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ブラックスワンは気高きお嬢様!?  作者: 俺の嫁はみんなの嫁
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気高きブラックスワン

初めて会ったのは、 まだ少し肌寒い 春の夜。 誰も寄せ付けないその瞳に、 目が離せなくなっていた。 夜の闇が長い髪をますます黒く染める。美しさとは裏腹に彼女の姿はまるで死神だった。右手には大鎌、黒く大きなマントを背中に羽織り、こちらをねめつけてくる。何かを切り裂いた後なのだろう、鎌には紫色の粘液が付着している。見られたからには返さない、そんな形相をしていたが関係なかった。ただ見惚れていた、その凛々しい姿に。 言葉を違えれば息の根を止められていたかもしれない、そんな刹那の状況でなぜそう思ったのか自分でも理解できない。ただ彼女を見つめていた、一歩も動けないまま。

だが、 「あなたは何者ですか。もし答えていただけないのであれば無理矢理にでも聞き出すまでです。」

きっとこの夜のことを忘れることはないだろう。俺と彼女が初めて言葉を交わした夜なのだから。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「眠い…」

「たつや、どうしたんだそんな眠そうな顔して。またいつものバイトか?」

「ああ、そうだよ。だから少し寝かせておいてくれないか。あとできれば授業のノートも取っておいてくれ。加えて先生が俺を当てるようなら起こしてくれ」

「おーいおーい、いくらなんでも要望が多すぎないか。俺はお前のおかんじゃないんだぞ?いや、おかんでもそこまでしないぞ。もう少し自立を促す」

「いいじゃないか、テスト前になったら勉強を教えているのは俺なんだし。普段の授業くらい俺の面倒を見てくれよ、ヤマト」

ホームルームを知らせるチャイム。この学校に来て2回目の始業式を迎えた。クラスメイトは1年に引き続き同じメンバーで、大和は1年の頃から席が隣だった級友。 2年生になっても席が隣のままで少し新鮮味に欠けるが、高校の2年生なんてそんなものだろう。

「バイトもいいけどよ、そんな調子だと3年間一度も彼女作ることなく卒業しちまうぞ。お前部活もやってるわけじゃないし、バイト先だって女子いないんだろう?せめて学校行事ぐらいは積極的に参加したらどうだ」

「彼女ね…そもそも女性に興味を持ったことがない。綺麗とか可愛いとか、そういった感性はわかる。俺だって美人な人を見れば美人だなあ、て感想は持つ。しかしそれが好き、みたいな恋愛感情に発展することはまずない」

「どうして?」

「 さあ、それこそ人を好きになってみないと分からないことなんじゃないか。お前がよく俺に語ってるじゃないか。初めて彼女ができた時 ビビっと きたとか、体に電流が流れたとか、神からの啓示だとか」

大和に何度恋愛哲学を説かれたことか。 手を握るときは焦っちゃいけない、相手からの連絡にはすぐ反応、誕生日は忘れてはいけない、相手の話は必ず聞くこと、退屈そうな表情を見せてはいけない、可能な限り共感をするなどなど。

まあこいつも彼女は1度しかできたことがないから、その恋愛哲学は彼女相手にしか適用されないかもしれないが。

いるといないでは言葉の重みが違う。彼女がいないやつに恋愛哲学を解かれたところで、別の次元の話と笑われてしまうのがオチだ。その点こいつは最低限のハードルは越えている。だからこそ完全に否定ができないのは面倒だとも思う。

「ところで達也、知ってるか。今日転校生が来るんだとよ。しかも女子!」

「なぜ性別を強調した。彼女に聞かれてもいいのか?」

「綺麗なものはいくつあったって困らない。たとえそれが自分の彼女でなかったとしても、クラスに花があるのは活気を呼び込む」

「あまり多すぎるとインフレして物の価値自体が落ちるがな」

「お前…ものじゃないんだからその例えはどうなんだ?」

「先に花と例えたのはお前だろう?」

出雲は無駄話をしているとクラス担任が教室の不動を弾く音が聞こえ、皆が手にしていたスマホをしまう。担任の後ろから、見慣れない制服姿の女子生徒。 噂の転校生たろう。

「お前ら席につけ、ホームルームを始める前にまず転校生の紹介をする。じゃあ藤宮、自己紹介をしてくれ」

「はい」

カリカリと 音を鳴らし、何度も書いたであろう自分の名前をスラスラと黒板に書いていく

「藤宮千雪です。よろしくお願いします。前住んでいたところから引っ越してきたばかりでこの町のことはまだよく知りません。これから2年間、この町のこととクラスの皆さんのこと、一緒に知っていけたらいいなと思っています。」

クラスからは大きな拍手、特に男子からは強めに。 クラスとしても転校生は初めてなのでクラスの雰囲気が少し騒がしい気がする。

そんな中で俺だけが一人、この騒ぎの中で冷静になっている。

(あの女、どうしてこの学校に…)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


転校初日、藤宮千雪はクラスの注目の的となっていた。クラスの女子も男子も彼女に質問を浴びせ、彼女は涼しい顔でそれを丁寧に答えていた。 姿勢からでもわかる彼女の気品。きっとどこかの名家のお嬢様なのだろうと皆口を揃えて噂していた。本人はそんなことないと否定していたが、礼儀作法を見る限り名のある家のでなのだろうと思う。だからこそ、なぜ彼女があの夜、あんなところにいたのかが分からない…


「あなたは何者ですか。もし答えていただけないのであれば無理矢理にでも聞き出すまでです。」

「物騒だな。その質問はこちらがしたいぐらいなのだが、答えてはいただけないのだろうか」

「質問をしているのはこちらです。そして私があなたに答えることは何一つありません」

「傍若無人…」

「何か言いましたか。そんなおかしな仮面をつけていると声がよく聞こえませんよ」


街灯の少ない通学路。時刻は深夜を回り、高校生であればとっくに帰宅している頃だろう。こんな人気もない場所で若い男と女が一緒にいればあらぬ疑いをかけられそうだが、鎌を持った女と仮面をつけた男、どこかのパーティーで仮装でもしてきた帰りと思われるだろうか。

「悪いが極度の人見知りでね、仮面をつけていないとまともに人の顔も見られないのさ。それに、そんな大きな鎌を持っている相手に冷静でいるほうがおかしいだろう。もしかしたら俺の魂を刈り取りに来たのかもしれない。」

「残念ながら私は死神ではありません。あなたの魂も刈り取りませんし、あなたに興味すらありません。ただ、あなたがここにいた理由だけははっきりさせておかないとこちらも困るのです」

ただ質問をしているだけなのに、一切気を緩める様子がない。それどころかこちらの一挙手一投足を監視されているようで下手に動けない。 どうにかして隙を作らなければならないのだが、先ほどまで先頭を行っていたのかその隙は一切見られない。

「分かった、素直に質問には答える。だから一旦その武器をしまってくれないか。そんな大きな鎌をチラつかされてたんじゃこっちも冷静に話ができない。もちろんこちらは武器なんか持っていないし、怪しいものでもない」

「残念ながら武器をしまうことはできません。たとえあなたが武器を持っていなかったとしても、あなたが怪しいことには変わりがありません。1%でもあなたに疑心感を抱いている限り、私が警戒を緩めることはありません」

横暴だ。こちらには要求を飲ませようとするのに、あちらは全くこちらの要望に応える素振りを見せない。それどころが要求が飲めない原因をこちらに押し付けてくる始末だ。確かに、自分のつけているこの仰々しい仮面を見れば仕方がない気もするが。

「この画面を取って素顔を見せれば少しはこちらの要求を飲んでくれるのか」

「そうですね、あなたの人相次第ですがこちらが警戒を解いても問題ないと判断すれば、1割ぐらいあなたの要求を加味してあげなくもないですよ」

何だそれは、要求を1割聞くなんてそんな器用なことができるのか、と質問をしたくなるのを堪え、俺は画面に手をかける隙を作った 。

「わかった、じゃあ仮面を外すから少し待ってくれ」

そう言うと、画面に手をかけゆっくりと剥がしていく。

しかし、彼女は男の素顔を見ることはできなかった。 ゆっくりはがした仮面の下には、もう一枚の仮面が(・・・・・・・)

彼女が見せたほんの一瞬の隙を見逃さなかった。手にしていた画面を彼女に投げつけ、 その場は光につつまれる。 彼女が気がついた頃には既に男の姿はなかった。投げつけられた仮面もなくなっており、音もなく彼は姿を消してしまった。



(やられた…まさかあんな手に騙されるなんて)

千雪は自分の迂闊さに、苛立ちを隠せなかった。しかし、もっと不可解だったのはいとも簡単にこの場から逃げ出せたことだ。油断がなかったと言えば嘘になる。だがみすみす相手を逃すほど気を抜いていたわけでもない。全く気配がなかった、それどころか画面が光った瞬間からもうこの場に居なかったのではないかと感じる。

この街で活動を続ける限りきっとまた会うだろう。

その時は嘲笑うように幕を降ろした彼に 一矢報いてやろうと誓ったのだ。


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「よろしくね石神くん」

「…あー、よろしく藤宮さん」

石上は内心焦りを感じていた。正直のところ昨日の時点で正体がばれたとは思えないが、危険は可能な限り避けておきたい。

その点において今のこの状況は非常によろしくない。

敵かどうかはさておき、彼女とこは一悶着あった後だ。もしこの状況で彼女に俺の正体がバレてしまえば、何かしら報復に来るのは間違いないだろう(される理由に心当たりはないのだか)

少なくとも今はボロを出さないよ、普通の男子学生を演じて不審がられないように行動をしなければならない。

「たつや、せっかく藤宮さんが隣の席になったんだからもう少し嬉しそうな顔しろよ。こんな機会めったにないぞ、転校生がまさか自分の隣の席に、何て」

「いや別に、転校生って言っても同じクラスメートだろ。同じクラスの女子生徒が隣に来たって何にも特別なことはない」

「冷めてるようなお前。ごめんね藤宮さん、ぱっとしないやつなんだけどさ根は優しいし、いいやつなんだけどちょっと枯れてるんだ。だから普通に接してもらえると助かるよ」

「いいえ、こちらも転校生だからって変に遠慮されても大変だし、今ぐらい素直に話してくれた方がこちらとしても助かります。」

「そっか、なら良かった。俺の名前はヤマト、大泉ヤマト。クラスのみんなは下の名前の方で呼ぶから大和でいいよ」

「よろしくお願いします、ヤマトさん」

元々とコミュニケーション能力の高かった山とはすんなりと藤宮と打ち解けたようだ。こちらとしては助かる。普段うっとうしいとも感じるような大和のコミュニケーション能力がここで役に立つとは。持つべき友はなんとやらだ。

「本当はこいつも内心結構喜んでるんですよ。こいつ、普段はバイトばっかりしてて全然学校行事とかも参加しないし、部活に入ってるわけでもないから上司との接点が全然ないんですよ。昨日だって夜遅くまでバイトしててすんごい寝不足で。ほら見て下さいよこの隈、体壊すかもしれないっつーのによくやるつーか」

「おい、あんまり余計なこと言わなくていい。それと内心喜んでもいない」

「またまた~、そんなこと言ってバイト先に女子だっていなくて本当は嬉しいくせに~」

「たつやさんはどんなアルバイトをしているんですか?」

「ゴミ掃除のアルバイト」

「ゴミ掃除?」

「そうそう、登録制のアルバイト何だっけ?仕事のある時とない時で忙しさが全然違うんだと。すんごい暇な時もあればすんごい忙しい時もある。しかも仕事の時間帯が深夜なせいもあって割と学校生活にも影響が出てる。登録制なら他のアルバイトだってあるだろうに、なんでそんな大変なところのアルバイトを選ぶかね」

「時給がいいんだよ。それに俺は夜型だから深夜帯のアルバイトの方がありがたい」

「学校の授業はそのせいで先生から目をつけられてるって言うのになあ、その反面、成績だけはしっかりしてるから先生方も怒るに怒れないんだよな~」

「おいまて、その言い方だとまるで先生方が俺に目を付けてるような言い方じゃないか。以前、『石神はテストだけはしっかり受けていて偉いな』と褒められたぐらいだ」

「全然褒められてね!テストだけは、て念を押されて言われてるじゃねえか。そういうのは皮肉って言うんだよ」

「何を言っている。点数を取っていることを相手が認めている以上、俺が評価されていることは間違いない。少なくともこの学校という環境において成績は重要なファクターだ。それだけで先生からの印象も良くなり、こちらからの要求も受け入れられやすくなる」

「いや、先生からの印象は良くなってないと思うぞ。あと意見が通りやすいっていうのも間違いだ。お前の場合は意見を押し通そうとするから、先生方も諦めているだけだ。」

普段の達也の様子を知っている大和からすると、達也の発言に疑問しか抱かないようだ。 そんな俺たちの口論を聞いて隣の千雪はクスクスと笑っていた。

「お二人は本当に仲がいいんですね」

「まあ1年からの付き合いですから、こいつの面倒を見れるのもこのクラスじゃ俺ぐらいなもんですよ。普通の人だったらめんどくさくて関わろうとしないでしょ」

「俺自身、他と少し変わっていることは自覚している。とはいえ今の自分を変えようとは思わない。そもそも変かどうかなんて個人の主観でしかない。俺のことを変だと思うやつが半数より多いかどうか、それだけの話だ。もう少し日本の教育が進化すれば、俺のような人間が多数派になる未来もそう遠くない」

「嫌だな素直にそんな未来…、将来子供ができてもお前のような偏屈な奴には育てないよう家では教育しよう」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


始業式が終わり、藤宮が転校してきてから約2週間だった。あれから特に藤宮の目立った行動は確認できていない。それどころか、俺のことを疑う素振りも見せない。

学校では品行方正、クラスメイトからも各科目の先生方からも高い評価を受けている。教師からの頼まれ事も率先して引き受け、クラスの話し合いなどでは率先してまとめ役に徹している。

休み時間も彼女の周りには人だかりができている。彼女の笑顔が崩れているところを見たことがない。

あの夜見た姿は幻だったのだろうか、そう思うくらいだった。

(こちらとしても動きやすいから問題はないのだが…ここ2週間それとなく観察してみて、全く動きを見せないというのも少し不気味だ)

あれから目立った事件(・・)は起きていない。彼女との接触を避けるため、深夜の行動を少し制限したり、慎重に行動するよう心がけたおかげか彼女と接触はしていない。

(あの夜、彼女は絶対にあれ(・・)絡みであそこにいたのは間違いない。だからこそ分からない。やつらの一員なら見た目や雰囲気でわかる。だが、彼女からはもっとこう、違う別のオーラをまとっていた)

情報が少なすぎる。たつや自身、あまり抽象的な会話は好きではない。 しかし、あの夜感じたことは言葉でうまくに表せるものではなかった。だからこそ胸に引っかかる棘のように、もどかしい感覚が拭えない。

(少しリスクがあるが、少し彼女を尾行してみるか。これ以上こっちの行動を制限したまま動くのも面倒だ)

放課後のチャイムが鳴ると、達也は荷物をスクールバッグにしまい、藤宮が教室を出るのを見計らって教室を後にした。









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