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【現実ノ異世界】  作者: 金木犀
純潔の輝石
82/417

37 修行と輝石【第3章エピローグ】

いつも見てくださりありがとうございます。


今回は後書きに解説を入れたので、お礼は前書きに。

次から4章に入ります。

よければお付き合いください。

「塚田さん…なんか筋肉すごくないですか?」


 社長室所属の新人秘書・小宮さんが、突然そんなことを聞いてきた。


 宝石の件からはや1週間が経った月曜日。

 俺は役員クラス以上の決裁を貰わなくてはならない書類を持って小宮さんのデスクまで来ていた。

 総務部長までの決裁が下りた書類は、それ以降の決裁を貰う為にまずは社長室に提出する必要がある。


 というか、それ以降は社長室で回してくれるので「あとよろしくー」という感じで渡すだけだ。

 ただしバラバラと五月雨式に持って行っては迷惑なので、まとめて決まった日に持って行く事になっている。それが月曜日だ。

 金曜日までに書類を集約し、月曜日の朝総務部長が押印して誰かが社長室に持って行く。

 これがわが社のルールだ。



 いつものように11時頃書類を持って訪ねたところ、小宮さんが先ほどの質問を投げかけてきた。

 俺は自分の上半身を見ると、確かにワイシャツの袖や胴体部がパツンパツンだった。

 というか、分かってた。ワイシャツ新調しないとなーっていうのは。

 でも間に合わなかったのだ。なんだかんだあって。


「そうかな…?」


 とりあえず俺はとぼけてみる。

 こんな急にガタイが良くなったらおかしいもんな、普通。


「いや、絶対そうですよ!だって、先週の火曜日ボナ行った時はここまでじゃなかったですもん!!」


 連休明け、小宮さんとは駅前のイタリアンに行く約束をしていたので、そこで1対1で会っている。

 だからその時と比べて急な変化だと認識されて引っかかってしまった。


「あー…筋トレに力入れてるからさ。その効果が出たんだよ」

「そんな急にですか…?」


 俺は力こぶを作って見せる。

 上腕二頭筋が張り切り、腕が風船のように弾けそうでパンパンだ。

 1()()()()()()()成果というやつだ。


「…ゴクッ」


 何か小宮さんの目がちょっとコワイが、これ以上この話を掘り下げても俺に得は無いので切り上げさせてもらおう。


「じゃあ、承認お願いね…」

「待ってください!」


 俺がさっさと自分のデスクに戻ろうとしたところ、強めに呼び止められた。

 そんな簡単に筋肉は付きません、とか言われたら面倒だな。

 本当はやりたくないけど、能力で減らすか…?


 俺の能力は解除という機能が無い。

 数値を弄ったらちゃんと自分で元に戻さなければならないので、自分の体の数値などは強化したらなるべく本来の状態にしておきたい。

 じゃないと「普通の時の自分」をうっかり忘れてしまいそうだから。

 これが常に戦いに身を置くのであれば、ステータスは常にフルマックスでも問題ないのかもしれないが、オモテの世界にいる以上身体能力は普通にする。

 しかし今回の筋力アップは俺の修行の成果なので、これは弄らないでそのままにした。

 これが今の俺の本来の肉体だからだ。


「…どしたの?」


 俺はつとめて冷静に、小宮さんに聞く。

 何か呼び止められるような事をしただろうかと。


「あの…筋肉、触ってもいいですか?」

「へ?」


 小宮さんは意外なことを言い始めた。

 よくボディビルダーとか格闘家に対してグラビアアイドルなんかがやるような提案を俺にする。

 ちょっと顔が赤い。どんだけ意を決したお願いなんだ…


「まあ、じゃあ…どうぞ」

「すみません…では」


 そう言うと、小宮さんは俺の腹筋を触って来た。

 いきなりそこか。なかなかやるな宮の字…

 これが逆で、俺が女子社員に「おっぱいでかくなった?触っていい?」なんて聞いたら良くて懲戒解雇、悪いと逮捕案件だ。

 俺が捕まえた【手の中】の連中の隣の独房に入るなんて笑えないぜ。

 不公平な世の中なのであった。


「こちらも失礼して…」


 今度は大胸筋だ。

 何この娘、溜まってんの?



「ウチはお障り禁止よー」

「ひゃあああああああああああ!」

「あ、星野さん」


 席をはずしていた小宮さんの上司である星野さんが帰って来た。

 そして小宮さんは面白いくらいに飛び上がって離れた。

 そして「ち、ちちち…」とテンパって鳥のようにさえずっている。

 

「そういうのはー職場ではダメよー」

「はは、すみません。止めていればよかったんですが」

「何してたのー?」

「筋肉付いたねーって話をしてて、自分も努力が褒められて嬉しくて、つい」

「ふーん…」


 星野さんがチラリと値踏みするように横目で見る。


「確かに、逞しくなったわねー」

「ありがとうございます」

「鍛えてたの?」

「はい。強くなろうかと思って」


 嘘は言ってない。

 宝石事件では結局白縫からの報酬を断り、代わりに輝石は貰ったが「はい売却」とはいかず、現金の入りが今のところゼロだった。

 しかし、金銭ではない報酬ならば昨日貰った。


 例の新見兄妹から…









 ________________





 Prrrrrr…


「はい」

『もしもし、塚田さんの携帯ですか?』

「そうだけど」

『あ、新見です。こんにちは』

「おー」


 連休最終日の夜、新見兄から俺の携帯に電話がかかって来た。

 無事に取り調べを終え無罪放免となったという事でその報告と、例の武術の達人を紹介してくれるという件の確認をしてくれたのだ。

 俺は罪に問われなくて良かったねと伝え、新見兄はしきりに感謝していた。


 そして早速次の日曜日に、その武術の達人を紹介してもらうため指定の場所へと向かった。



「道場だ…かなり年季の入った」

「あ、塚田さーん、こっちこっちー!」

「おお、妹ちゃん」


 道場の中には既に新見兄妹が揃っていた。

 そして、その横にかなり高齢のおじいさんが1人…


「紹介するよ、塚田さん。この方が僕らの師匠の【重田(しげた) 国光(くにみつ)】先生です」

「こんにちは。塚田と言います」

「…」


 先生と呼ばれた老人はこちらをチラっと見るが、喋らない。

 見た所、結構なお年を召していそうだが、本当に師事などしてもらえるのだろうか…


「塚田さんは、すぐに強くなりたいんですよね?」

「え、あ、まあ…早いに越したことはないかな。【手の中】の連中みたいなヤツと渡り合うのに能力頼りってのは避けたいから」

「分かりました。では今日1日、お付き合いしますので、一緒に頑張りましょう!」

「1日?」

「ええ、厳密には1年間ですが、皆でここで暮らすんです!」

「??」



 新見兄の能力は【限定空間内の時間の流れを早めたり遅くしたりする能力】だった。

 俺と戦ったときに見せた動きは、自分の体内の時間を早めて相対的に周囲の動きを遅くしたのだという。

 そして今日は、今いる道場内の時間の流れを速くして、1日で約1年分の修行を積めるようにしてくれるというのだ。

 まるでマンガだ。


 そして新見妹の方は【少しの間、対象の時を戻す能力】だ。

 これで師匠の年齢を30年ほど若返らせた。

 かなりのお爺さんだった重田さんはイケオジへと姿を変えた。

 そして、妹は道場の外へと出ていってしまった。

 これで能力を数時間行使すると、道場内では数ヶ月間の効果が続く。


 あとは、思い出すのも辛くなるくらい厳しい修行が続いた。

 師匠は徒手空拳から剣槍棒斧等々…ありとあらゆる"武"を心得ており、俺は最初体の動かし方を教わりながらひたすらボコられた。

 基礎が終わるとひたすら師匠と新見兄と実戦。


 来る日も来る日も来る日も…闘って闘って闘った…

 およそ1年間。現実世界で12時間。

 新見兄も嫌な顔一つせずに付き合ってくれた。

 そして俺たち、1年も同じ時を過ごせばそりゃ仲良くもなるってもんで、今では親友のような距離感になった。

 過酷な状況を一緒に過ごしたというのも、距離が近くなった要因と言えよう。


 道場内にはあらゆる武器があり、使ったり使われたりした。

 師匠が最初に俺を褒めてくれたのが、「お前さんがいると武器を壊しても直せるから思う存分やれる」だった。

 なので滅茶苦茶容赦なかった。


 飯を食う時は一旦道場を出て、併設された師匠の家で済ませる。

 そこに新見妹はいたのだが、彼女からするとしょっちゅう来て食べて帰り、来て食べて帰りの繰り返しで、大食い選手みたいですごかったそうだ。


 ちなみに兄妹はこの修行を行う前に約1年分の食料を業務マーケットで買い込んでくれていた。

 俺が食事代はちゃんと払うと言ったら、「これは妹の命を救ってくれたお礼だから、払わせてほしい」と言われ、ありがたくそれを受けた。



 妹が呼びに来るまでの間、俺たち3人はずっと武術の修行に明け暮れる。

 体を使った技能は一通り叩き込んだので、様々な箇所の筋肉が発達し大きくなった。

 急激な筋肉の増加は、実は急激では無かったのだ。


 そして俺はようやく師匠からも新見兄からも及第点を貰え、今に至る。

 新見兄からは呑み込みが早いと褒められていたが、師匠からは結局一度も手放しで褒めてはもらえなかった。

 兄妹曰く、「そういう人だから」だそうだ。

 だが別れ際、師匠に修行に付き合ってもらったお礼を言うと、「何か困ったら言え」と言ってくれた。

 本当に有り難い…


 兄妹とも連絡先を交換し、今度は遊びに行こうと約束をした。

 同じ能力者だし、一緒に仕事をやるのも面白いかもな。


 とまあそんなわけで、俺はなんちゃって格闘技ではなくしっかりと武術全般をみっちりと教わったのだった。

 能力強化前の身体能力も上がり、強敵と戦う時も近接戦で後れを取りづらくなっただろう。

 とは言え、たかが1年の修行だけではまだまだ物足りないのでもっとやりたいと申し出た所、新見兄から「あまり僕の能力で修業をし過ぎると、周りとの年齢が合わなくなるよ」と言われた。

 確かにそうだ…







 ________________








 三人と別れ、俺は自宅のベッドに寝転がりふと"純潔の輝石"を手に取り眺めていた。

 この石の力が欲しくて、虎賀は仲間を集め自分の全てを賭けて動いていた。

 この石が持つという「奇跡の力」で自分の体を治したくて、何人もの罪のない人々の命を奪った…


 石を天井にかざし、赤い宝石の中を見つめる。

 確かに先週は何か動いていた気がしたんだが、今はもうすっかりただの綺麗な宝石だった。

 売れば数十億円はくだらない、ただの宝石。


「ていうか、どうやって使うんだ?コレ」


 体を治すと言っても、こんなでかいモン呑み込めないし。

 悪いところにかざせばいいのか?それともあてがうとか?

 でも内臓とかだと無理だしな。


「うーん…」


 俺がこの石の正しい使い方を考えていると、ふと声がした。


『力なら、もう得ているぜご主人サマ』

「誰だ!?」


 俺はすぐさまベッドから飛び上がり周囲を警戒する。

 そして聴力を強化し、先ほど聞こえた()()()()()を探った。


『違う違う、あたしはご主人サマの中にいるんだよ。周りを探しても見つからないって』

「中…?一体何のことだ」

『洗面所に行って鏡を見てみ。そこに答えがあるぜ』


 俺は恐る恐るだが、声の言うとおり鏡のある洗面所へと向かった。

 声色から、敵意は無さそうに感じる。油断はできないがな。


「来たぞ…」

『もっと寄って、もっと、もっと近く』

「こうか?」

『瞳の中を見て、しっかりと』

「瞳…?」


 俺は目の中が見えるくらい鏡に近づいた。

 するとうっすらと"角の生えた馬"のようなものが見える。


「…何かいる」

『何かとは失礼だなぁ…あたしは"ユニコーン"。ご主人サマが呼んだんだぜ。これからよろしくな♪』

「マジかよ…」


 俺はひょんなことから、ユニコーンのマスターとなってしまった。



【純潔の輝石】:儀式用魔道具

聖・護・癒の神秘の力を持つ霊獣:ユニコーンを召還するための宝石。

粒子の状態で若い処女の体内に取り込まれると、およそ

1年でその女の心臓が石へと変化する。

石を通して瞳に光を入れると、その瞳にユニコーンが現れ住まう。

霊獣はこの世界では、人間の瞳の中が住み心地が良く好みである。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 周りの認識と合わなくなるというか年齢問題に関しては、能力を失わない限り主人公ってある意味不老なので問題無いですよね。 年齢も数値として弄れるはずですし。 ハゲも髪の本数増やしてフサフサにも…
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