帰ってきた。

部屋のドアノブに手を掛けた所で、背後に現れた人物に気付く。


「……あら、ジージョさん。こんな夜更けに、どうしましたの?」


ランタンを片手に持ちオフィーリアの部屋の前に訪れたジージョは、オフィーリアに頭を下げた。


「先ほどは…ありがとうございました。フローラ……さんのお陰でワルトさん達が駆け付けて下さって……お嬢様は無事でした……。」


オフィーリアは不思議そうな顔をして首を傾げる。


「ワルト?あーディアルから話を聞いたヤンチャ坊主ね。俺はそいつとは話した事も無ェな。何で、ワルトが駆け付けた事を俺に感謝すんの?」


「……ワルト様が、お嬢様の警護をするよう姉御に言われたと申しておりましたので。………俺?」


オフィーリアは少し考える。

オフィーリアは学園内で、ハワードに魅了されている者だけを探っていたが途中で考えを改めた。

魔物を生み出す瘴気に敏感なレオンハルトは、瘴気を生み出す可能性のある人の持つ仄暗い感情や欲望等にも敏感である。


ハワードは権力者だ。

常に側に居て魅了する事が出来なくても、欲深い者を餌で釣る事が出来る。

寮の中でエティロールを見掛けた時に、その分かりやすい位にどす黒い負の感情にエティロールがハワードの側の者だと知ったオフィーリアは今日起こる事も予測がついていた。


だが、ロザリンドを助け出すナイト役はしなくて大丈夫だと、ディアルが言った。


「ジージョには話しとくが……つか、分かってるかも知れないがディアルは女だ。あんたは勘のいい女だ。何となく気付いてたんじゃないか?」


「……ええ、ディアル様は悪役令嬢……だったのでしょう?遠い国の王太子殿下に婚約を破棄されて国を追われた。」


「そうそう!それそれ!悪役令嬢ディアーナ!うわ、懐かしい響きだわ!それ!」


ジージョは自分の考えが当たっていた事に納得しつつも、まだ半信半疑状態だ。

国を追われた悪役令嬢ディアーナがどうなったかまでは知らない。

いや、ディアルを見ていれば国を追われた気の毒な筈の令嬢が、アホかと思う程に今を楽しんでいる状態ってのは見て分かるのだけれど……。


「フローラ…さん、とはどの様にして出逢い、どの様にして今の状態に…?一人、野に捨てられた様に国を追われた令嬢が生きて行くのは大変だと、ディアル様が仰有ってましたもの。」


「あ?あーディアーナが苛めていた美少女が俺で、婚約破棄された瞬間に俺がディアーナに結婚を申し込んだ。それからずっと一緒に居る。俺達は夫婦だからな。一人で野に放たれたワケじゃない。」


ジージョがヘラリと笑った。

ディアルが女性だとは何となく気付いていたが…この、偽者のフローラさんは男だったのかと、今、気が付いた。

変態夫婦だったのね、と。


「ランドル殿下はフローラさんが男性だと知ってらっしゃるんですね…ああ、ならばワルトさんの言っていた姉御は…ディアル様の事?」


「違うだろ。ディアルが女だと知ってんのはランドルとジージョだけだ。ワルトは知らんだろ?ディアルは親分と呼ばれていると言っていたぞ?もう一人、ロザリンドを大事に思う女が居たんじゃないか?……俺じゃなくて」


オフィーリアは自身を指差す。


「………!ふ、フローラ様!?で、でも…フローラ様は今、囚われていて……!」


「今回の舞台を創り始めたのは誰だ?女優が芝居を始めたのはいつだ?……その頃から、女優、脚本、監督だったんだろう?……いや、脚本は親父か……ムカつくわ~」


ジージョの目から涙が一筋流れた。


「お嬢様は……幸せになれますか?……フローラ様も、ランドル殿下も…テイラー公爵家の皆様も……私の好きな方達が……不幸にならなければ……」


「欲深いな、ジージョ。自分の幸せを後回しにしたような言い回ししてるが…まぁ、ロザリンドは野に捨てられても直ぐに拾い上げる奴がいる。貴族でなくなる事が不幸だと思わなければ、幸せなんじゃね?…で、お前さんは貴族家のメイドをやめて、海賊達が居る場所でロザリンドの侍女をする事は大丈夫なのかよ。」


ジージョは涙を流しながら満面の笑みを浮かべて答えた。


「そんなの、当たり前じゃないですか!最高に幸せですわよ!お嬢様の幸せな姿を、近くで見られるのですもの!」


「いい答えだわ。ランタンの火が消える前に、嬢ちゃんの部屋に帰りな。」


オフィーリアが微笑んでフローラの部屋に入った。

ジージョは涙を拭い、ロザリンドの元へ向かった。



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