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【現実ノ異世界】  作者: 金木犀
嘱託職員 塚田卓也
92/424

9 C班 報告書確認

「鬼島さん、こちらがC班の今日の簡易報告書になります」

「ああ、ありがとう」

「正式な物は後日お持ちします」


 特対の男性職員が、プリントアウトされた報告書を鬼島の居る部屋まで持ってきた。

 紙は両面印刷が5枚綴りになっており、本日行われたC班によるショッピングモール進攻作戦の概要が書かれている。

 各リーダーからの報告書は明日に提出され、回収班・調査班はまだ任務の真っ最中であるため、あくまでもC班班長・衛藤により"概要"がまとめられただけの簡易な報告書となっていた。


 鬼島は机の端に置いてあるレターケースの中のそれをチラリと見ると、パソコン作業を中断し中身をチェックし始めた。

 そして1ページ目の最後までも見ていない段階で、思わず傍に待機している男性職員に話しかける。


「え、炎使い出たの?」

「はい、そのようで」

「コレ、C班の編成じゃ大変だっただろうに…」

「最後まで見てみてください。驚きますよ」


 鬼島は報告書をチェックしてすぐに、今回の進攻先にCBの大幹部の炎使いが現れたことを認識した。

 そしてこちら側の人数や構成員もパッと確認し、一見すると今回組まれたC班の人員ではとても対処しきれるような相手ではないと感じた。

 もちろん、こうして報告書が提出されている以上「全滅した」なんてことになっていないのは分かるが、特対は「敵を全員捕まえたけど班員の8割は殉職しました」では話にならない。


 特対は効率よく成果を出す事よりも、どれだけ被害を抑えるかに重きを置いて仕事をしている。

 そのためにあらゆるタイプの能力者を確保し、ひとつの役割を徹底させているのだ。

 場合によっては一人何役もこなさなくてはならない、一般の能力者組織とは大きく異なる運用だった。


 そうした"個"よりも"組織"を重んじるここで、想定外の敵戦力と当たってしまったC班の今回の作戦は失敗になったかと思われた。

 しかし先に報告書に目を通していた男性職員が、冷静な態度で鬼島に早く先を読むよう促している。


「どれどれ…んー?」


 鬼島は言う通り報告書をどんどん読み進め、最後の方にある"本作戦の被害"の部分に辿り着いた。


「人的被害…ゼロ」

「ええ、こちら側の最終的な死傷者はゼロだそうです。ありえないですよね」

「確かに…異常だねぇ」


 報告書をしっかりと読むと、途中でケガ人が何度も出ているのは間違いない。

 想定以上の敵戦力に、医療チームが常に稼働しっぱなしなのは仕方なかった。


 しかし、最終的な人的被害ゼロというのはとてつもないことだった。

 ただの偵察任務・哨戒任務ならまだしもこれだけガッツリ戦闘が起きれば、特対の治療系能力者では手に負えないくらいの怪我をする者が出るのはそう珍しくない。

 ましてや相手はあの大幹部。死者が出ていてもおかしくない相手だった。



「…ふっ」

「何かおかしかったですか?」


 鬼島が突然笑い出し、男性職員が変に思う。


「いや、報告書をあの衛藤君が作成したと思うと、おかしくてね」

「ああ…」


 見た者全てが「そんなバカな」と思えるくらい()()()()()()()()()()()な報告書を作成したのが、よりによってあの衛藤だった事に、彼をよく知る鬼島が思わず笑ってしまったのだ。


「私も衛藤さんにはよく『報告書は正確に、誇張や端折ったりはするな』と口酸っぱく言われてましたからね…」

「彼は皆に厳しいからね…」

「ええ…」


 いい加減な者が作成した報告書には、内容が不十分な場合がある。

 しかし衛藤が作成する報告書に関してはそれはない、という事は二人が良く知っていた、

 つまりこの報告内容は、嘘でも大袈裟でもない事を示している。


「しかし、どうしてこんな事が起きたんだろうね。まさに奇跡のなせる御業だよ」

「…鬼島さんなら、その奇跡を誰が起こしたのか、分かっているんじゃないですか?」

「どうしてそう思うんだい?」


 とぼける鬼島とそれを追求する男、という関係が出来上がった。


「衛藤さんは特定の誰かの働きが分かるような簡易報告書を書いたりはしませんが、激しい戦闘により怪我人が続出しているのに最終的には死傷者ゼロ…。ということは医療チームに優れた治療能力者が居た事はわかりますよね」

「まあ、そうなるだろうね」

「ですが今回のC班の医療チームは、前回の大規模作戦に参加した時のある班の医療チームとほぼ同じメンツで、言葉は悪いですが、お世辞にも優れた能力者の集まりとは言えません…ある一人を除いて」

「ふむ」

「その一人は、今回の大規模作戦前に嘱託職員を募集した際に、3課の清野職員が推薦し鬼島さんがその稟議を"無理目に"通した人物でもあります。前回は居なかったこの人物が今回の奇跡の立役者である可能性が高く、それを鬼島さんが知っているのは当然かなと考えました」

「なるほどね…」

「どうでしょうか?」


 答え合わせをするように、鬼島の言葉を待っている。



「君のような勘のいい子は好きだよ」

「そうですか。鬼島さんが勘のいいガキが嫌いな人じゃなくて良かったです」


 鬼島は男に微笑みながら答えた。

 ハッキリとは言わないが、その問いかけが正解であることは態度から分かった。


「ただね、私も彼が何者であるかを知っているワケではないんだ。実は治療系能力を使えるというのも今回で初めて知ったくらいだ」

「そうなんですか?」

「ああ。君の事だから、塚田くんが【手の中】の事件に関わっているのは調べて知っている、という前提で話すけど」

「…はい。その通りです」

「先日捕まえた【手の中】の連中の半数は彼がやっている」

「そんなにですか…!?報告書で彼の名前が出たのは、最初に連中が襲撃したホテルに()()()()()()()()()()()()、という部分だけでしたが…。そのあとに民間の協力者Xというのが鬼島さんの手引きでちょくちょく現れたのも知っていますが、それも彼なんですか?」

「ああ。最初のホテルの襲撃事件。その際捕まえたメンバーは四十万くんがやったことになっているが、それは塚田くんがやったことだと踏んだ。だから私は各現場の責任者に、以降塚田という人物が現れた際は通すように、だが報告書にはその名前を明記しないように裏で手を回しておいたのだよ。そして組織の壊滅という結果に繋がった。私は彼の功労を高く評価しているし、私の直感は間違っていなかった」

「そこまで…一体なぜですか?」


 男は鬼島が能力も分からない人間をそこまで買っていることに大変驚いた。

 普通であれば特対でもない人間に現場での動きを許したりはしないし、近付くことすらままならないハズだ。

 それを鬼島の権限で名前も出させずに協力を許可したというのだから、理由が知りたいという男の思考は当然の流れだった。


「ここから先の事は君だから話すが、他言無用で頼むよ」

「はい…」


 鬼島は男に、最初に出会ったぼったくりバー事件の事や、直後の南峯令嬢誘拐事件の事をまず話した。

 そこでも、報告書には上がっていないが塚田が裏で立ち回っていた事を男に教えた。

 そして卓也が"物事の中心にいる"ようなタイプの人間であるという予感を持ち、彼のいいように根回しした事で全てが解決に向かったという鬼島の考えを伝えた。


「結果論だと言われてしまえばそうなんだがね。この前は例の"辻斬り"の二人と仲良く街を歩いていたよ」

「あの姉弟の能力者とですか?」

「ああ。もう悪い事はさせません、だってさ。おかしいだろう」


 鬼島は実に愉快そうに語っているが、男は困惑していた。

 1課の人間でも手を焼くほどの強力な暴れん坊が手なずけられた、というだけでも驚きなのに。

 手の中・誘拐・ぼったくりバーとそれぞれに漏れなく関わっている塚田卓也という人物の能力も人物性も未だに見えてこないのだから。


「そんなに気になるなら、今回の大規模作戦で特対(ここ)の敷地内にいる彼に接触してみたらいいじゃないか」

「そう…ですね」

「それにしても、衛藤君に気付かれたのは少し困ったなぁ…」

「彼の事を、ですか?」

「ああ。衛藤君は特対の中でも"個"の能力に重きを置くタイプだからね。誰よりも優れた治療能力を持ち、手の中や辻斬りとも渡り合える戦闘能力まで有しているとなると、彼は是が非でも欲しがるだろうねぇ…」

「衛藤さんの派閥に引き入れられる可能性は高いですね」

「派閥になんて塚田くんは縛られないだろうけど…私もそろそろ本気で動こうかな」


 今までは卓也本人と清野の意向を汲んで卓也獲得にあまり積極的に動こうとはしなかった鬼島だが、流石にのんびりしていられないと感じ動き出そうという宣言をひそかにしたのだった。

 そして鬼島もまだ知らない。

 卓也が最強のスラブレのプレイヤーであるという事を…




いつも見てくださりありがとうございます。


今回は○日目とは入れずに、ちょっと寄り道的な話でした。

次が謎の部屋に連れられた話ですよ。

間違っていませんよー。


引き続きお付き合いください。

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