10# 影の存在
森の入り口らしき場所で乗り合い馬車を降り、荷物を肩に掛ける。
レオンハルトとスティーヴンは腰に剣を携え、少し大きめの荷物を背負う。
私は小さめの肩掛けカバンを持って歩き始める。
「この先、簡易テントとか大荷物が増えるかも知れないし、馬も調達したいな」
レオンハルトの呟きに頷く
「そうですわね、わたくしも馬に乗る練習がしたいですわ」
「ディアーナは俺が横抱きで一緒に……」
「わ、た、く、しが!乗る練習がしたいのですわ!」
言わせるものですか!レオンハルトの提案を、かぶり気味に却下し、語意を強くする。
「……ソウデスネ……」
明らかに落ち込んだレオンハルトを尻目に、さりげなくガッツポーズを取った。
森の中をレオンハルトを先頭に、私、スティーヴンの順で進んで行く。
そして、気配は無いがもう一人同行者が居るようだ。
王宮の護衛兵は全て帰らせたのだが、護衛だけでなく王宮との伝達役である「影」と呼ばれる者が居る事だけは黙認したようだ。
「王子サマはバレてないと思ってるみたいだから、気付かない振りしてあげててな」
旅に出てすぐにレオンハルトに耳打ちされた。
━━━だったら私にも言わなければイイじゃない!
言われたら気になるでしょうよ!━━━
レオンハルトいわく、その影さんもレオンハルトがその存在に気付いている事を知っているらしい。
「殿下は…貴方に遊ばれてますのね…今更ですけど、気の毒で仕方ありませんわ…」
王都を出る前にそんなやり取りをした。
馬車を降り、徒歩で森の中を進みながら見付けられる筈のない影の姿を無意識に探す。
チラリと後方に目を向けるとスティーヴンと目が合う。
「な、何だ?」
急に目が合ったのを驚いたのか、スティーヴンがしゃくるようにヒュっと息を吸った。
「いえ、何でも御座いませんわ」
ニコリと令嬢の笑みを浮かべ、すぐにレオンハルトの背を追って前を向く。
一瞬、スティーヴンの顔が赤くなったのを見た気がしたが気のせいであろう。




