表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
137/186

白いマーガレットがお花ニップレス。

食堂を出たディアーナとリュシーは宿を探した。


ディアーナは、銭が勿体ないから野宿で構わないと言ったが、リュシーがもう野宿は絶対に御免です!と断固として拒否をしたからだ。

渋々了解したディアーナを引きずるように連れて、リュシーは宿を探し始めた。

最初に目についた、旅館と言うよりは民宿に近い小さな宿をディアーナが指差す。


「だったら、ここでいーんじゃない?こぢんまりしていて、ここなら安そうだし…。」


「俺は屋根と壁があって、屋内ならば贅沢は言いません。…目が覚めたら外ってのだけは勘弁して欲しいのです。」


リュシーの言葉にハイハイと適当な相槌を打ちながら、ディアーナは小さな宿の扉を開けた。

そして、その瞬間ディアーナが固まる。


ディアーナから少し距離を置いて後ろに居たリュシーは、ディアーナの真後ろまで進むとディアーナの肩越しにディアーナが目にしているものを見る。


「…ああ。」


小さな宿のカウンターらしき場所で、宿の女将らしき中年の女性が、娘であろう若い女性を、慰めている。


「チッ…何かのフラグ劇場かよ。うぜぇ。」


ディアーナが舌打ちと共に呟いた言葉を拾ったリュシーは首を傾げる。フラグ?聞いた事が無い。


「ああ、お客さんかい?ちょっと、あんた達も聞いとくれよ!うちの娘と結婚を約束していた男がさ!他に女が出来たから、うちの娘をいらないって言うんだよ!」


さめざめと泣く若い娘さんと、まくし立てるように説明をしてくる中年の女に対し、ディアーナは心底、面倒臭い!という顔をする。

そもそも、見ず知らずの客にいきなり身内の事情説明とか、そんな話を振るなや!鬱陶しいな!こんちくしょう!

そんな感情が惜しみ隠さず顔に出ている。


「ディアーナ様なら…娘さんのつらい気持ちが分かるのではないですか?同じ立場を経験した貴女なら…。」


台本通りに進行していく小芝居のような、情感の無い状況。

リュシーの言葉も、台本に添う台詞である。


だが、この小芝居の主演女優は台本を無視する。


「はぁ?分かるわけ無いでしょ。つか、他の女に目移りする時点で、こちらから願い下げだわ。そんなクソは。プチれ。」


「…何を言っているのです?貴女も殿下に同じ事をされているのでしょう?」


「……ああ…そうね。」


ディアーナは斜め上にあるリュシーの顔をジッと見る。

その視線に気付いたリュシーがディアーナと目を合わせると、ディアーナはニヤリと笑んだ。

リュシーはクラリと、目眩がしそうな錯覚に陥る。


何だろう…この気持ちは……


「彼を取り戻したいの!」

「ちょっと、悪い虫が付いただけさ!ちゃんと、あんたの所に戻ってくるよ!」


泣く娘と、慰める母親の女将。

ディアーナは女将と娘が居るカウンターに行くと、肩掛けカバンからおやつに買ったリンゴを出し、二人の目の前に置いた。


「このリンゴが男だとするでしょ?で、虫が食ったと。虫食いのリンゴなんか欲しい?私だったら、こんなリンゴはね…こうよ。」


ダン!!


ディアーナはカウンターに置いたリンゴに、握った拳を振り下ろす。

リンゴは放射状に果汁と破片を飛ばし、芯さえ潰して砕け散った。

ディアーナと女将、その娘は飛んできたリンゴの破片と果汁まみれになり、二人は何が起こったのか理解出来ないようで、茫然とカウンター上に残ったリンゴの破片を見詰めている。


「二度と私の前に姿を見せるな!見せたらプチる!ってね。………着替え、買っておいて良かったわ。部屋を借りるから、着替えさせて。」


ディアーナは果汁まみれのままカウンターにある空き部屋の鍵を取り、部屋に向かい歩き出した。


「ディアーナ様……。貴女が…美味しそうです…。」


リュシーは、自分が可笑しな事を口走っているのを分かっていたが、言い留まれなかった。

胸の辺りのシャツを握り、ディアーナを見詰める。


「リュシー、桶に水を用意しといて。身体を拭くわ。」


ディアーナはリュシーの言葉に全く反応をせず、部屋を目指す。

リュシーはハッと我に返るように、カウンターで呆けている女将に話しかけ、桶を用意してもらった。


桶を用意したリュシーがドアをノックし、部屋に入るとディアーナはドアに背を向け、部屋の中央に置かれたベッドに座っていた。

上半身、裸で。


「ディアーナ様ぁ!な、なんて…ああっ…そんな肌を露に!目のやり場に困ります!」


「うるさいよ、リュシー。早く桶を寄越せ。」


リュシーは片手で目を覆いながら、なるべく、なるべくディアーナの方を見ないようにしてディアーナの座る側のベッドの足元に桶を置く。

見てはいけないと思いつつ、目を覆う手の平の指を少し開いてしまう。

ディアーナは片手で胸を押さえ、長い髪が肌の上に流れて肝心な部分は隠れているものの、露になった二の腕や首筋は充分に扇情的で。


「ディアーナ様……」


「言っとくけど、私に触れようなんてしたらリンゴの刑だからね。」


「うッ」と詰まった声を出して動きの止まったリュシーを無視して、ディアーナは足元の桶を引き寄せ、ザバザバと布を濡らして身体を拭いていく。


「これだと、綺麗に取れないのよねー…外だったら、川か泉でも見つけて全身洗えるんだけど…。」


野宿も平気、川で水浴びも平気、魔獣やヘビを食べるのも平気……そして、人間離れした身体能力。

なのに魔力が全く無い。

何者……?かと尋ねれば、本人も知らん!と答える。

今のリュシーには、ディアーナの正体を知る術がない。


令嬢の振りをした、蛮族かなんかか?


「貴女は…令嬢らしくないですよね…。」


「リュシーも従者らしくないわよ。それに、私に殿下を恨ませたいの?それとも私が傷付いていないと不都合なの?」


ディアーナに「リンゴのようになりたいんかい!」的に脅されたリュシーはディアーナから離れ、ドアに背をもたれさせながら身体を拭くディアーナの背を見ている。

その背中から、強い威圧のオーラを放たれたリュシーは何も言えなくなってしまった。


「殿下がオフィーリアに奪われて、悲しんでいる振りをしようかと思ったのよ。そんな私を望んでるんでしょ?でも私らしくないからやめたわ。」


リュシーはディアーナの顔を見ないままディアーナと話す。

表情が見えなくても、ディアーナの背中が自分を睨めつけるのが分かる。


「でも、実際に貴女は婚約者を奪われた!オフィーリア様に!」


それは紛れも無い事実。

侯爵令嬢が、子爵令嬢に婚約者を奪われるなど、色恋沙汰を抜きにしても甚だしい侮辱行為だ。

自尊心の高い、侯爵令嬢ディアーナなら許す訳がない。


自尊心の高い侯爵令嬢ディアーナなら………?


「私はリュシーの知っているディアーナではないわよ。私と殿下は結ばれないのよ。最初から。私には…私だけを千年以上想い続けてくれた……レモンタルトがあるのよ。」


「……果物から、菓子に進化しましたね……。」


「違う!そんな美味しい物じゃないんだって!金色いアレは!変態ストーカーなんだから!」


ディアーナはベッドから立ち上り、拳を握って振り返る。


「ディアーナ様ああっ!!!ふ、膨らみが!見えてますぅぅ!!」


リュシーはドアに背をもたれさせたままズルズルと下がり、ドアの前にうずくまる。


「先はちゃんと隠してるわよ。部屋に飾ってあったお花のニップレスで。」


「貴女は規格外過ぎて…俺の精神が持ちません……」


俺は…この人に振り回されるのが楽しい。

こんなに色んな感情を出したのは、どれだけぶりだろうか…。

人らしく、自分を出したのは何時ぶりだろう。

貴女が好きだ…死なせたくない…だから…。


誰か………助けて下さい。


「何で泣きそうな顔をしてんのよリュシー!私の美乳に感動したの?……ふふ、大事な側仕えだからね……貴方の憂い位、私が無くしたるわよ!……任せなさい!」


リュシーは潤んだ目を手で覆い頷く。

死なせるつもりで、この世界に呼んだ令嬢ディアーナ。


いつも心で誰かに助けを求め、何も出来ないでいた。


蛮族ディアーナは、俺を助ける為に令嬢ディアーナが連れて来た、初めてこの世界に現れた救世主ではないのかと。


そんな都合のいい解釈をしてしまう。


「任せとけって!!リュシー!!」


拳を握って力むディアーナの、お花ニップレスがポロリと落ちた。






















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ