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こう見えて女神なんですけれど(ど忘れ中)

盗賊の頭の腕に細い首を囚われたディアーナは、引き摺るようにして隣の部屋に連れて行かれた。


「お前はこっちだ!」


バン!!隣室に入り、乱暴にドアが閉められ二人きりになると、頭の腕の中のディアーナがゆっくり顔を上げ、金色の瞳で頭の顔を睨め上げた。


「あぁ?お前だぁ?誰にモノ言ってんだコラ。」


ディアーナは首に回された盗賊の頭の腕の小指を一本握り、折るかのように小指を逆に向け始めた。


「ったぁあ!」


頭は驚き、咄嗟にディアーナから腕を離すとは痛む自身の小指を握る。


「い、いてぇ!ナニしやがんだ!テメェ!このアマぁ!折れる所だったぞ!」


「はぁ?テメェこそ誰に向かってモノ言ってんだコラ、プチるぞ?つかプチるか?つかプチるわ!!」


ディアーナは軽くジャンプして盗賊の頭の髪の毛を鷲掴むと、そのまま床に穴が開く勢いで、自身の体重を乗せて頭の顔面を床に叩きつけた。


「っな…!?」


状況が把握出来ない、抵抗も出来ないまま、頭は顔面を床に叩きつけられ、うつ伏せになった。

すぐには動けないで床に伏した大きな身体は、襟首を掴んだディアーナに軽々と起き上がらせられ、壁を背にして座らされる。


「は?はひ…?」


顔を血だらけにされた頭は、何か知らんがヤバいと感じ、壁から身体を離して逃げようとしたが、頭の肩上辺りの壁にダン!とディアーナの高いヒールが壁に穴を開ける勢いで当てられ、逃げ道を塞がれた。

ディアーナ式、壁ドンである。


「さあ…いい子でちゅねぇ~ボロボロになるまで可愛がってあげませう!大丈夫よ、おねぃさんは可愛い子の相手をするのが上手でちゅからねぇ。」


壁に足をついたディアーナは、両手にソーセージを持ってニッコリ微笑んだ。


「や、やめて……イヤァア!!」


「おら、もっといい声で哭け!なんだ、ズッポリ根元まで入るじゃねーか!鼻の穴デケェな!お前!いやらしい鼻の穴してんなぁ!」


暴走気味のディアーナは、太いソーセージを頭の両の鼻の穴にグリグリと押し込む。


「そ、それ以上入れないでぇ!あ、(あね)さん!勘弁してぇ!」





隣室から聞こえる野太い悲痛な叫びに、リュシーを捕らえていた盗賊の手下どもが、ざわめく。


「あ、姐さん…?」


リュシーは察してしまった。

すっかり失念していたが、ディアーナは、つい先ほどアホみたいにデケェ魔獣のウサギを倒していた。

素手で。

襲い掛かって来たから返り討ちしたわ!と。

普通、そんな事簡単には出来ない。

出来ちゃうんだー……このヒト。


盗賊の手下どもが、床に膝をついたリュシーの方を見る。


「……あー……何か……すまん……。」


思わず謝ってしまうリュシーと、茫然と立ち尽くす盗賊達の前で、バン!とドアが開き、ボロボロになって鼻の穴にソーセージを挿された大きな山男を引き摺ったディアーナが現れた。


「リュシーに倒された時点で大人しくしてれば、ここまで恥ずかしい目に合う事は無かったんだけどね。まぁ、お前が悪いわ。この私を「お前」と呼んだのだから。」


女の子みたいに床にペタンと座って、鼻にソーセージを詰めたまま女々しく泣いているお頭の隣に立つディアーナは何だか男前だが、その怒りの沸点のおかしさが何だかもう、気味が悪く恐ろしい。


リュシーを捕らえていた盗賊の手下達と泣いている盗賊の頭を前に、ディアーナは隣の部屋で見付けて来た縄を両手に持ち、ピン!と張った。


「さあ…縛るわよ…フフフフ…大人しくしてないと、ひん剥いて恥ずかしい縛り方するわよ?」


「……ディアーナ様……もう、バッキバキに心折られてるんで…もう……少しお手柔らかに…。」


リュシーが声を掛けてる間に、ディアーナは馴れた手つきで8人の盗賊を手早く縛り上げた。


「……何で、こんな縛り方を?」


盗賊達は、それぞれが大股開きされた状態で、足首と手首を結ばれている。


「M字開脚的なものよ。いっそ、マッパにしてやろうかと思ったけど、おぞましいからやめたわ。」


えむじかいきゃく?意味が分からないリュシーは首を傾げるが、顔面血まみれで鼻の穴にソーセージを挿されたまま、恥ずかしい体勢で縛られている盗賊の頭を見ると気の毒に思えて仕方がなかった。


「…何だか…気の毒と言うか…どうするんですか?彼等は。」


二人はアジトに縛って身動き出来なくなった盗賊達を放置したまま、街道に戻った。

ディアーナの首から下がるソーセージが増えている。


「さっき、頭の口を割らせたんだけど、少し行った所に小さな町があるらしいわ。そこの自警団か兵士にでも連行するよう話しとくわよ。……それより、リュシー……あなた、あいつらの事を気の毒って言ったわね?」


ディアーナはソーセージをリュシーに渡しながら、尋ねる。


「ええ…言いましたけど……別に、情けを掛ける訳では無いですよ?……恥ずかしい目に合って不憫だな位で。…今、こうやっていられるのは、拐われた令嬢がディアーナ様だったからだと分かってます。」


拐われたのがディアーナではなく、ごく普通の少女であったならば、どんな悲惨な目に遭っていた事だろう。

少女は売り飛ばされ、従者は生きてはいまい。

そして、今日以前にそういう事があった可能性がある。


「分かっているなら、いいわ。あいつらは前科があるハズよ。だから多分町に連行されたら処刑される。それすら気の毒だなんて思っていたら、どうしようかと思ったわ。」


ディアーナとリュシーはソーセージを手に食べ歩きしながら会話をする。


「思いませんよ。処刑は当然です。今まで非道な事をしてきたのですから。」


「そう思うのだったら、リュシーがその場で斬り捨ててしまっても良かったのに。」


歩いていたリュシーの足が止まる。「え?」と。


「二度手間じゃないの。レモンだったら、即、8個の首が飛んでいたわね。死して然るべきだもの。」


「……それは……とんでもない、殺戮レモンですね…。酸味も凄そうです…。」


ディアーナは、自身の言った言葉に何度も首をひねる。

あれ?何か違う!と。

ソーセージを片手に首をひねるおかしな少女。


リュシーは、改めてディアーナという少女を見る。

お馬鹿な発言、お馬鹿な発想。令嬢?うん…令嬢なんだけど…。


目の前のおかしな少女ディアーナは、自分の持つ情報の中のディアーナとは違い過ぎる。


人間離れした身体能力はもとより、戦闘シーンを見た事は無いが、これまた人間離れした強さを持っているようだ。


武器も持たず、魔法も使わずに魔獣を倒したのだから。


性格もおかしい。頭がおかしい。

令嬢どころか、少女としてどころか、もう、人としてどうなの?的な所もある。


だが、今回一番リュシーが驚いたのが

このディアーナという少女は、人の命を計る独自の物差しを持っている。

気に入らないから死んで!なんて悪役令嬢らしい利己的なものではなく、もっと高みから人を見ているような……。


ただの馬鹿だと思っていた少女が、時折見せるその表情が…何に例えて良いか分からない。

たかだか15、16年しか生きていない少女の出来る表情ではない。


畏怖すら感じさせる、その表情こそが、このディアーナのもっとも人間離れした箇所かも知れない。


「ディアーナ様………貴方は一体……何者なのですか……。」


まるで神にその正体を問うているかのような、畏れ多い質問をしてしまったとリュシーは感じた。

神の怒りに触れたのではないかと、不思議な錯覚にすら落ち掛ける。


「リュシー……私は……私が何者であるかは…………私が知りたいっちゅーねん!!私、ナニやってた人よ!!」


ディアーナは、両手にソーセージを握って力む。


「大事な事を思い出そうとすれば、レモンしか出てこんし!口うるさい白いのと、性格の悪い黒いのが誰か分からんし!腹は減るわ!!暴れ足りんわ!!」


………暴れ足りないんだ………?

と、言うか…そうだった、この世界に連れて来た時点で記憶は曖昧になるんだった……過去の記憶に埋め込む、俺の存在を不自然にさせない為に…。


「まぁ…ディアーナ様は、殿下に婚約破棄を言い渡されて、ショックで頭が少し足りなくなっているようですから…」


「どういう意味じゃい!!」


「その内、色々思い出しますよ。あ、町が見えましたね!盗賊の件、話して来ますね。」


リュシーは何となくその場を誤魔化して町に向かって駆け出した。

リュシーにとっては、今、ディアーナが本来の記憶を取り戻すのは望ましくない事だと思い出した。


「もう暫く…このままで…。」










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