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【現実ノ異世界】  作者: 金木犀
純潔の輝石
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32 辻斬りふたり

「襲撃ってどういうことだ?」


 いのりがスピーカーモードに切り替えてくれたので、俺は会話に参加することが出来るようになった。

 そして先ほど東條がいのりに話した内容を詳しく聞くことにした。


「あまり長くはお話しできませんが。ウチに限らず能力者組織の中である二人組の話が出るんです。それが"能力者専門の辻斬り"みたいなことをしていて、どこどこの組織が被害にあった…みたいな情報がたまに流れてくるんです」

「辻斬り…」


 そりゃまた古風な…能力者そのものに恨みでもあるのか、それとも単なる憂さ晴らしか腕試しか。


「その二人は電気を操る能力者と、氷を操る能力者で、決して相手を殺したりはしません。ただある程度痛めつけて、それで立ち去るみたいなんです」

「何がしたいんだそりゃ」

「分かりません…」


 こりゃあ憂さ晴らしの説が濃厚かもな。

 しかも、恐らく相手はガキだ。損得よりも感情で動いている感じがする。


「それで、その辻斬りとやらが今度はNeighborのアジトにやってきたってワケか」

「はい、仮面を付けた二人組が現れて、電気を使う方が突如襲って来たんです。今はNeighborの戦闘員の皆さんが応戦してくれてますが、あまり長くはもたないでしょう…」

「そんなに強いのか」


 多勢に無勢なのにヤバイということは、相手は相当な手練れらしい。

 まあ辻斬りなんてイカれたことをやっているんだから、相応の実力が無いと続かないよな。


「でも、殺されはしないんだよな?だったら抵抗しないで…」

「仲間がやられていくのを黙って見てることなんてできません!」

「…そうだな。悪かった」


 俺にとっては良い印象の無い組織だが、東條は今も過ごしているんだもんな。

 自分の軽率な発言に少し反省した。


「それで、俺はどうすればいい?実は俺といのりは今横濱に居てさ。そっちに着くのに1時間以上はかかるぞ」

「それでしたら問題ありません。Neighborの移動系能力者の方に迎えに行ってもらいます。どこか横濱駅の近くの、人気のないところに移動してもらえますか?」

「あー、わかった」



 言われた通り、俺たちは急いで駅から少し離れた人気のない場所に移動した。電話で東條に、今の位置から見える景色(施設や店など)を伝えると、OKがもらえた。

 そして少しして、ある青年が現れた。


「おまたせしました!」

「おお、アンタが、移動系の」

「そうです!初めまして、俺【(しま) 次郎(じろう)】って言います。Neighbor所属です」


 目の前に現れた男は元気よく自己紹介と、いきなり自身の能力を説明してくれた。


「俺の能力は"指定した場所に1分間だけ行って帰ってくる"能力です。そして帰ってくるときに持っている物や触れている物・人も一緒に転送できます」

「なるほど…便利だな。自分は戻らなきゃいけないけど、運搬とか人の送迎には最適かもな」

「そうなんです!ただし、一度行ったことがある場所じゃないとダメなんで、普段は主に視察と言う名の旅行をさせてもらってます!」


 そりゃあいいな。大義名分をもって旅行。俺だったら喜んでやっちゃうね。


「嶋くん。俺は塚田卓也だ。よろしくな」

「はい、存じております!」

「しかし良かったのか?自分で言うのもなんだが、Neighborの連中には俺の事キライなやつが多そうだが、自分の能力をペラペラ喋っちまって」

「問題ありません!平さんも東條さんもあなたの事を頼りにしていますし、それに青柳さん達のやり方にはみんな反対してました」


 だったらいいか。

 そもそも俺もあまり積極的に関わらないようにと思っていたし、また不意打ちされるなんてことが無ければそれでいい。


「っと、スミマセン。もうすぐ1分なんで、三人とも俺に捕まってください!」

「わかった」



 青年の言う通り俺たち三人は手を置くと、すぐに視界が光に包まれた。







 __________








 眩しさに閉じていた目をゆっくりと開けると、目の前には東條がいた。

 どこかの一室の様だが。


「塚田さん、いのりちゃん、真白さん。ありがとうございます。嶋さんも」

「いえいえー。こんなことくらいしか今はできないっすから」

「ここは?」

「ここはNeighborの臨海エリアアジトの地下にある事務所です。非戦闘員はここに避難しています」


 見ると若い女性や明らかに戦え無さそうな…と見た目で決めては失礼だが気の弱そうな男性などがここに待機している。

 嶋くんみたいに補助向きの能力なのだろう。


「敵は上の階に二人だっけ?」

「はい。危害を加えてくるのは電気使いの方だけで、氷使いは今のところただ見ているだけです。ホラ」


 東條が指差す先にあるモニターには丁度上の階の監視カメラの映像が映し出されており、その中の一つに腕を組んだままコンテナに寄りかかって動かない仮面の人物がいた。

 見た感じ…女の子か?

 コートみたいなのを着ていて体型が分かりづらいが、華奢だ。

 もう一方の電気使いの方は、動き回っているのかたまにカメラに見切れるくらいで、姿はほとんど確認できない。


「ちょっと実際に上に行ってくるわ。カメラじゃよくわからないし」

「気を付けてね、卓也くん…!」

「ああ、まあ…大丈夫。殺されないみたいだしね。全員やられたら帰るでしょ。テレパシーだけ俺につないでおいてよ、何かあったら念じるから」

「わかったわ…」

「お気をつけて」

「おう」


 俺は軽く右手を上げて挨拶すると、階段で1階へと上がる。

 そして音を頼りにまずは電気使いの方を探して、あわよくば無力化しようと思い倉庫内を歩いた。


「どこだ…ん?」


 少し広めの場所に出たところで、辺りに電気がチリチリと発生する。

 そして、次の瞬間


「あれ?お兄さん、新しいお仲間?」

「っ!」


 俺のすぐ左横に、仮面を被った人物が現れた。

 いつ接近されたのか、そもそもどうやって近づいたのか。

 色々と分からないことだらけだ。

 多分だが、電気の速さで移動が出来る能力者かもしれないということと、声からして少年だということ。

 瞬間得られた情報はこれくらいだった。


「まあいいや。少し寝てなよ」

「くっ…!」


 仮面の少年が手をかざした瞬間、俺の体は大きく吹き飛び、遠くにあったコンテナに叩きつけられた。


「が…はっ…!」


 体が痺れ、衝突のダメージで全身が痛い。

 体から力が抜けずるずると地面に倒れるが、すぐさま能力で回復しなんとか持ち直すことが出来た。

 膝に手を付きながら服の汚れを払い、立ち上がる。

 俺が元居た位置には既に少年は居なかった。



「ってーなぁ…」

「あら、すごい」

「おぉ!?」


 隣にはいつの間にか、もう一人の仮面が立っていた。

 というよりも、さっきカメラに映っていたコイツの近くに俺が吹っ飛ばされたというのが正しいのか。


「さっきの一撃を食らってすぐ立てるなんて、お兄さんって絶縁体?」


 なんでやねん。

 それより、やはりこっちの仮面の方は少女だ。声を聞いて確信した。

 そして今俺の目の前で、あまり警戒心無く突っ立っている。

 弱体化するなら今か…?


 …いや。

 触った瞬間氷漬けにされるかもしれないし、敵意が感じられないからと言って迂闊に攻めるのは危険か。

 万が一こっちを無力化して、電気使いの方が逆上してNeighbor全員皆殺しなんてことになったら笑えない。

 少し慎重に動こう…



(いのり…聞こえるか?)


 俺は心の中でいのりに話しかける。


(聞こえてるわ、卓也くん)

(東條にテレパシーを繋いでくれないか)

(分かったわ、待ってて…)


 そして、数秒もしないうちに。


(塚田さん、どうしました)

(済まないが、この仮面二人の過去を観てもらえないか?)

(この二人の過去を…ですか?)

(ああ、コイツら間近で見ると相当強い。1対1ならやれないことは無いが、相手が二人なうえNeighborの連中もいる。強硬手段は最後に取っておきたい)

(なるほど…)

(それにコイツらは恐らく中学生くらいだが、俺の予想が正しければワケありだ。あまり痛めつけたくないっていうのがある)

(そんなに若いんですか…分かりました。私の能力で"視て"みます。相手を目視する必要があるので、これから私もそちらにコッソリ向かいますね)

(危ないのに済まない)

(いえいえ、部外者の塚田さんが協力してくれているのに私だけ安全な所にってワケにはいきませんよ)

(ありがとう。俺も場を繋いでおくから、まずは俺の近くにいる動いていない方を見てくれ)

(はい。何かわかったらテレパシーでお伝えします)


 一旦会話が途切れる。

 俺は横の氷使いがどこかへ行かないよう、会話で時間を稼ぐことにした。

 先ほど能力で電気使いと氷使いを見て()()()()()も得られたので、まずはそこから切り出してみる。


「なあ」

「なぁに?」

「そんなとこで見てていいのかよ、仮面さん」

「というと?」

「いや、身内の暴走を止めないでいいのかなってな、魅雷(みらい)さん」

「…へぇー」


 二人を見て分かった事、それはどちらも苗字が一緒だということだ。

 目の前の氷使いが【七里(しちり) 魅雷(みらい)】で、電気使いは【七里(しちり) 冬樹(ふゆき)】。

 この二人、恐らく兄妹か何かだろう。


「タフな上に、情報収集力も凄いのねお兄さん」

「褒めるんなら、今すぐ彼を止めてくれない?」

「残念ね。私は別に止めに来たわけじゃないの。ただ勢い余って殺してしまわないよう見ているだけよ」

「そりゃ残念」


 氷使いを通じて電気使いを止めるのは無理そうだ。

 しかし、決して推奨しているわけでも積極的に参加したいわけでもなく、あくまでストッパーとして来ていると言った。

 上手くいけば、少しだけ協力が得られそうだ。作戦次第だが。



(終わりました、塚田さん)


 テレパシーで東條の声が聞こえてくる。

 どうやら過去を調べる事が出来たようだ。


(どうだった?)

(はい。どうやらお二人は過去に能力者だと判明した事で、ご両親から縁を切られているみたいです。塚田さんの言う通り、氷使いが中学三年生で、電気使いが中学二年生。ご姉弟でした)

(やはりか…)


 こんな若いヤツらが辻斬りみたいなマネをするということは、十中八九家庭環境に問題があると思っていた。

 だが縁を切られていたとはな。


(じゃあコイツらは今親元から離れて暮らしているのか?)

(いえ、中学卒業までは家に置いておくという約束だそうですが、もう何年もご両親との会話は無いみたいです)


 いきなり追い出さない辺り、まだ慈悲深いが…もう関係は冷え切っている。

 そして能力者を襲っているのは、そんな状況になった原因を超能力のせいにして、八つ当たっているのだろう。


 一般人への危害は警察が即捜査してくるから憂さ晴らしにしてはリスキーだ。

 それに比べて能力者同士の争いは公には守れないから、結構ザルだ。

 そこを上手い事利用しているのか。


 だがこんなこといつまでも続けていたら、いつか絶対に痛い目見る。

 法は相手だけじゃなく同時に自分たちの事も守ってくれない。

 反撃で殺されても文句は言えないからな。

 早いとこ止めてやらないと。



(他に何か分かった事はない?)

(えーと…氷使いのお姉さんの方は今まで通りの生活を送っているようですが、弟さんの方は学校をサボりがちで、家でゲームをやっていることが多いみたいです)


 ゲームか…


(それってさ、やっているゲームは最新型だったりする?)

(いえ、何か古いゲーム機が多いなって感じに見えました)

(その中に、"テンニンドーキューロク"はあった?)

(私の見た過去のビジョンにはありましたけど、それが何か?)

(いや、ちょっとね)


 少し平和的解決への突破口が見えた気がした。


(情報は充分だよ、ありがとう。危ないから下に戻ってて)

(わかりました。気を付けてくださいね)

(ああ。いのりもありがとう)

(ううん。何かいいアイデアが浮かんだみたいね)

(おう。これから実行するから、引き続き繋いでおいてくれ)

(わかったわ)



 さて、ここからはひと芝居打つ時間だ。

 上手い事、こちらの挑発に乗ってくれるといいんだが…


「なあ魅雷さんよ」

「今度はなに?」

「俺は冬樹くんを傷つけずに、和解したいと思っている。キミも止めこそしないが、できればこれ以上弟にこんなことはしてほしくないと思っている。違うか?」

「…そうね」

「そこで、ちょっと俺の作戦に協力してほしいんだが、どうだろう。話を合わせてくれるだけでいい」

「…」


 表情は見えないが、沈黙している。多分少し考えているんだろう。

 そして数秒の後。


「いいわ。一回だけ手伝ってあげる。何をすればいいの」

「よしきた」


 俺は、魅雷にこれから行う作戦を話した。



いつも見てくださりありがとうございます。


孤独のグルメ シーズン9が終わって淋しい。


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