番外編━━乙女ゲームってこんなんだっけ?出会いはイベント会場。
わたしは…日本人で…女子高生で…
ボーイズラブが好きな腐女子でした。
同人活動もしており、ハマっていた乙女ゲームの中の推しカップリングの漫画やイラストを描きつつ、他の絵師さんがお描きになった同人誌を聖書だと集め歩いておりました。
彼氏はおりません。いた事もありません。
オタクだし、腐女子だし、見た目だって全然良くない。
だから彼氏が欲しいなんて身の程知らずな事は思わなかったわよ。
大好きなゲームをしながら、その中の世界で生きてる推しキャラのサイモンと、アリエス先生の姿を見て妄想してるだけで充分幸せだし、お腹いっぱいなんで。
そりゃ…こんなイケメンが現実に居たら、どんなだろうって思った事はあるけど…。
見るだけで充分だったのよ。
………リアルに目の前に現れた上に、婚約者?…しんどいって………
あー……目が覚めたらわたしの部屋にイケメンが居ますパターン、2回目だよ。
今回はサイモンではなく、ジャンセンさん。
「目が覚めました?ほら、メグミン。貴女のお望みの聖書ですよ。」
自室のベッドの上で薄く目を開いたわたしの枕元に、一冊の薄い本が置かれた。
この世界には無い、まだ印刷や製本技術がそこまで発展してない、この世界での同人誌みたいに薄い本!?
どこで手に入れて……!
一気に目が覚めたわたしは慌てて身体を起こし、ジャンセンさんが枕元に置いた本を手に取りページをめくる。
『夜の帳に聖なる契り サイモン×アリエス 』
これはっ!同人誌っ……!サイモン×アリエス先生の…!
って、前世のわたしが出した同人誌じゃねーか!!
19年ぶりに自分の描いた作品見るとか、目茶苦茶恥ずかしいわ!!
「何で、これがコッチの世界にあるんですか!!!つか、ジャンセン様、わたしの事をメグミンって呼びましたよね!!」
「その同人誌の作者名もメグミンですね。」
いや、そんな事言いたいんじゃないって!!
ジャンセンさんて色々、言動も存在も怪しい人だとは思っていたけど、一気に怪しさMAXになったわよ!
転生者うんぬんじゃない、何なの!!
「ジャンセン様、あなた一体何者なんですか!!」
「私?創造神ですけど。」
はぁ?
「いや、いやいや……冗談ではなく……だったら、サイモン様だって知ってらっしゃるでしょう?」
「サイモンは知りません。国王ほか、王族の方々は知ってます。あなたに身を明かしたのは、あなたが転生者であり…あちらで亡くなったあなたの魂を連れて来たのが私だったからです。」
あちらで亡くなった…。
考えなくはなかった。
こちらに転生して新しい生を歩んでいるって事は、前世の山崎めぐみは死んだのだろうと…。
でもわたしには、死の瞬間の記憶が無い。
思い出したってどうしようもないし、ツラいだけなんだけど…
「わたし…どうして…」
「イベント会場から出てすぐ、事故で。」
サラリ言いやがった!恥ずかしっ!
「私はたまたま、あの場に居たのですが…あなたの描いた本が気に入っていたので、まだ読みたいと思い…飛び行く魂を保護し、こちらに連れて来ました。」
…え、この世界の創造神様、あちらのイベントに行ってたの?同人誌買いに?
ナンだそれ!魂を保護?絵師を拉致でなく?
「……ゲームの…仮想世界に転生ですか…?」
「この世界は仮想ではありませんよ。現実に存在しています。私が…娘であるディアーナと息子であるレオンハルトを結びつける為に、ゲームの世界を少しだけこちらに繋げたのです。だから、ゲームの世界が終わった後は本来のそれぞれの人生を歩んで行ってるでしょう?」
そうなの?知らんけど。
でも…確かに、ゲームとは関係ない貴族の不祥事だとか、あったりしたワケで…。
ゲームには全く出てこないけど、この国以外にも国はあり、そこにも人々が居る。
この世界は、ゲームとは関係無く動いている。
ゲームの中で語られた切り取られた世界だけではない。
ゲームでの主人公と関わらなかった攻略対象者のイケメン達も、個々の人生を歩んでるワケだし…。
「そうそう、メグミンのお気に入りのアリエス先生ですが、今も学園の講師ですよ。今も美人系イケメンです。子だくさんパパしてます。」
「こだっ…!?」
はあ!?子だくさんパパ!?
ちょっと!わたしの描いた同人誌、絶対見せらんないじゃない!学園の生徒だった、サイモンと絡ませておりますとか!
絶対見せらんない!
奥様と子どもに恨まれるわ!
「BLのネタにされていたサイモンがあなたを気に入ったのは…予想外だったのですが、私としては嬉しい誤算でして。」
「いや…わたし…サイモン様みたいな超イケメンで、推しだった人に好かれるとか…しんどいです…。免疫無いですし…。」
「だったら免疫つけて下さい。」
「無理です!ジャンセン様は、わたしに漫画を描かせたくて、わたしを連れて来たのでしょう!?サイモンさんが、わたしの側に居ると漫画なんて描いてられませんよ!寄り付かないようにして下さい!」
どうだ!漫画描けないなんて脅せば、少しはわたしのしんどさを理解してくれるだろう!
「なら漫画は諦めますので、サイモンとあなたがエロく絡んで下さい。」
「何でだよ!!!漫画よりソッチ重要!?しかもエロく!?」
ジャンセンさんはニコニコ笑んでいる。なんか…腹黒い、この人(人ではなく、神らしいけど)の笑顔は…怖い。
「あなたの頭の中にある桃色な絡みを実践すればいいだけじゃないですか。サイモンは、私の大事な部下です。その彼が幸せになる為なら何でもしてやがりますよ。」
何でもしてやがり?何か言葉がおかしいし…神さま?本当に神さま?
自分を神さまだと思い込んでる痛い人でなく!?
「あなたは自身を卑下し過ぎですよ。あなたは自身で思っている以上に魅力的な少女です。それは外見、内面、含めてです。でなければ、サイモンがあなたを好きになるハズがない。」
「百歩譲って、ステキ少女だったとしてもですよ?サイモン様の回りには、わたしよりもっとステキ少女が居るでしょうよ…」
だって…何だか惨めじゃない。
わたしがゲームをする時、主人公の名前はいつもメグミンにしていた。
推しキャラのサイモンに名前を呼んで貰えるのが嬉しくて、何度もサイモンルートをプレイしていた。
サイモンと主人公のスチルも何度も見た。
金髪に翡翠の瞳の美少女と、彼女を愛しげに見詰めるサイモンのスチル…。
この世界に生まれ変われたけれど、その彼女にはなれてない。
いや、ならなくて良かったんだろうけど…
美少女主人公の正体が、ヤンキー兄ちゃんで神の御子。だとか知らんかったし。
今のわたしは、普通の茶髪に普通の茶色の瞳、平凡な顔付きの平凡な少女。
着飾っても主人公やディアーナには遠く及ばない。
そんなわたしが……あの美形の隣に居たって、似合わないもの。
『俺は美しい貴方に相応しい男ではない…それでも先生、貴方が欲しいのです。』
『サイモン君…』
「わたしの同人誌を、音読しないで下さい!!羞恥プレイが過ぎるわ!!」
ジャンセンさんはわたしの同人誌で口元を隠しながらニヤニヤ笑っている。
この世界の神は、同人誌が好きでエロが好きでサディスト。
何だよ!その神さま!
「このサイモンの台詞が、あなたの根底にある感情なのですね。自分は、サイモンに相応しくないと。くっだらね!!」
ジャンセンさんは大笑いし出した。
わたしの部屋で一人大爆笑しているジャンセンさん。
「なぜ、そうなったか分かりませんが、この世界の男性は惚れたらしつこいですよ?あなたが逃げ切れるか、見たくなりました。」
大笑いした後のジャンセンさんは、今まで見た事無い位に悪どい顔をしていた。
新しい遊びを思い付いたかのような…。
「に、逃げ切れたら…天罰くだったりしませんよね?サイモン様が幸せになれなくても…」
「大丈夫ですよ、サイモンにベットした私が敗けたからって……でも、逃げ切れなかったらあなた、エロ直行ですよ。そして、夜の帳に聖なる契り2、サイモン×メグミンを発行して貰います。」
罰ゲームがパネェ!!
「また、あなたの作品が読めるなんて…楽しみですね」
部屋を出て行くジャンセンさんの姿が、一瞬だけ少女に見えた。
あの子、見た事ある…!見た事ある…けど、それより罰ゲームがパネェ!!!




