24 11人いる!
「参ったのはこっちだっつーの」
たっぷりと嫌気を込めて、溜め息と一緒に愚痴を吐く【全ての財宝は手の中】のメンバー【黛 麻友】。
彼女の両手には泉気が集中していた。
「仲間が2人もやられてさぁ…首はねられてるし…ムカつく」
黛が両手を振ると、辺りにあったベンチやガチャポンの機械、自動販売機までもがバラバラになり床に崩れ落ちた。
金属がこれほど見事に切れてしまうのであれば、人間の首を落とすなど造作もない。
「あんたもこうなんのよ」
目の前に横たわる首の無い警官を蹴飛ばす黛。
よく目を凝らしてみると、両手の指先からは糸状のものが伸びている。
これが彼女の能力、【絶命の赤い糸】の正体だった。
しなやかで鋭い糸状の刃が、彼女の指さばきによって対象を切り裂く恐ろしい能力だ。
切れ味は、そこらじゅうに転がっているモノが物語っている。
黛は八つ当たりを一通り終えて怒りを一定値まで下げ、改めて照準を四十万に向けることにした。
足元の警察たちとは違う雰囲気を纏う、彼女の仲間2人を殺したであろう目の前の男を見据える。
四十万は「参った」と言いながら、その後何のリアクションも起こさず突っ立っていた。
諦めたのか、何か策があり余裕があるのかは黛には判断がつかないが、やることは変わらないのでそのまま仕留めようと腕をゆっくりと上げた。
指先からは糸が紡がれ、四十万の体をバラバラにせんと動く。
「いやぁ、参ったね、ホント」
四十万はニヤけ顔を崩さず、未だ立っている。
「だったらバラバラになりな!」
黛は叫び、四十万を切り裂かんと手を振り、そしてーーー
そのまま停止した。
辺りは静寂に包まれ、この状況を理解しているのは原因である四十万を除いて他にはいない。
「参ったね…出世しすぎちまうぜ」
先ほどまでの心配とは、2日で7人もの組員確保という大手柄による過剰な評価アップを憂いてのことで、目の前の敵にはなんの脅威も感じていなかった。
四十万はポケットからスマホを取り出すと、電話をかけ始めた。
『四十万さん?どうしましたか』
「おう、今どこよ?」
『さっき送ってもらった住所まで向かってますよ。あと30分くらいで着きます』
「そうか。こっちは3人目を捕まえたとこだ」
『えっ!?やったじゃないですか』
「ただ、合流した4課の職員が6人ほど殉職しちまったがな」
『…』
電話の先では、部下が沈黙してしまう。
『…四十万さんは大丈夫なんですか?』
必死に絞り出したのは、上司への労いの言葉だった。
「ああ、俺は大丈夫だ。ちゃんと問題なく停止させたよ」
『そう、ですか。なら、良かったです。私たちが到着するまで気を付けてください。7人もやられて、一番狙われるのは四十万さんなんですから』
「そうだな…」
『では一旦切りますね。上には私から連絡しておきますので』
通話が終了し、四十万はスマホをポケットにしまう。
そして自販機の方に歩き出すと、先ほど黛がぶちまけた中で容器が損傷しておらず、かつ血で汚れていない飲み物を拾い上げた。
缶コーヒーBOTHのブラック。
近くにあった自販機は、たまたま彼の好きな銘柄のコーヒーが入ったものだった。
トイレ横の階段に行き腰を掛けると、プルタブを開けコーヒーを一口すすった。
「ふぅ…」
一息つくと、周囲に倒れている特対職員の亡骸を見つめる。
別に知り合いでもなんでもないが、同じ部の仲間を失い四十万は思う所があった。
多分一般客に紛れて襲撃に来た黛に気付くことができず、呑気にタバコを吸っていた自分を少し反省する。
建物の外には、規制線を張り一般人が入らないように見張っている4課の職員が数名いる。
ということは4課の応援が来る前からどこかに潜んでいたのか?一体いつから。どこに?等と、今となっては仕方のない事を考えていた。
「チッ」
考えを打ち切ると、まだ半分ほど飲み残しているコーヒーの缶を階段に置き、同じ姿勢のままピクリとも動かない黛の方へと歩いていく。
そして目の前に立つとーーー
「よぉ、聞こえてんだろ。よく聞け。お前はこの後収容施設に搬送されて、俺から尋問される。これは予想だが、俺が知りたい事を教えてくれないと…多分死んだ方がマシだと思う目にあう。そこは精々粘ってくれよ」
ここまで例の邪悪なニヤケ面を晒していた四十万だが、急に真面目な顔になる。
「さっき仲間がやられてムカツクとか言っていたが、こっちはお前らにもっと仲間を殺られてるんだ。あんまり警察をナメるな」
怒気を含んだ声で、動かない黛に告げる。
しかしまた怪しい笑みが顔に戻ると
「まあそんなワケで、体は動かせないが思考はできるようにしておくからよ。自分の身の振り方を考えておいてくれや」
そう言い、階段に戻っていく四十万。
黛は彼の能力で未だに指1つ動かせずその場に止まっている。
四十万の持つ「触れた物を止めたり動かしたりする」能力により、黛は停止を余儀なくされた。
そして、今回触れてもいないのに能力が行使できたのは、彼が警察の人間にも内緒にしているある機能を使ったからである。
それは彼を中心に半径20メートルほどの結界のようなもの(自分で"教習所"と名付けているフィールド)を広げると、その中の物は触っていなくても能力の効果を及ぼすことが出来るという機能だ。
彼はこの力を使い、触れることなく黛の思考回路を残したまま体の動きのみを停止させたのだった。
「よっこいしょーいち」
彼は再び階段に腰をかけると、新しい増援が中に入ってくるまでコーヒーを飲みながら過ごした。
【全ての財宝は手の中】
黛 麻友
体の動きを停止させられ、行動不能
残りメンバー 3人
________________________________
虎賀の襲撃から1時間弱。
俺は敵のアジトと思われる施設の近くに来ていた。
異世界では倉庫に縁があるようで、今までなら近づきもしないような怪しい建物に立て続けに2回も来ることになるとはな。
まあ能力バレ防止のために一般人が近づかないような場所に集まるというのは、能力者の自然な思考だ。
これからもそういう怪しい場所にはお世話になるんだろうな…
やだやだ…
「止まりなさい」
俺が心の中で愚痴を吐きながら歩みを進めていたところ、
どこからか現れたスーツ姿の男4人のうちの1人に止まるよう言われた。
何だコイツらと思っていたところ、彼らは自らの身分を俺に明かしてきた。
「我々は特対2課の職員だ。君は塚田卓也だな」
「え、ああ」
「鬼島さんから話は聞いている。君と清野藤林が来たら通すようにとも」
「そうなんですか?」
ああ、そうか…清野に情報を流したのは鬼島さんだったか。
凄いな、あの人は。どこまでこの状況を読んでいたんだ…
そもそも俺の存在を認識していたのが驚きだ。変な発信器でも埋め込まれてないだろうな。
俺は思わず自分の体を軽くまさぐってみると、その様子を目の前の職員が不思議そうに見ていた。
「オホン…君が戦っている間、我々は外で邪魔が入らないように見張るのと、防音・対衝撃の処置をしている。悪いが戦力にはならないと思ってくれ」
戦闘向けの能力ではないということね。
まあ適材適所、守る手間を考えると居ない方がありがたいかもな。
「分かりました。もしかしたら巻き込んでしまうかもしれないので、自分が入ったら中には誰も入らないようにしてください。もし一時間経っても戻らなかったら、死んだと思ってください」
「……分かった」
話が早くて助かる。
戦いやすい+能力を見られない舞台のお膳立ては渡りに船だ。
とてもありがたい。
そして俺は能力で自己強化を行い、戦闘モードへと移行する。
泉気と身体強化で、ガチンコ勝負になっても後れを取らない。
狙いはあくまで弱体化による無力化なのは変わらないが。
「じゃ、入りますんで。外は宜しくお願いします」
道具の確認までを済ませ、俺は職員に一声かけて倉庫に入ろうとした。
すると後ろから声をかけられた。
「死ぬなよ…!」
「…」
意外な一言に一瞬足を止めてしまったが、すぐに振り返るとサムアップをして応えた。
すると相手も笑いながらサムアップで返してきた。
俺は職員に背中を後押しされつつ、敵の根城へと進んだ。
______________________
倉庫へは、大型車両などが入るための大きな扉の横にある人用の出入り口から入る。
扉を開くとちょっとした通路が伸びており、薄暗かった。
能力によるトラップや能力者そのものが潜んでいないか確認する為サーチを使いながら進んでいくと、やがて開けた空間へと出た。
本来コンテナや重機などを格納するための空間なのだろうがほとんど荷物は無く、この場所が現在使われていない事が分かる。
そこはNeighborの拠点とは違う点だ。
あそこには多くのコンテナやフォークリフト等があった。
しかしここは見通しの良い広い空間。
なので、奥で立っている男の存在にも直ぐに気が付くことが出来た。
さらに立っている男の後ろにもう一人の男が椅子に縛り付けられているのも見える。
人質…だろうか?俺は特に見覚えはないが…
「入って来るのに随分と時間がかかったね」
ゆっくりと歩いて近づいていくと、途中で立っている男から話し掛けられた。
年齢は俺と同じくらいだろうか。
スラックスにワイシャツで、袖を肘までまくっている。
まるで仕事の時の俺みたいな恰好をしていた。
「待たせたかな?それよりソイツ、随分とボコられちゃって…可哀想に」
椅子に縛り付けられている男は、よく見ると殴られたような痕が顔についていた。
服も若干汚れている。
気になったのでサーチではなく能力を使い観察してみると、意外な名前が表示された。
「いやなに、彼は約束を破って逃げようとしたものだから、軽くおしおきをしたんだよ。別に君にとって人質に値するような人物でもないからそこは安心してくれ。もし僕がキミに敗れたら、その後は好きに始末してくれて構わないよ」
「なんだなんだ。ハガキでもくれなくて仲間割れか?新見くん」
「…へぇ」
縛られている男の名前は飯沼真人。
昨日聞きだしたハガキによる捜査を行う能力者の名前と一致している。
そして立っている方は【新見 遠流】と表示されていた。
こっちは聞き覚えが無いが、恐らく残りのメンバーの内の1人だろう。
3点あったアジトのどこかで2対1という状況になることを危惧していたが、ここに2人いて、しかも仲間割れしていたのは好都合だ。
飯沼の方に攻撃能力が無くても、開泉者がライフルで襲ってくるだけでも邪魔になる。
一先ずそのような状況にはならなさそうだ。
「よく調べているね、僕の名前まで。でもね、一つ間違いがあるよ」
「間違い…?」
「ああ。残念ながら僕は【全ての財宝は手の中】の仲間ではない」
な、なんだってー!?
いつも見てくださりありがとうございます。
能力に名前がある無しは、後程説明があります。




