12# 平和な村
村に到着すると、長閑な風景が広がっていた。
農地は少なく畜産と狩猟を生業としているらしい村では、余程重症化した魔獣でない限りは村人達で倒してしまうらしい。
「そんの、羊で作った干し肉だぁ、持ってってくんろ」
「そりゃ、ありがたいべ、遠慮なく貰うとすっべ」
「んだ、こげな田舎まで来てもろたんだかんの」
「いんや、これが俺の仕事だかんね、気にせんでいいがね」
私は何を見せられているのかしら……。
殿下に至っては空に向かって見えない神と会話しているようだわ…。
「創造主よ…神の御子とは何ですか…」と呟くのが延々聞こえます。
「おい、何を呆けてんだ王子サマ!貴重な食料持ってろ」
村人の輪から離れたレオンハルトがスティーヴンに干し肉の包みを押し付ける。
「もう一度森に入って南下、二時間ばかり歩いた所にこないだ地割れがあった場所があるらしい、すぐ向かうぞ」
「到着したばかりなのにですか?今夜は村で宿をとって明日の朝出れば…」
王族のスティーヴンは、舗装されていない悪路、しかも長い距離を歩く事にはまだ慣れておらず、疲労が目に見える。
「駄目だ、間に合わなくなるかも知れん」
真剣な顔で呟いたレオンハルトは、ディアーナと目を合わせる。
「わたくしなら大丈夫、まだ歩けますわよ!ハイキングは大好きでしたもの」
「は、はいきんぐ…?」
疑問符を浮かべた顔でスティーヴンがディアーナを見れば、ディアーナが無の表情をする。
「……何なのでしょうね、はいきんぐって…」
はい、もう意味が思い出せません。
「とにかく、地割れの現場に向かう!瘴気が酷くなれば動物が魔獣になるだけで済まない、魔物が生まれる」
いつもの軽口を叩くレオンハルトではない表情、その焦りや緊迫感が冷気のように肌に刺さる。
「さっきの……干し肉を下さった優しいお爺様達が困らないようにしてあげませんと…ですわね」
フワリと柔らかい笑みを浮かべ、レオンハルトの手にディアーナが手を重ねた。
自分を責め立てているようなレオンハルトの焦燥感を少しでも和らげたくて。




