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眠り姫を預かる…というか押し付けられる。

「殿下、ちょっと相談」


ラジェアベリア国の王城、玉座の間の中央に何の前触れも無く唐突に現れた黒髪の青年は、玉座の前にて国王陛下との謁見中のスティーヴンの隣に歩み寄る。


「いきなり現れて何なのです?……貴方が……その言葉と共に現れる時は、ろくな頼み事をしないんですよね……と、言いますか創造…っ!いや、ジャンセン…。」


ここは玉座の間。

スティーヴンの父親である国王陛下が玉座に居るのだが、ジャンセンが国王を無視して話を進めようとした為に、一応は…とスティーヴンが意見する。


「ジャンセン…ここは玉座の前で、国王陛下も居られるのだから……他の者達も見ている前で、国王陛下にそのような態度は不敬である」


スティーヴンは意見しながら、苦しい表情をする。


不敬?国王陛下に対して不敬?

だったら、私が今、している事は何なんだろうな!!

この世の最高神に意見しちゃってる私!

だが、この神様ってヤツは、神様扱いするとブチキレるし!

創造神様なんて呼んだ日には命が縮む!


だったら一般人のジャンセンとして扱い、意見の一つも言っておかんと!こんな茶番、めんどくさいのにな!!

あー!胃が痛い!!


スティーヴンは胃の辺りに手を当てながら、助けを求める様に玉座に座る国王の方をチラリと見るが、国王は手をヒラヒラさせ、どちらかと言うと「巻き込むな」と言わんばかりの表情をした。


「いや、もう良いから。こっちは気にしなくていい。今は騎士のジャンセンではないのであろう?旅人のジャンセンか?なら私の臣下ではない。話を続けるが良い。」


だから関係無いし、知らん!と心の声が聞こえそうな程にジャンセンの存在をスルーする国王。

この城に勤め、国王と王太子の側に居る者の中にもジャンセンが創造神だと知る者は居るが、創造神には極力、関わりたくないと、玉座の間に居る側近や近衛兵も視線を逸らして行く。


一人で相手をしてくださいと、誰もスティーヴンを助けようとはしなかった。


「……ぐぅ!……で、相談って何なんですか!?」


大きなため息をつき、諦めモードのスティーヴンが嫌そうに尋ねれば、ジャンセンは自身の背後に氷の棺を出した。


「これを預かってくれません?貴方なら、生き物係も出来るでしょうし。」


生き物係…?飼育人の事を言っているのだろうか?

城にも馬が居たり、他にも生き物が居ないワケではないが…

私に、世話をしろと言うのか?

一体、何の動物だろうか……


スティーヴンはジャンセンの後ろにあった棺に近付いて、中を覗き込む。


「!!ブフォ!!!ゲホ!ゲホ!ちょっ…!」


ジャンセンは棺の縁を握ったまま思い切り吹き出し、そのまま咳き込んでしまった。


「珍獣ディアーナです。」


「は??な、何の冗談なんですか!!え?寝てる!?それに、ディアーナ嬢の回りの大量のタコは何なんですか!」


氷の棺の中に横たわる、眠れる美女のディアーナの回りには、真っ赤な薔薇と、真っ赤なタコが敷き詰められていた。


「タコは起きた時の非常食だと思って下さい。ちょっと、めんどくさい事になってまして…起きないんですよね。この馬鹿娘が。」


ジャンセンは、寝ているディアーナの額をペチペチ叩く。


「何かの呪いなのか、何なのか…調べないと…私でも何も分からなくて。」


この世の最高神、この世界を創った創造主が分からない事?

ジャンセンは軽い口調で言ってはいるが、それはこの世界の神の力が及ばない、異質の力が関与しているかも知れないとの事。

それは、この世界にとって、とてつもなく危険な事ではないかと、スティーヴンは真剣な面持ちで頷く。


「貴方が調べに行く間、眠るディアーナ嬢を保護しておけば良いのですね?…ちなみにレオンハルト殿は、ディアーナ嬢を私に預ける事を、了承しているのですよね?」


これでもし、知らんなんて返事が来たら、「妻が拉致された」とか言い出した挙げ句、国を滅ぼすような破壊神を呼び寄せる様な物を預かれるワケがない。


「そこは大丈夫です。無理矢理納得させましたから。ディアーナを背負って行動するとかアホな事を言いやがりましたんで。」


「……なら、良かった。馬鹿夫婦のせいで国が滅びるとか……嫌なんで。」


スティーヴンが本音を吐露してしまうと、彼の回りの王の側近や近衛兵、そして国王までもが無言でコクコクと頷く。


「この国の城は、一応私の職場なんで…レオンハルトが暴れた時には私が止めるのでご心配無く。あ、馬鹿娘が万が一目を覚ましたりしたら、口にタコでも突っ込んどいて下さい。」


ジャンセン、まだ城で働くつもりなんだ…。

玉座の間に居る一同が、そんな顔をする。


ジャンセンは玉座の間に居る一同にペコリと頭を下げると、一瞬で姿を消した。


スティーヴンの前には、タコにまみれて氷の棺に入ったディアーナが残されている。


「ジャンセン…これ、重いわ、冷たいわで、動かせないんだが!!…はあ~!!腹立つ!本当に!いつも!相手の都合なんてお構い無しに動きやがって!!神?創造主?知るか!!」


苛立つスティーヴンを、国王や側近がなだめる。

あまり文句を言い過ぎて、戻って来られたら困る!と。


「仕方がないから、そこに置いとけば良い。……暫くは、私への報告、謁見など、食堂でするか。

で、ディアーナ嬢の観察はスティーヴンとウィリアがするように。解散!」


国王が、ハイハイと手を叩きながら無理矢理まとめる。

スティーヴンが「観察って…」と苦い顔をしたが、夫婦で世話をしろと言う事かよ、で諦めた。



結果、玉座の間がディアーナの眠る部屋となってしまった。



「それにしても…スティーヴン殿下はひどい方だ。」


「は?なんで?」


盗賊のアジトを出て暫く歩いて町に着いたディアーナとリュシーは、兵士の居る詰所のような場所に行き盗賊のアジトと捕縛してある旨を伝えた。


そこで、探していた盗賊の一味であるなら褒賞金が出るかもとの事でご機嫌になったディアーナは、買い取りもしている商店に行き、ドレスを売ったお金で旅の服と、肩掛けカバンを買った残りの金を握りしめ、「うまいメシ!」と町の食堂に入った。


ソーセージとチーズを散々食っていたのに、まだ食うのか…とリュシーは呆れたが付き合う事にした。


そして、うまいメシにがっつくディアーナに、リュシーがいきなりスティーヴン王太子の名前を出したのだが。


「なんでって…貴女という婚約者がありながら、他の女にうつつを抜かして、貴女にひどい言い掛りをつけ…婚約破棄を言いつけたのですよ?貴女が傷付くのも無理は無い……?」


傷付いてる……?ようには見えない……よなぁ……


リュシーは語尾が疑問型になってしまった。


「他の女?誰?」

「……オフィーリアさん以外の誰だと……」

「オフィーリアは女じゃないわよ?私に惚れてるもの」


リュシーは額に手を当て唸り出した。

何だ、この不毛な会話は。意味が分からないし、話が続かない。


「ディアーナ様は、オフィーリアさんを…殿下よりも気に入ってます?」


オフィーリアをイジメ抜いた悪役令嬢ディアーナ…そんな記憶がリュシーの中には情報として残っている。


「元々、殿下には興味無いけど?殿下はデカパイと夫婦になるし、そいで、私にはレモンがあるから。オフィーリアはレモンになるハズなのよ。」


リュシーは頭が混乱している。


ディアーナ自身の記憶が曖昧になっているから、説明がままならないのは理解出来る。

だがディアーナは、ままならないのに平然とそのグダグダを話そうとするから、聞いてる側には支離滅裂にしか聞こえない。


「私の中にいる口うるさい白いの、殿下に似てるのよねー。でも、殿下を……おかんなんて呼ぶかしら?」


「おかん……?はじめて聞く言葉です……ディアーナ様、俺の皿にまで手を付けないで下さい。」


リュシーはディアーナの前から、皿をスススと自身の方へと引いた。

油断も隙もあったもんじゃない!腹ペコ令嬢め!




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