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生前やっていたゲームの悪役令嬢に転生した私はヒロインに求婚されましたが、ヒロインは実は男で、私を溺愛する変態の勇者っぽい人でした。私、前世でナニかやらかしました?  作者: DAKUNちょめ
金の髪に翡翠の瞳。天使の様な乙女ゲーム主人公オフィーリア

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ジージョの独り言。

2年ほど前……

この学園に入学なさるテイラー公爵令嬢ロザリンド様の侍女として、私アリッサはお嬢様と共に、この学園に来た。


………え?誰?アリッサ?それ誰?


そんな声が聞こえた気がするので、あえて偽名を使わせてもらおう。


私、男装も出来る侍女のジージョは、ロザリンドお嬢様と共に学園に来た。


この学園では高貴な家柄の令嬢に限り、侍女を連れての入学を認められている。

それで幼少の頃から歳も近く気心の知れた私に傍に居て欲しいと、お嬢様たってのご希望により、私はお嬢様専属の侍女として学園に来た。


入学したばかりの頃のお嬢様は、婚約者であるデュラン様と暫くお会い出来なくなると言うのに、とても幸せそうな表情をなさっていた。


「学園を卒業したら…って!!きゃあ!!」


入学前の最後の逢瀬で、デュラン様に初めて自分を求める言葉を戴けたとかで、うかれてはしゃいで、それはそれは、こちらが恥ずかしくなる位に照れたりして。


「はいはい、では、学園でしっかり学んで、立派な王太子妃殿下にならなければですわね。ふふっ」


呆れる様に言いつつも、私はこの先、お嬢様がデュラン様と結ばれて幸せになるのだと、それはもう確定された未来なのだと信じて疑わなかった。



学園には、ロザリンドお嬢様のはとこに当たる、ルヴォン男爵家令嬢フローラ様も入学なさっており、元々が仲の良いお二人様は、他の人の目のつかない所で談笑をなさっていた。


後の王太子妃殿下のロザリンド様は、この世にたった一人の王太子妃殿下候補としておらねばならず、フローラ様は自身が王太子妃殿下候補になり得る事を隠しておかねばならない。


学園では互いを見知らぬ他人として振る舞っているお二人が、私と、フローラ様の想い人で幼少の頃からフローラ様と仲の良かったランドル殿下の前でだけ、仲の良い素のままの二人に戻っていた。


「最近……ハワード殿下が何かとわたくしの所にいらっしゃいますの…。兄上と仲良くしている?とか…おかしな事をお聞きになったり…。二人きりで話したい事があるから時間を作って欲しいとか…。お断りしてますけど…。」


ロザリンドお嬢様が、何となく呟いた最近あった事の報告。

それを聞いたランドル殿下の表情が一瞬険しくなったのを、私とフローラ様だけが気付いた。



その時に、ランドル殿下が抱えた不安が、現実のものとなってしまったと知ったのは、学園に来て一年近く経った頃だった。


学園から一度、公爵邸に呼び戻されたロザリンド様は、父君であらせる公爵様から、デュラン殿下が廃太子となり行方不明となった事と、新しく王太子となったハワード殿下がロザリンドお嬢様の婚約者となった事を告げられた。


「承知致しましたわ。」


ロザリンドお嬢様は凛とした佇まいを崩さず微笑み、公爵様にカーテシーをして自室に戻った。

お嬢様は、泣き喚く事も無くただ静かに窓の外を眺めていた。

僅かに唇を震わせながら。


お嬢様は……父君である公爵様の立場も慮って、この残酷な事実を静かに受け入れた。

公爵令嬢側から、王太子の婚約に異議を申し立てるなど、その様に不敬な事は出来ない。


だから、受け入れるしかないのかと……


学園に戻ったお嬢様は、色褪せた花のようにすべてが薄くなっていた。

肌も生気が無い白さとなり、艶やかな薔薇の様だった髪もどこか色が淡くなり、紡がれる言葉も実がなく。


そんなお嬢様の身を心配して、こっそりと会いに来て下さったフローラ様とランドル殿下が、お嬢様の憔悴ぶりに驚き

ランドル殿下は…何も知らずにいるお嬢様を気の毒だと思ったのか、王城であった事を話して下さった。


「ひどい!何なのそれ!」


ランドル殿下の話を聞いて、声を出したのはお嬢様ではなくフローラ様だった。


「ロザリンド、諦めちゃ駄目よ!!デュラン様と結ばれたいんでしょ!?小さい頃からずっとずっと言ってたじゃない!」


「……フローラ……無理……わたくしがハワード殿下を婚約者として認めないと言ったら……テイラー公爵家がどんな罰を受けるか……そんなの…駄目よ…。」


「駄目じゃない!ロザリンドがハワード殿下を婚約者として認めないのじゃなくて、ハワード殿下にロザリンドを婚約者として認めないと言わせるの!」


萎れた花の様になったロザリンドお嬢様の手を握るフローラ様は、金の髪が輝いて、力強く明るい太陽の様に見えた。


「この間、町の広場で旅をしているって若い人と知り合ったの!その人がね、ラジェアベリアって国で王太子の婚約者だった令嬢が、女の子をいじめて王太子に婚約を破棄された上に国外追放になったって話を楽しそうにしていたのよ!」


……楽しそうに話して良い内容とは思えないが……


でも、フローラ様の聞いた話が真実ならば、王族に迎える器にあらずと、王太子妃殿下として相応しくないと思われたならば……

ハワード殿下の方から婚約破棄と言われたならば……


「テイラー公爵家側から婚約を認めないと申し立てるよりは罰を受ける事は無いかも…そのかわり、ロザリンドは令嬢としてあるまじきと、公爵家とは縁を切られてしまうと思う。それでもいいと、それだけの…覚悟があるなら、私、協力するわ!」


「協力?協力って…?」


「ロザリンドを、すっごく嫌な女にしてあげるわよ!私が、イジメられてあげる!ロザリンドをひどい女だってハワード殿下に印象付けてあげるわ!」


可愛い顔をして意外に姉御肌のフローラ様は、キツイ顔をして意外におしとやかなロザリンド様の事を良く知ってらっしゃる。

誰かをイジメろなんて言われた所で、お嬢様には絶対に無理。だから、フローラ様は犠牲者の芝居をして下さると…。


「俺も協力したいが立場上、二人に関わるのは難しい。だから、デュラン兄上を探す方の協力をするよ。学園の内外に協力する人を用意して、週末にそれぞれで兄上を探そう。」


お嬢様の顔色が、少し色付いて来たような気がする。

でも私には…まだ心配が……


その計画が全てうまくいったとして、お嬢様が婚約破棄となったなら……


次は、フローラ様がハワード殿下の婚約者になる。


ランドル殿下が……いらっしゃるのに?

それでいいの?





フローラ様の、ロザリンド様に虐められています的な芝居が始まった。

最初は冷ややかな目で見られる事に慣れていないロザリンドお嬢様は、困惑気味だった。

だが、いつしか腹を括り、そんな事をしそうな雰囲気を演じる様になった。


そうすると、少しずつ回りにいる人達の本質が見えて来る。


人が変わった様に見えるお嬢様から距離を置く様になった者、

あからさまに自分の立場を誇示するようになったお嬢様にすり寄って来る者、

格下の者を苛める事に便乗して、フローラ様を責める様になった者。


お嬢様以外の者から、小突かれたり、中傷を受ける様になったフローラ様に、ランドル殿下やロザリンドお嬢様が心配するのを、フローラ様は聞き入れなかった。


「今やめたら意味が無いわよ!やり抜くわよ!ロザリンド、貴女もデュラン殿下の為にやり抜く覚悟を決めなさい!」



ランドル殿下から、ハワード殿下は観客を魅了する、まるで花形役者の様だと聞いたが……

フローラ様も中々の女優だ。

私達の前以外でのフローラ様は、おしとやかで物静かで、いつも少し憂いを帯びた儚い微笑みを浮かべる……庇護欲を掻き立てられる様な乙女だ。


特にハワード殿下の前では、慈愛に満ちた微笑みを絶やさず、苦しみに耐え忍ぶ乙女を演じ切っていた。


ハワード殿下の興味が、婚約者でありながらハワード殿下に全くなびかないロザリンドお嬢様からフローラ様に移ってゆくのが、はたから見ていても分かった。


フローラ様は、ハワード殿下を誘惑したりしたワケではない。


ただ、フローラ様はハワード殿下の視線が自分に向けられている事を確信しており、本当に自身に対して中傷したり、小突いて来る様な者達すら引き立て役にして、悲劇のヒロインを演じ切っていた。


そんなフローラ様を自分の物にしたいと思い始めたハワード殿下の策略なのか、殿下に気に入られたい者が暴走した為なのか、フローラ様が襲われ掛けて拐われそうになったり、ロザリンドお嬢様が怪我をさせられそうになったりと、危険な目に遭う事が度々起こる様になった。


でも、もう今さらやめる事は出来ない。

ロザリンドお嬢様が、今になってハワード殿下に心を捧げようとしても、もうハワード殿下の目にはフローラ様しか映っていない。


だったら、お嬢様はやり抜くしかない!

この悪役令嬢という三文芝居を!!

私はそれをサポートする役に徹するだけだわ。


お嬢様がデュラン様と結ばれる、その時まで。




「おはよう……フローラ。痛む所は無い?」


「ええ、殿下…足の痛みも引きましたわ…ありがとうございます。」


森の中の湖畔にある洋館のバルコニーにて、フローラは包帯の巻かれた足を撫でる。


「ロザリンド嬢が君を階段から突き飛ばすなんて…信じられなかったよ…たまたまその場に居た僕が、その瞬間を見ちゃったから……君が、そんな酷い目にあっていたなんて…」


「…殿下に、ご心配お掛けしたくなかったので…詳しくお話出来ませんでしたの……。」


椅子に腰掛け、バルコニーから夕焼けに染まる湖畔を眺めるフローラの肩にハワードが手を置く。

フローラはその手に自身の手を重ねて微笑んだ。


「フローラ…君は、王太子妃になる気はある…?」


「えっ……私が…ですか?そんな…私なんて、そんな……無理ですわ。」


「無理じゃないよ、フローラ…僕は君が王太子妃殿下として相応しい人だと思う…ねぇ?僕の言葉を信じて…?」


フローラはハワードの手に重ねた自身の手に頬を寄せる。

甘ったるい香りが鼻腔を擽る様な空気が立ち込める。

そんな中でフローラは淡く頬を染め、うっとりと呟く。


「ええ、信じますわ……殿下……。私は王太子妃に相応しい……。」



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