デュランはドランでドラゴンで海賊王ですか?
「結局、お前……オフィーリアは誰の味方で何をしたい?おまぇ…オフィーリアは兄上に雇われた男の女優なんだろう?」
ランドルは、自身で口にした問い掛けに混乱する。
━━何だ、男で女優って!意味が分からん!!
このふざけたオフィーリアの存在が納得いかない。
それでもランドルは、極力感情を抑えて冷静に話をするつもりだった。
行方不明の恋人の情報を少しでも得たいと必死だった。
兄と何らかの繋がりがあるオフィーリアから話を聞けば、何らかの手掛かりが得られるのではないかと。
「ああ?テメェ、さっきから何回か俺をお前と呼びやがったよな?そんで、オフィーリアって呼び捨てしやがって偉そうに!どこの何様だ!!テメェ!!」
ランドルはオフィーリアと、冷静に……話をするつもりだった。
だがそれはもう、過去の話だ。
「そりゃ悪かったな!!偉そうに!?どこの何様だと!?俺はこの国の王子様だよ!偉いわ!!クソッタレ!!!」
キレたオフィーリアに対し、ランドルもブチキレてしまった。
冷静に!?なれるかクソッタレ!
フローラの姿をしてなかったら、本当に手が出てたかも知れんわ!!
て、言うかオフィーリアは男なんだろう!?
もう目をつむって顔を見ない様にしてぶん殴ってやろうか!!
ぶん殴って兄について知っている事を吐かせてしまおうか!
この野郎!!
いきり立ったランドルがオフィーリアを睨み付ける。
フローラにそっくりなオフィーリアの姿に一瞬気が緩み掛けるが、ランドルはオフィーリアを睨み続けた。
ガンを飛ばされたオフィーリアは同じくランドルにガンを飛ばす。
それはもうヤンキーの本能だ。
やがて、オフィーリアは鋭い目付きを細めると楽しげに笑い出した。
「ハハハハハ!!いーな、ランドル!悪くねぇな!!この国の王子様か!偉い偉い!!」
ランドルはオフィーリアに肩を組まれてバンバン腕を叩かれる。
見た目はフローラそっくりの可憐な美少女なのに、えらく男臭い。
と言うかオッサンみたいだ。
「……馬鹿にしているのか?俺を。……偉くなんかない……王族の生まれではあるが、実際には何の力も無い……惚れた女一人守る事すら……」
「イイネ!!お兄さんは好きだぞ!そーゆーの!!大丈夫だ、俺そっくりの美少女ちゃんは俺達が見付けてやる!その為にも情報が欲しい、俺達は美少女ちゃん見付けて終わりってワケにはいかんみたいでな。」
なんだろう?愛しい人と同じ姿の少女に肩を組まれているのに、この酒場で酔っ払いに絡まれているかの様な感覚にしか思えない感触は。
ゴツゴツしてるし、筋肉質だし、肩を抱く手の握力が強い。
「……あんた達は誰の味方で、フローラを見付けた後に何をするつもりだ……。」
オフィーリアは翡翠色の瞳を細める。
悪巧みをする悪童のような笑顔をするオフィーリアはフローラと同じ顔の造りをしているのに、ランドルがドン引きしてしまう位に悪どい顔をしていた。
「俺達は誰の味方でも無い。この後、どうするかも決めてない。だから、お前に話を聞きたい。ロザリンドや、婚約者のハワードについて。俺達はな、面白いパズルを組み立てたいんだよ。その為のピースが足りねぇ。だからピースを寄越せ。」
肩を組んだまま微笑むオフィーリアがランドルに向け手の平を差し出す。
誰の味方でも無いと言いきったオフィーリアに対し、兄の味方でないなら警戒する必要は無いだろうと判断したランドルが泥の様に重い息を吐き出す。
この、オフィーリアという奴は悪い奴ではないのかも知れない。
だが、ただただ、ムカつく。
「はぁぁぁぁぁぁぁ……俺が話せる事なら話してやる。それでフローラが無事に帰って来るなら…。仕方がない。」
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「ねえ、オッサン!そのドラゴンとかゆーのには会える?」
港の波止場で、情報をくれたゴロツキと話すディアルが目を輝かせて訊ねる。
「オッサンって、ヒデェな坊っちゃん!!……て、言うか……ドラゴンと会うなんて無理っすよ!大海賊団みたいなんの船長っすよ!?そんな、おっかねぇ奴と会ってどうすんで?」
そういや、どうしたいんだっけ?
はて?と、ディアルは一瞬キョトンとした表情をしてしまう。
そいつとデュランが同一人物とは限らない。
同一人物だったとして「ロザリンド知ってる!?」って聞いてみて、知らないと言われても、知ってると言われても、だから何だって話になるだけだ。
仮に、デュラン本人だったとして、ロザリンドを知っていたとして……
「ロザリンドが、あんたを好きなんだって!!」
って俺がそいつに言ったら……ロザリンド、怒るわなぁ。きっと。
お嬢様が海賊なんかに想いを寄せていたなんて…。
ずっと秘めていた恋心かも知れない。
それを、部外者の俺がシレッと言ってしまうなんて……駄目だよな。
よし、言いに行こう!!
ディアルは目を輝かせながら、一人何度も頷く。
「オッサン!!海賊王とやらの根城に案内しろ!!」
「海賊王!?それ誰!?ドラゴン!?い、嫌ですよ!!命がいくつあっても足りやしません!!ドラゴンに会えるのは、船団に護衛を交渉する船主位ですよ!!俺みてーなチンピラが会うのは無理っす!!」
青くなり、ガクガクと震えて首を激しく振るゴロツキの胸ぐらを掴むとディアルは、嬉々とした顔をして港を出港しつつある大きな客船に目を向ける。
「無理じゃなーい!港町でデカイ顔をしていた癖に、海賊位でガクブルってんじゃない!!もうひとつ、会える方法があるだろーが!!」
胸ぐらを掴まれ、ディアルに身体を持ち上げられたゴロツキのオッサンが、ディアルの視線を追って客船に目を向ける。
「……………まさか……まさか…!や、やだぁあ!!死ぬ!殺されるぅ!!」
泣きわめく様にしてディアルの手から逃れたがるオッサンを捕まえたまま、ディアルがほくそ笑む。
「襲ったるぜ!!客船!!俺達が海賊になって暴れてやるぜ!義賊さん達が出て来るまで!!ほら!抱いてやる!」
「だ…抱いてやる!?だ……ギャー!!!!」
ゴロツキのオッサンがムンクの叫びみたいな顔になっている。
そのオッサンをお姫様抱っこしたディアルは、既に離岸しつつある船に、人間離れした跳躍力で大きくジャンプして飛び乗ってしまった。
「あハハハハハ!待ってろ!ドラゴン!!しばき倒したらぁ!!」
テンションが上がり過ぎて当初の目的を忘れつつあるディアルは、泡を吹いてフラフラになったオッサンを引き摺りながら、多くの船客が居る甲板に紛れ込んで行った。
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夕闇が迫って来た頃、オフィーリアは男子寮のランドルの部屋に居た。
この学園の寮は男子は相部屋なのだが、王子であるランドルには個室が与えられている。
そのランドルの私室のベッドに横向きに寝転んで、片方の足でもう片方の足をポリポリ掻くオフィーリアの姿にランドルはげんなりしていた。
「……色々悲しくなるから、やめてくれ……初めて部屋に呼んだのがフローラではなく、あんたで……しかもフローラソックリのあんたがまるでオッサンで…!俺はもう、どうしたらいいのか分からん!!」
「はぁ?どうもせんでいーわ。つか、話聞かせろ。お前の恋人であるフローラが、なんで婚約者の居るハワードの恋人扱いになってる?」
ベッドから起き上がったオフィーリアは、ベッドの縁に座って大股を開いて腕を組んだ。
「……なんで国王の父上より偉そうなんだ……あんたは。」
自分がオフィーリアの立ち居振る舞いを嘆いた所で、何の解決にもならないと諦めたランドルは、ベッドの脇の椅子に座りオフィーリアと距離を置いて向き合う。
そして、重い口を開いた。
「…兄上のハワードは……欲しがり……だ。人の大切な物を欲しがり、奪いたがる。」
「………そいつぁ、やな性格してんなぁ。で、婚約者が居るクセに弟の恋人を奪いたくなったと?」
オフィーリアが鼻からフッと息を吐き、馬鹿にした様に言った。
「兄上は…フローラよりも先に、ロザリンドを欲しがった。」
「………………なんだって?…」
「兄上のハワードは…俺達の長兄である、第一王子デュランの婚約者だったロザリンドを、兄から奪って自分の婚約者にした。」
オフィーリアは笑った。
声を立てずに目を細めると口角だけを上げ、道化師の仮面の様に張り付いた笑顔を作る。
「いい根性してやがるなぁ…ハワード…俺達をおちょくったんだなぁ…フフッ…ハハハハハ!!」
ランドルの背筋が寒くなる程の怒気を放ち、オフィーリアが嗤い出した。




