ジャンセン、久々に下界へ。
この世界を創り、長きに亘り維持をしてきた創造主にとっては数十年などつい、先日の事。
創造主は愛娘に頼まれて、スティーヴンとウィリアの魂を同じ姿、同じ名前で巡り合わせる運命を与えた。
たかだか人間一人、二人など、創造神の彼にとっては地面を歩く蟻と大して変わらないのだが、ジャンセンとして下界に居る時に手酷く脅してしまった後ろめたさもあった為、特別に二人の輪廻を重ねてやった。
スティーヴンの没後50年。
創造主はスティーヴンの魂を貴族の長男に。
ウィリアの魂を貴族の娘として生まれ変わらせた。
創造主の娘のディアーナと、息子であるレオンハルトは大層喜び、スティーヴン達の近くに居を構え、若い伯爵夫妻として住み始めた。
スティーヴンとウィリアを助け、二人が幸せになるために二人の成長を見守っていた。
スティーヴン達は幼い頃から婚約者同士となり、仲も良く、このまま成長して結ばれ……れば、いい話なのに
創造神の息子と娘はアンポンタンだった。
スティーヴンとウィリアが成長した時にレオンハルトが言い出した。
「我が愛する妻、ディアーナよ。」
「なにかしら、我が愛する夫、レオンハルト伯爵様」
「もうじき、二人の婚約御披露目パーティーがあるらしいのだが、世間の厳しさを教える為に、オフィーリアになってスティーヴンを誘惑してみようかと思うんだが、どうだろう?」
「さすがにアホですわね!レオンハルト伯爵様!でも、嫌いではなくてよ!?そーゆーの!」
悪戯を思い付いた二人のキラッキラな顔を神の業で見てしまった創造主は、光の速さで下界に降臨。
二人の頭にげんこつを食らわせ、そのまま下界から二人を創造神界に引き上げさせた。
創造神界に連れ帰った二人に正座をさせ、二年程真っ白な世界で説教をした。
スティーヴンとウィリアが無事、夫婦となったのを機に創造主は説教をやめたのだが…。
「お前たちは…本当に、二人揃うとろくでもない事ばかり思い付くんだから…まったく、この馬鹿兄妹は…」
創造主は呆れて、こめかみに指を当て深い溜め息をつく。
「……いやぁ、生まれ変わっても、やっぱオフィーリアになびくかなぁって気になっちまって…」
とレオンハルトが言う。
「……お前ら、しばらく半径100メートル以内接近禁止な。」
「ええっ!」「はーい」
驚くレオンハルトと対照的に、素直なディアーナ。
「100メートルって、顔もろくに見えないじゃん!何でディアは納得してんだよ!」
「師匠命令には逆らえませんから。」
「父親命令には逆らいまくってんのにか!?」
「うっさい!黙れ!」
「二人ともうるさい、黙れ。」
創造主がピシャリと言う。
夫婦喧嘩だか、兄妹喧嘩だか知らんが鬱陶しいわ。と。
創造主は二人の前でジャンセンの姿になる。
黒い旅の装束に刀を持ち、百年以上前に影としてディアーナ達と旅をしていた時の格好に。
「レオンハルト様はここで待機、姫さんは俺と下界に行って魔物を倒す。魔物を倒した後は、レオンハルト様を呼ぶから瘴気、浄化して。」
「きゃぁあ師匠~!!」
ディアーナの目が輝く。
久々に見るジャンセンの姿に感極まっているようだ。
「ちょっ…!てめぇ!ジャンセン!ディアーナに手ェ出すんじゃないだろうな!」
「出さんわ!ボケ!娘に手ェ出すか!」
ジャンセンは口が悪い。
そんな所もディアーナにはツボらしい。ハァハァ言っている。
「悪いのは自分ですよ?レオンハルト様。あなた、昔っからそう、ディアーナ嬢に寝技教えようとして警戒されたり…ちょっとは後先考えなさいよ。」
ジャンセンはディアーナの肩を抱くと、ニンマリ笑う。
「ま、キス位は戴くかも?じゃー、行って来ますね」
ギャンギャン喚くレオンハルトを無視して、ジャンセンはディアーナと人の世に降り立つ。
ジャンセンとして人の世に立つのは、実に百年以上ぶりだ。
だが、ディアーナ嬢たちに影として付き従い、ナイフの扱いや体術を教えていたのが、つい昨日の事のようだ。
ふ、と 腕の中のディアーナを見下ろす。
「久々の冒険、わくわくしますね、お父さん!」
「……………………は?」
なぜ、この状態でお父さん呼び?せめて師匠だろう?




