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忘れない。君を愛した事も。

窓ガラスに激しく雨が打ち付けられる。


外は暗く何も見えない。


「深夜に雨がひどくなると思って宿をとったのは正解だったみたいね…レオン、起きたの?」


同じベッドで寝ていたはずのレオンハルトがベッドの縁に座り、項垂れている。


ディアーナから見える彼の背中は小刻みに震え、そこから小さな嗚咽が漏れていた。


「……今日…今夜は…香月の命日なのね…。」


私の数多くある前世のひとつ。

今の私のひとつ前の私。


レオンハルトにとってこの瀧川香月は、姿以外が本来の私に似ていた上に、兄の立場で四六時中側に居た事もあり、思い入れが深い。


死んでいく妹を救えなかった瀧川廉の罪悪感だけは、レオンハルトに残ってしまっている。


彼を残して死んでしまった私には分からない。

一人残された彼の悲しみや苦しみが、どれ程のものなのかは…。


「すまない、ディアーナ…起こしてしまったか…。」


僅かにこちら側に顔を傾けたレオンハルトの頬には、止まらない涙が伝い、顎先から滴り落ちている。


「レオン…」


私は、身体を重ねる事でレオンハルトの身体の傷を癒す事が出来る。

だが、心の傷だけは…

レオンの強い想いを全て受け入れて、彼の愛に私の愛を返す事でしか癒してあげられない。


「ディアは…ここに居る…だから、香月もここに居る…分かっているんだけど…香月の亡骸を抱き締めた…あの夜の事が…忘れられない…。すまない…。」


私は、身に着けていた衣服を肌から落とす。


一糸纏わぬ姿の私はレオンの頭を胸に抱くようにして、私の鼓動をレオンに聞かせる。


「私を諦めないでくれて…ありがとうレオン…愛してるわ…」


レオンの頭に、髪に、唇を落とす。

柔らかい金色の髪に指を通して何度も撫でる。


「愛してるわ…ずっと待っていたの…あなたが欲しかったの…香月だって…廉を愛していたわよ…」


「…すまない、香月…」


レオンの言葉を遮るように唇を重ねる。

謝って欲しくない…謝りたいのは私の方。

貴方を思い出さないまま、千年以上一人にさせていた。


私が死ぬ姿を何度も見せて、悲しみを抱かせたまま何度も砕け散らせていた。


「謝らないで…お願いだから…」


でないと、私も泣いてしまう。もう過ぎた戻れないあの日を嘆いてしまう。悔やんでしまう。


互いの唇を啄むような口付けをする。

唇から頬、顎先を伝い首すじに流れるレオンの唇は優しい。


こういう日のレオンは、激しい情欲をぶつけるような愛し方が出来ない。


彼の唇も手の平も壊れものを扱うかのように、ひとつひとつ、そこに存在する物かを確かめるように、優しく優しく触れていく。


「レオン…」


身体を、心を、魂を重ねる。

全てを繋げてひとつになる。


太陽のあなたと、月の私。


貴方を癒して私は満たされていく。


もう戻れないあの日を悔やんでも仕方ないのは分かっているの。


でも私…


香月は……瀧川廉を一人の男性として愛していた。

兄であっても、貴方を受け入れていたかも知れない。


いいえ、あなたが絶対にそれをしないと分かっていて思っているだけ…。



だから、これは永久に私だけの秘密。




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