番外編━━乙女ゲームってこんなんだっけ?腐った脳が勝手に暴走、腐女子とバレた!
こういうゲームの主人公って…ちょっとお転婆さんだったりするよね……。
うん、メグミン…このゲームの主人公もちょっとお転婆さんだったりしていた…。
ゲームで広い学園の中にある木に登ってる所をスティーヴン殿下や、他の攻略対象イケメンに見つかって
「はははっ君は令嬢なのに、お転婆さんだね」
的な事を言われ「嫌ですわ、からかわないで下さい」と顔を赤くして恥ずかしがるシーンがあった。
……お転婆……木登り……わたしの知る木登りは、こんなんじゃないな。
いや、もう…オフィーリアさん、あんたは忍者か。
中庭にある木と、建物の外壁とを順番に蹴って飛んで自室に入るとか…。
逆に、自室の窓から中庭に飛び降りて来るとか。
あなたの部屋、三階ですよね?
お転婆どころじゃないですよ。忍者ですよ。くノ一ですよ。
忍者みたいな聖女って、何なの?
わたし、オフィーリアさんが分からない!!
ますます目が離せないじゃないの!
ちょっとわたし…オフィーリアさんのストーカーみたいになってます。
オフィーリアさんは、よく中庭で殿下とデートをしている。
オフィーリアさんの部屋のほぼ真下にある、中庭のベンチで。
何だか…仲良く二人ベンチでデートと言うよりは…
移動がめんどくさいオフィーリアさんが、部屋から飛び降りて来たその場所をデートに使っているといった感じに見える。
だって、殿下居なくなったら即、部屋に戻るもんね。
木と外壁を蹴って。忍者か。
オフィーリアさんが気になり過ぎて…。
スティーヴン殿下以外の、他の攻略対象の存在を忘れていたなぁ。
わたしの推しカップルの、ディアーナの従兄弟で陰のあるサイモンと、学園の男性講師でおっとり美人なアリエス。
サイモンはこないだ見掛けたけど、主人公のオフィーリアさんが全くアプローチしていないから全くの他人。
むしろ設定上では従姉妹のディアーナの事をほんのり好きなサイモンはディアーナをチラ見しているのだけど、家族から辛い仕打ちを受けているらしい、彼の心の闇だとか悲しみだとかは主人公と新密度が上がらないとゲームでは語られない。
だから今のサイモンは、ディアーナをチラ見する人止まり。
なのよね~…アリエス先生、まだ見た事も無いし…。
「あら、あなた…何を描いてらっしゃるの?」
わたしの机に、白い綺麗な手が置かれた。
机に置かれた手から、目線を上げて行く。
悪女令嬢ディアーナ!!!!
「で、ディアーナ様っ…わたくし、ナニも描いてなど…!」
ディアーナの目線の先を見る。
いかん…わたしの中の薔薇色の腐った脳が暴走していた…。
わたしの手元にあるノートに、ラフに描かれた落書きは…。
ごめんなさい、サイモンに壁ドンで迫られているスティーヴン殿下です。
冷や汗がダラダラ垂れます。目線が泳ぎます。閉じた口の口角だけが微妙に上がり、アゴがしゃくれてしまいました。
わたし今、ボンバイエな顔つきに…。
明らかに挙動不審なわたし。
で、でもリアルな絵じゃないし!デフォルメされてるし!
色も塗ってないから、
これが、あの二人だなんて分かるワケ無いし!
男同士かすら、分からないかも知れないし!
「……これは、後の主従カプかしら……BLね!?まさかのサイ×ステ?」
「はい!すみません!わたし腐女子なんです!!」
思わず起立!思わず頭を下げる!思わず白状!!許して下せぇ!!
………え?BL…なぜ、その言葉を知っているの?ディアーナが。
「まさか……ディアーナ様……転生者ですか……?」
「てんせいしゃ…って何ですの?」
ディアーナはわたしの質問にキョトンとした顔をしている。
「今、ディアーナ様がBLとおっしゃって…」
「そのような事を言いました?……ごめんなさいね、記憶にございませんわ……わたくし、時々こうなのですのよ…」
ディアーナは、とぼけている感じではない。
本当に覚えていないようだ。
転生者ではあるのかも知れない。
わたしだって学園でディアーナと会うまでは前世の記憶が一切無かった。
だからディアーナが転生者であって、前世の記憶がまだ無いって可能性はあるかも…。
「まあ!何て、はしたない絵をお描きに!」
「少年のような少女が、少年とこんな近い所まで顔を近付けて…!」
「この絵、おかしくありません?顎が尖ってますし、目は大きいですわ。」
「あなた、貴族の令嬢なのに画家にでもなりたいの?でしたら、このような腕前ではね!諦めた方がよろしくてよ!」
ディアーナの取り巻きが、わたしが急に立ち上がってディアーナに頭を下げる様子を見ていて、ディアーナがわたしをイジメていると思った様子。
彼女達の設定上、ディアーナに付き従ってオフィーリアに嫌がらせをするのが役割。
でも、ディアーナはオフィーリアに近付かないから嫌がらせもしない、嫌がらせをしたい彼女達はストレスが溜まってるのかも…。
だから、わたしがイジメられていると思った彼女達がしゃしゃり出て来て、こんなにイキイキと…オフィーリアの代わりに、わたしを責め立てる。
バン!!!
わたしの机をディアーナが叩く。
「うっせ!黙れ!漫画のナニがいけないのよ!世界に誇る日本の文化よ!ジャパニーズカルチャー舐めんな!!」
教室内がシン……とする。
やがてディアーナが深呼吸し、姿勢を正した。
「……まんが…って……にほんって…なんですかね?ウフフ……」
遠い目で呟くディアーナ。
凍結していた取り巻きの二人が、ハッと我に返りディアーナの身体を支えるように寄り添うと、慌てるように教室を出て行った。
「またディアーナ様の発作が始まったわ!」
「医務室にお連れしなくては!」
ドタバタと去っていく足音を聞きながら、ホッと息を吐いて着席する。
ディアーナに親近感がわく理由が分かった気がする。
彼女もおそらく、10代、20代位の日本人女性の転生者だ…。
じゃあ…オフィーリアさんは…何なのだろう?
彼女も転生者?
わたし、ディアーナと仲良くなりたい。
でも、取り巻き怖いし…男爵令嬢のわたしから侯爵令嬢のディアーナに声を掛ける事は、まだ友人でもないわたしには出来ない。
困ったな…。
ナニか、仲良くなれるきっかけはないだろうか。
わたしはディアーナを観察し続ける。
もちろん、オフィーリアさんも観察し続ける。
ディアーナは、取り巻きの二人から離れたがっている模様。
あの二人と居る時のディアーナは、時々表情が変わる。
わたしが良く知っている、ゲームの悪役令嬢の顔付きになる。
そして、当の本人であるディアーナ自身がそれに何となくだが気付いているようで、あの二人から距離を置きたがっているようだ。
一度オフィーリアさんの居るベンチの前に、ディアーナと取り巻き二人が立っているのを見掛けた。
気付かれないよう距離を取りつつ、聞き耳を立てていたらディアーナではなく取り巻きの二人が捲し立てるようにオフィーリアさんに詰め寄っていた。
ディアーナは取り巻き二人の後ろでめんどくさそうに指に髪の毛を巻いて遊び、殿下の婚約者とは思えない言葉を口にした。
「別にいいんじゃなくて?恋愛は自由でしょ?」
中世ヨーロッパの貴族文化をファンタジーに混ぜこんだようなこの世界では、貴族の子女が恋愛は自由なんて概念はほぼない。
特にディアーナのように貴族位の高い爵位の令嬢ならなおさら。
やはり取り巻き二人が青くなっている。
有り得ない発言だと思ってるんだろうなぁ…現代日本に生きていたわたしには、ディアーナにも多分
当たり前に普通な考えなんだけど。
ドタバタと取り巻き二人に連れられて医務室に向かうディアーナ。
この光景も、わたしの中では定番化したなぁ。
心の中で「行ってらっしゃい」とハンカチを振る。
ベンチに残されたオフィーリアさんに目を向ける。
額に手を当てたオフィーリアさんの顔は、嬉しそうで…なのに涙ぐんでいた。
それは…嬉し泣き…?




