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番外編━━乙女ゲームってこんなんだっけ?お馬さんと石ころ。

翌日、わたしは休日を利用して一旦実家であるシルベルト男爵邸に帰る事にした。


勝手にわたしをヒールナー伯爵家の嫡男サイモン様の婚約者にした事を問い質し、シルベルト男爵家の方から ━この婚約は無かった事に━ して貰うためだ。


王城から実家までは距離があり、普通の貴族令嬢ならば馬車を使う。

もし歩いたら、お嬢様のしずしずとした足取りならば日が暮れてしまうかも知れないが、大股で闊歩するわたしならば、二時間も歩けば着くはずだ。


女子高生だったわたしと違って、ミランダの身体にそこまでの体力があるか分からないが、要は気合いなハズだ!

行ける!歩ける!


「シルベルト邸に行くと聞いた。送って行こう。」


馬を連れたサイモンが、わたしの隣に並んで歩いている。


「お構い無く!サイモン様は、ご自身のお仕事をなさっていて下さい!」


行ける!歩ける!と息巻くわたしの隣で馬のカッポカッポという足音と、時々馬がブルルンと鳴く。うるせぇ。


「俺も今日は非番で、シルベルト家に用があるんだ。」


「は?ナニか言いました?」


馬のブルルンとカッポカッポで聞こえなかった。


サイモンはいきなりわたしの身体を持ち上げ、馬に乗せようとした。


「ぎゃああ!!いきなり脇っ!腰っ!触らなっ…!怖い!怖い!高い!馬も怖い!まつ毛長い!目が怖い!」


「暴れないでくれ、馬が怖がる。」


お前っ…!その前に、わたしが怖がってるのは無視か!馬が怖がる以前に、わたしがどんだけ怖がってると!!


馬の背に乗せられると、その視界の高さに自分で馬から降りる事が出来ない。

サイモンはわたしの後ろに乗ると、背後から密着するようにして手綱を握った。


「この体勢では馬を走らせるのは危険なので、早足位でいいだろうか?」


ナニがいいのか。走らせる、早足、どうでもいいから降ろして欲しい。

背中が生暖かい。サイモンの吐く息が耳を掠める。

…あったかいわ…くすぐったい……なんて可愛く言えない、思えない。

見ているだけだったゲームの推しキャラクターの体温、息遣いを感じるなんて……

嬉しいを通り越して、わたしの心臓が止まるわ!胃に穴開くわ!サイモンの体温が生ぬるいわ!わたしの背中が汗でグッチョリだわ!


「お、おろ、おろ、おろ…降ろして…わた、わたし…今、きっと汗くっさ…」


「汗くさい?そんな事は無いと思うが…」


サイモンは片手で手綱を握ったまま、わたしの前に片方の腕を回して自分に寄り掛からせるように抱き寄せ、わたしの首筋に鼻先を近付け鼻をスンと鳴らす。


「でゅえぇえい!!」


「暴れないでくれ、馬が怖がる。」


馬が馬がって!そんなに大事なら馬に嫁に来て貰え!!

だが、わたしが暴れて、そのせいで馬も暴れて、馬が大暴走、城下町を走り回って馬が多くの人を蹴り倒して…。

血が飛び散り、悲鳴が飛び交う。

そんな大惨事の原因にはなりたくない。


想像と妄想で、わたしが原因で世界破滅までいけそうだ。


大袈裟だが、絶対無いとは限らないので、大きな声はあげたが暴れなかった。

かわりに無になる。叫んだ後は声も出さない、微動だにしなくなる。

わたしは今、石です。道端に転がっている石ころです。ただの石です……石ですってば!


石ころの首筋に、ずっとサイモンの鼻先があるし!

知ってます?鼻先のすぐ下には唇があるって!

その唇が時々触れるんですよ!石ころの首筋に!



わたし達の乗った、このお馬さんは優秀で…わたしが乗せられる時に暴れても、奇声をあげても、一定の速度で歩き続ける。

あんなに怖がる怖がる言っていた割には、気にもされてない。


街の中を歩く、そんな優秀なお馬さんの上で、なぜわたし達は乳繰り合ってんだ。

道行く人に、目茶苦茶見られてるじゃん…。



暫くして、お馬さんは我が家の前に着いた。

わたしはシルベルト男爵邸の門が見えるまで、ずっと首筋の匂いを嗅がれていた気がする。

時々、唇が当たっていた気がする。ひょっとしたら時々舐められていたかも知れない。…いや、さすがにそれは妄想が過ぎたかしら…。


「ミランダ嬢は…いい香りがするな…思わず、少し味見してしまった……。」


なんの!!!!やっぱ舐められてたのか!!!


サイモンが先に馬から降り、わたしを抱き留めるような形で馬から降ろす。

久しぶりに地面に足が着く。が、脱力し過ぎて上手く立ってられない。

膝から崩れるように、その場にへたり込みそうになったわたしをサイモンが支えた。

そして、そのまま横抱きにされてしまった。

意識がある内では、人生初のお姫様抱っこ。

近い近い、顔が近い!今度は頭の匂いかぎやがる!髪に口付けるな!やめんか!!


心では雄弁に語るのだが、肉体の方の脱力症状がハンパ無いせいで、話す事も出来ない状態のわたしはサイモンのなすがままになっている。

サイモンに抱きかかえられたまま門からシルベルト邸までのアプローチを進んで行く。


邸に勤める若い使用人が、わたし達の姿を見ながら頬を赤らめキャアキャア言っているのが視界の端に入る。


「ステキ!」「憧れちゃう!」


そんな声も聞こえる。……いっそ、替わってくれ…。


「ミランダ!!……!サイモン様!…!」


父のシルベルト男爵が邸の玄関扉を開き、わたしの急な帰宅とサイモンの訪問に驚きの声をあげる。


「…お…お父様…わ、わたくし………わたくし…」


サイモンの腕に抱かれたまま、掠れた声をやっと出す。


「サイモン様のような立派な方に…わたくしのような平凡な者が愛して貰えるなんて有り得ません……サイモン様の愛を得る自信がありませんの…婚約は、破棄させて下さい…」


「……………………は?」


父が…いわゆるジト目でわたしを見ている。

わたしはサイモンに姫抱きされ、わたしを抱きかかえたサイモンはずっと、わたしの頭にキスをし続けている。

わたしが拒絶出来ないのをいい事に!


くそう!!愛される自信がありませんて…こんなんじゃ説得力ねぇ!!


「シルベルト男爵、ミランダ嬢との婚礼なのだが、出来れば年内にと考えている。その準備を進めていきたいと思い、今日、訪問させて貰ったのだ。」


わたしを抱き上げたまま、シレっと言うサイモン。


「はあ!!??年内!?たった今、サイモン様と婚約破棄したいって、わたし言ったのに!?」


やっと普通に話せる状態になったわたしは、思わず素で大きな声をあげた。

その場に居る、全員の視線が突き刺さるようにわたしを凝視している。

凝視というか、父と同じジト目だ。


「なに言ってやがる、自分の姿を見てみろ」と言わんばかりの。


わたしの味方が居ない~!!


「大丈夫だ、ミランダ嬢。俺は、君に溺れつつある。」


微笑むサイモンが、眩し過ぎて泣けてくる…あなた、そんな積極的でエロい人でした?








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