1 不可解な遺書
『…というわけでC班は明日、埼玉県にある今は廃棄されたショッピングセンターに向かってもらう。ここは大規模能力者組織【CB】がかつて拠点として使用していた可能性がある。諸君にはヤツらの痕跡が少しでも残っていないかを確かめてもらいたい。えー、配置についてだが…』
今俺が居るのは特殊犯罪対策部、通称:特対の施設にある大会議室だ。
部屋の収容人数は300人で、大学のでかい講義室くらいの広さはある。
階段状にはなっていないので、後ろの席の人たちへの配慮として天井には等間隔でテレビモニターが設置されており、資料や板書はそれで確認できるようになっていた。
特対はその組織の特殊性から他の警察施設とは別に、普段デスクワークをするオフィスや住み込みの寮や食堂などが一緒になった大きい専用の建物が存在していた。
会議や通常業務、待機をする場所などを分けることで、"超能力"の存在を秘匿しているのだ。
そして俺はそこで、今度行われる大規模作戦のブリーフィングを受けていた。
作戦はざっくり言うと、数百人規模の超能力犯罪組織を叩くために各地に散らばる拠点へ向けて、A~Cの3班が日替わりで進攻するという内容だ。
俺はその中のC班に所属しており、明日、埼玉にある今は使われていないショッピングモールに行き、そこで作戦中傷ついた職員を治す"医療チーム"として業務にあたる事になっていた。
何故俺がそんな状況になっているのかというと、それは8月頭の土曜日に遡る。
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【嘱託職員 塚田卓也】編
ヴーヴーヴー
土曜日の昼頃。
3日間の夏休みをいつ取得しようか等と考えながら自室でゴロゴロとワイドショーを見ていると、携帯に1件のメール受信があった。
確認してみたら、送り主は清野からである。
一体なんだ…?
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Sub:俺からの貸しが一定数を超えました
本文:添付の画像を見て、直接俺のところへ来い。
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メールの中身はとてもシンプルかつ高圧的だったが、宝石の件では確かにめちゃくちゃ世話になったので俺は何も言えなかった。
一先ず俺はその添付ファイルとやらを開いて、清野に会いに行くことにする。
正直このときの俺は借りを返すのに何円かかるだろうなんて悩んでいたので、渡りに船と思っていた。
後に「なんて面倒な事をさせるんだ」と後悔したが…
俺はメールに添付されていた画像ファイルを開く。
画像は何かの手紙を撮影したものだった。
どれどれ…
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今まで私によくしてくれた皆、ありがとう。こ
の手紙を見ているという事はもうすでに
私はこの世にはいないのだろう。だが私の事
は早く忘れて、普通の生活に戻って欲しい。
これまで私が担当していた能力者探知は
もう次の担当が決まっているかな?急な振
り方になってその者には苦労を掛けてしまい
やりきれない気持ちでいっぱいだ。
なんとかみんなで協力をしてくれ。
ついでにお願いなんだが、私の部屋は中を
見ないでしばらく保存してくれるとありがたい。
和久津 沙羅
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送られてきた添付ファイルの中身は、遺書と思われる手紙を撮影した画像だった。
手紙の送り主はワクツ…サラというのだろうか?
女性が書いた物のようだ。
文面から、この手紙を書いた人物が警察署内で能力者探知の任に就いていた事が分かる。
そしてこれは、先月バスター神宿の前で清野が話していた"1年前に自殺してしまった同僚"の遺書だという風に考えるのが自然だろう。
まあその辺はこれから直接清野に聞けばいい話だが。
それよりこの手紙の内容で最もおかしいのは、やはり隠れたメッセージだ。
俺は変な改行とかがある文章は思わずタテ読み、ナナメ読みする癖があるのだが、こいつは分かりやす過ぎる。
一番左の列が【今の私は コモリヤ ナツミ】と読める。
意味はまだ分からないが、露骨なタテ読みが手紙の中に仕込まれていた。
コモリヤナツミ…人の名前だろうが、今のというのはどういう事だろう。
とにかく写真だけでは分からないことが多すぎるな。
清野に来いと言われているし、おそらくコレを調べろとかそんな依頼だろう。
面倒な事になりそうだ…
俺はイヤな予感をさせながらも、外着に着替え早速神多交番に向かう事にした。
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「よぉ、来たか卓也」
俺はメールを見た後、そのまま神多交番までやってきた。
交番では清野が俺を待ってましたと言わんばかりに出迎える。
「よぉじゃねえよ。一体何だよ、あの画像は」
「お前、あれを見て何か感じたか?」
「はあ?謎だらけだぜ。まず…」
俺に遺書を見せた真意や、タテ読み、そしてコモリヤナツミなる人物のことなど…順を追って説明をしてもらおうとした。
しかしーーー
「待て。その先は言うな」
「あ?」
清野は俺の言葉を遮った。
自分で画像を送っておいて言うなとは一体なんぞや。
「俺が送った画像は…1年前に自殺した和久津という特対職員の遺書なんだがな」
「ああ、内容を見りゃ分かるよ。この前話してたヤツだろ?」
「あの遺書の内容について何かを考えようとすると、頭に靄がかかって思考がストップしちまうんだ」
「何…?」
つまり清野は、あの文章がおかしいとは思っているが、それのどこがおかしいかを考えることが出来ないという事か…
「そりゃ何か認識阻害能力が発動しているという事か?」
「恐らくな…他の特対職員にもおかしいと思ったヤツは居るが、原因について考える事ができず、今はもうおかしいと思う事さえ無くなっている。そして俺もいつそうなるか分からない状態だ」
清野は遺書の事を考える度に自分の関心が薄れていくのを感じ、写真を撮っておいたのだという。
そして"和久津 沙羅"を直接見たことが無い信頼できる人間に、いつか調査を依頼できる様準備していた。
清野の考察では認識阻害能力発動の条件は、和久津 沙羅を知っている人間、あるいは遺書の原本を見た者だと踏んでいるらしく、俺はそのどちらにも当てはまらない。
なので内容に疑問を感じ、こうして清野に質問をしに来れたというワケだ。
俺は清野が依頼できる人間の条件をクリアしていたということだった。
「状況は分かったが、謎を解こうにも俺が色々と聞きたかったことをお前が答えられないんじゃどうしようもなくねーか?」
「ああ。そこで卓也には特対に潜入捜査をしてもらいたい」
「潜入捜査?」
「そうだ。実は今度行われる大規模犯罪組織の一斉確保に向けて、今ウチは嘱託で雇う能力者を探しているところなんだ」
「おいおい、まさか…」
清野は真剣な表情で告げる。
「卓也には嘱託職員として特対に入り、和久津の死の真相、そして今も発動し続けているこのクソみたいな催眠能力の謎を解明してほしい」
いつも見てくださりありがとうございます。
第4章 嘱託職員 塚田卓也がスタートします。
第2章で少し話題にあがった、能力者を探知する能力者の
自殺を調査するというところから始まる物語になっています。
お楽しみに。
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