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異世界に落とされた令嬢、喚ばれた月の女神。

ふわりふわりと浮く様に、小さな花びらが風に乗って舞い躍る。

何処までも続く、色とりどりの小さな花が敷き詰められた美しいお花畑。

そんな中にディアーナは立っていた。


「ディアーナ様!!」


「あら…オフィーリア」


「探しましたわ…私を置いて一人で王都を出て行かれるなんて…」


「オフィーリア……」


花に囲まれ花びらか舞う中に佇む、花の妖精のように愛らしいオフィーリアの顔が、悲しげに歪む。

ディアーナは一歩オフィーリアに近付き、涙に濡れた頬に手を当てる。


「オフィーリア…泣かないで?貴女はヒロインでしょう?」


「私は…貴女の…ディアーナ様だけの、私ですのに…ひどいですわ……私を…愛してませんの?」


「そうね……オフィーリア……私……貴女を……愛してるわよ!オラァ!歯ぁ喰いしばれ!!あはははははは!」


「は?歯?はあぁ!?ホゲー!!!!」





「ディアーナ様……ベッドの上で暴れないで下さい。」


川から離れ再び旅を続けたディアーナとリュシーは、夜に辿り着いた小さな村で宿を借り、金が勿体無いとまた、ひとつだけ部屋を借りて同じベッドで寝ていたのだが……。


寝たまま急に高笑いし出したディアーナがベッドの上で暴れ出し、リュシーはいきなりベッドの外に蹴り出されてしまった。

ベッドの真横の床に落とされたリュシーは、ムクリと起き上がると、目を覚ましたのかベッドの上で身体を起こしているディアーナと目が合った。


「ねぇアイツ、今、来てたわよ?私の夢の中に。アホの頭の中みたいな花畑でオフィーリアになって。」


「え……まさか……」


お花畑をアホの頭の中とは、ひどい形容だが、それは貴女の頭の中だからでは?……とかは置いといて…


アイツは、今まで獲物を喰いそびれた事など無かった。

よほど腹が減っているのか、喰いそびれた事が許せないのか、急ぐように二度目を仕掛けて来た。


スティーヴン殿下で失敗したせいか、今度はオフィーリア嬢になって。


「夢の中に現れるなんて……初めてです……オフィーリア様になって夢の中に現れて…それを、どう…なさったのですか…」


聞かなくとも、何となく分かるのだが…敢えて聞いてみる。


「え?お花畑で愛しますって言われたから、私もよって言って殴ったわ。お花畑で吹っ飛んでったわよ。」


どーゆー会話?それ。


「あの…ディアーナ様はオフィーリア様を…その…愛してらっしゃる…のですよね?滝壺で、そのような言い方をなさってましたし…。」


「うん。レモンタルトだからね。」


オフィーリアを愛してる理由がレモンタルトだから。

意味分からん。

なぜ、この人は…自分ですら忘れていて理解していない事を、さも当たり前のように、そして「ね?分かるでしょう?」的に話すのだろうか。


リュシーは落とされたベッド脇の床に座ったまま、ベッドに肘を掛けて頭に手をやると前髪をクシャリと掴んで思い悩む。


アイツの行動に対しての、なぜ?と疑問に思う事も多々あるが、今はディアーナに対しての何で?の疑問が頭の中を占領してしまっている。

しかもディアーナに関する疑問はタチが悪い。

疑問に対する答えが更なる疑問を呼び、その答えも更に疑問を与え、泥沼になる。


そして最後は、考えても無駄だな!だってディアーナ様だから!となる。


「えーとオフィーリアさんがレモンタルトさんだから愛している…その愛している方を…殴ったんですね。」


「殴るわよ。オフィーリアじゃないもの。私に探り入れて来てんのが見え見えだし。滝壺で私が言った、私のオフィーリアって台詞を、そのままぶちこんで来てるし。頭悪いわねアイツ。」


「でも…愛する人の姿をしているんでしょう…?」


「姿はね。そうねー…まだ、思い出せないけど、アイツがレモンタルトの姿をしていたら…どうなるかしら?…本人ではないと分かっていても…心揺れるのかしらね。」


そう呟いてベッドから降りたディアーナは窓の前に立ち、空に浮かぶ月を見つめる。

冷たい月明かりに顔の輪郭を浮き上がらせ、空の色に溶けるような同じ色合いの長く流れる髪を身体に纏わせ。


━━いつもはアホみたいな人だが…こうして見るこの人は本当に美しい……人間離れした美しさがある……。強く、美しい……そんなディアーナ様の心を占める……レモンタルト………に…俺は嫉妬している……。渡したくないと……━━


手が


吸い寄せられるようにディアーナに向かう。

その髪に…肌に…指先が触れたがる。ディアーナを感じたがる。


触れ………


「ケモミミいいわねぇ!どーしたのよ!ケモミミ、ピンと立っちゃって!!」


ディアーナと向かい合ったリュシーの手がディアーナの髪に触れる寸前で止まり、向かい合ったディアーナの手はリュシーの頭の上にある狼耳を両手でつまんでいた。


「み、耳には、触らないで下さいとあれほど……!!」


「じゃあ、リュシーも私に触っちゃ駄目でしょ?」


「貴女は!もう何度か俺の耳に触っているじゃないですか…!ズルイです!!俺だって貴女に触れ…た…い」


リュシーは正面から見詰める金の瞳に、思わず怯む。

見詰めると言うよりは見透かすように、リュシーの顔を見ると言うよりは、感情も思考も全て見透かされているようで。


「リュシー、貴方は私に恋する為に喚んだんじゃないでしょ?」


「よ、喚んだ?俺が…貴女を?…俺は…ただの従者で………」


貴女は…アイツに捕らえられ、この世界に引きずり込まれた。

俺が呼んだのじゃない。

リュシーはその答えを口に出せずに口ごもる。


「そうね、そういう設定ならそれでもいいわよ。でも、この世界にいきなり落とされた令嬢ディアーナではなく、この私を喚んだのは…きっとリュシー、貴方よ。次の手紙ディアーナを。」


ディアーナはリュシーの耳から手を離し、窓の前からピュンとベッドに膝で飛び乗り、そのまま一回バウンドして寝転んだ。


「おやすみなさい!リュシー。」


耳を解放されたリュシーは自身もフラフラとベッドに向かい、縁に腰掛けると背後に寝ているディアーナに話し掛ける。


「ディアーナ様…あの…次の手紙…って…?」


意味不明だと言っていた、その言葉の正しい意味が分かったのかと訊ねようとした頃には、もうイビキが聞こえていた。


「恋をする為に……喚んだんじゃない……か」


そうだ、恋心を抱いたとして彼女はアイツの餌だ。

死んで終わる。

もし……ディアーナ様がアイツを倒せたとして……

この世界が無くなれば、どちらにしろディアーナは居なくなる。

いや、倒せる筈が無いのだから。

やたら強いだけの少女に…しかも、現実ではない世界に既に囚われているのに。


だったら……死ぬしか道の無い彼女に、レモンタルトなんて必要無いじゃないか。


リュシーは正体不明のレモンタルトに深く深く嫉妬する。


どこの、どんな奴が知らないが、こんなにも、この人に想われている。

そんな幸せを享受しているのなら、少し位は不幸になってくれていいだろ?


レモンタルトから彼女を奪いたい。

彼女の最後は俺だけのものにしたい。


あんたは現実の世界で、最後の言葉も交わせず、眠ったまま彼女が冷たくなっていくのを見ればいい。


俺は少しでも長く、彼女と過ごせれば………。

少しは幸せになれた気がするよ……。




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