17 出世欲がスゴイ男
「おーし、ちゃっちゃと運び出すぞー。コイツら能力は使えないらしいが油断するな。あと外に仲間が潜んでるかもしれないから、そこも注意しろよ!」
「「「はい!」」」
清野の紹介で来た男が、段取りよく四人を外に運び出していく。
男は【四十万 光臣】と名乗り、十人以上の部下を従えて先ほど部屋に訪ねてきた。
四十万の指揮のもと、部下たちは四人の拘束、運搬、部屋の清掃、修理と手際よく事を済ませていった。
俺はその間に、白縫に簡単に能力者のことについて説明をする。
他言無用という点に特に注意をして、この世界の裏側の事情を教えた。
聞いた時の白縫の反応は
「信じられないけど、そうとしか説明できないわよね…」
と、常識よりも見たものを真実として受け入れてくれたので説明に手間取らずとても助かった。
そして、この後の予定を四人で話していると原状復帰を終えた四十万が俺のもとにやってきた。
中年髭面に俺よりもデカイ(おそらく190cmはある)図体で怪しい笑みを浮かべながら、代表して俺に話しかけてきた。
「よォ、どうやって四人も捕まえたんだ?」
初対面の俺に対して、まるで近所のオッサンが子供に話しかけるように、気安く接してくる。
「色々と事後処理をしてくれたことには感謝しているが、清野から言われなかったか?」
「ん?」
「何も聞くな、何も話すな、アンタがしていいのは手柄を持ち帰ることだけだ、って」
清野から言われたことをそのまま話す。
もう既に破っているが、俺が清野に頼んだ事項である「不干渉」を再度四十万に言って聞かせた。
「…ふっ、そういやそうだったな」
年下の俺に生意気なことを言われた男だが、特段気にする様子もなくあっさりと引き下がった。
機嫌はむしろ良さそうだ。
清野の言う通りこの男、出世欲が強いのだろう。突如舞い込んだ手柄にテンション上がっている様子だ。
「でもまあ、一応情報共有しておく」
素性を探らないのであればこちらも無下にしたりはしない。
俺は先ほど得たメンバー何人かの名前と能力を四十万に教えた。
先ほどの四人の名前と能力、リーダーの名前、占い能力…などなど。
「いいねぇいいねぇ。やっぱり居たか、転移能力者」
四十万は大層喜んでいた。
何人もの人間が探しても得られなかった情報というお宝を手にしたのだから、喜びもひとしおだろう。
手柄がほしい四十万と、手柄はいらないが組織の全滅を望む俺たちの利害は完全に一致している。
このまま間接的に協力して早期解決に至れば良いのだが。
そうこうしているうちに撤収準備が整った四十万率いる警察官たちが、四十万を先頭に整列し俺たちの前に立っている。
「本当にいいのか?」
「ん?」
「いや、お前らを警察で保護するって話だ」
「ああ、別にいいよ。明日には清野と合流するし。適当なところまで車で送ってくれればそれでいい。少なくともここからは離れたいからな」
「また狙われるかも知れないんだろ」
「全滅させるチャンスだろ?今なら俺もターゲットだ」
「ふっ…」
後ろで白縫が「酷いボディーガードよね」と愚痴っているが、その表情は笑っている。
先ほど誓いと説得を済ませたので、今さら強く拒否することはないようだ。
俺の言葉を聞いた四十万もまた、ニヤリとした顔で笑った。
自分をエサに凶悪犯どもをおびき寄せるというイカれ…イカした方針に思わず笑みでもこぼれたのだろう。
「ほれ」
四十万が突然俺に名刺を渡してきた。
「なんかあったら頼っていい」
「…何故に?」
「お前からは出世の匂いがする」
「はぁ?」
突如訳の分からぬことを言い出す四十万についていけなかった。
四十万曰く、俺に関わっていれば手柄が舞い込んでくる予感がするそうだ。よーわからん。
後ろでは何人かの部下が少し驚いた顔をしていた。
いのりに確認したところ、四十万が"頼れ"などと言うことが珍しかったらしい。
「清野には何もするなと言われているが、これくらいはいいだろ。それを捨てるも利用するもお前次第だ。俺はその行く末を見守ってやる」
またしても胡散臭い笑みを携えて、四十万は俺に話す。
その瞳はギラギラと鈍い光を内包していた。
これは崇高な 野心か、それとも醜い欲望からか。今はまだ分からない。
『班長、"イグノスカス"への搬送準備が完了しました』
会話の途中、四十万の無線から声が聞こえた。
「よし、今行く。お前らも行くぞ」
「イグノ…何だ?」
「イグノスカス。能力者専用の牢屋みたいなもんだ。品河の地下にある」
「へぇ」
知らなかった。
そんなものが品河区にあったなんてな。
能力者専用ってことは相当厳重な施設であることは想像に易しい。
封じてあるとは言え先ほどの四人は能力者。
そして四人を取り戻しに来るとしたらそれは確実に能力者だから、当たり前の待遇とも言える。
イグノスカス…ラテン語で"許し"とは、何ともストレートな施設の名前だ。
「適当なところまで車で送る。急げ」
「ああ」
四十万に促され、俺たちは白縫の親父さんが予約してくれていた部屋を後にした。
ホテルの従業員には、ここでちょっとした事件がありそれに巻き込まれた被害者として事情聴取をする、という説明をし俺たちを連れ出す。
見事な段取りだった。
外には護送車が停められており、中にいる渡会しのぶの顔が見えた。
俺は四十万たちが来る直前にしのぶが言ったことを思い出していた。
『普通の人間よりも優れた人間なのよ』
あのあと俺は聞くに耐えない選民思考を三人から聞かされた。
一般人よりも優れている自分達が蹂躙するのは当然。
優れた人間がその能力を隠すのはおかしい。
能力者はもっともっと優遇されるべきだ。
口から出るのは自分達の権利の主張と、不遇に対する不満。
そしてコガという人間がいかに素晴らしいかをさんざ聞かされた。
どうやらコガという人間は相当人を操るのが上手いようだ。
流石は凶悪犯罪集団のアタマ張ってるだけはある。
俺は内心コガに感心しながらも、洗脳されたやつらが少し不憫だと感じていた。
だからと言って人を傷つけていい理由にはならないので、これから牢屋でゆっくり罪を償い、そしてもし更生できたなら、これからは能力を人のために使っていけばいい。
そんなことを思いながら、別の警察車両に俺たち四人は乗り込んだ。
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卓也たちのいたホテルの周辺には、野次馬が多く集まっていた。
それもそのはず。中々お目にかかれない立派な護送車が複数台、ロビーを出た所に停まっていたのだ。
集まっている人々は皆スマホを構え、一連の様子を動画やら写真やらに収めている。
これも近年はお馴染の光景だと言える。
事故現場・災害現場・事件現場。あらゆるところでその貴重な瞬間を撮ろうと人々は反射的に自身のスマホを取り出す。
スマホの普及率の高い国では何処もそうしている。
だから、その中にスマホで通話をしている人間が居ても誰も驚かないし、気にも留めない。
「虎賀さん…四人がやられた」
『なんだと…?』
「今、特対の護送車に乗せられていってる」
『…』
野次馬に紛れて、【全ての財宝は手の中】のメンバー【静間 裕太】はリーダーの虎賀に報告していた。
ターゲットの宿泊しているホテルからメンバーが特対の護送車に乗せられていくところを。
無論彼は野次馬のところに来たらたまたま発見したワケではない。
中々集合場所に来ない事を不審に思い四人が拠点にしている部屋を訪ねたところ、テレビ電話が起動しっぱなしのスマホを発見した。
それを見て静間は四人がターゲットの部屋から戻れていない事を察し思わず窓からホテルの方を見た時に、下の人だかりに気付いたのだ。
拠点部屋からはターゲットの部屋を直接確認することは出来ないため、少しでも情報を得ようと
人だかりに向かったところ驚きの光景を目にしたのだった。
「やるか…?俺の能力なら…」
『やめとけ』
「どうして?」
『確かにお前の能力は広範囲高威力だが、それだけの衆人環視の中、それだけの特対相手に身バレせず四人を救出は不可能だ』
「けどよ…」
『本来そういうシチュエーションの為に明衣や雄吾がいるんだがな。その二人が揃って捕まっちまったんじゃ仕方ない。今度助けに行く』
「くっ…」
『それよりも今は作戦に集中しろ』
「四人をやったヤツら…タダじゃおかねぇ…!」
静間はスマホを持つ手に思わず力が入る。
本気を出せばスマホを砕くくらいワケないが、今ここで目立つ行動を取れば目も当てられないので、そこは堪えていた。
「いた…ターゲット、まだ生きてやがる…!」
『そうか。ということは、相打ちでもなく普通に失敗だな』
「クソ…」
悔しさに思わず歯ぎしりをする。
ターゲットである白縫が生きているという事は、護送される四人は完全に失敗したという事に他ならないからだ。
『裕太、ターゲットの近くに父親はいるか?』
「…いや、それっぽいヤツはいないな」
『そうか…ならお前はこれからターゲットを見失わないよう追跡してくれ。今からでは"ハガキ"は間に合わない』
ハガキとはヘビーリスナーにより生成されたハガキを指す。
返答に24時間かかるため今は追跡に使えないということだ。
「ていうか、このまま警察と横濱から出ていくんじゃ…」
『いや、父親が居ないのならそれは低い』
「…?」
理由は分からないが、虎賀は妙に確信じみた物言いだった。
しかし今回のミッションでこの部分は一貫して喋りたがらないので、静間も特に掘り下げる事はしなかった。
「まあいいや。じゃあ追っかけて次の宿泊先かなんかで襲撃する」
『ああ。だがくれぐれも単独では挑むなよ。相手はどういうワケか別の部屋にいた雄吾まで誘い出し倒している。しのぶと明衣の2人の攻撃を凌いだだけでも十分異常だ。とにかく得体が知れないから慎重に行け』
「ああ」
『場所が分かったら俺に教えてくれ。歩夢を向かわせる』
「あー…」
『必ずチームでやるんだ。いいな』
「…了解」
そういうと虎賀は電話を切った。
丁度ターゲットである白縫も移動を開始しようとしていたので、静間は素早くスマホをしまい、追跡の態勢に入る。
相手に心を読む能力者がいるため、距離を取り、雑踏に紛れながら慎重に追いかけなければならないので、一層気を引き締める。
「よし…!」
白縫に次の刺客が迫る。
いつも見てくださりありがとうございます。
評価点をつけてくださった方、ありがとうございます。
励みになります。
四十万のモデルというか、脳内イメージはチームバチスタの
時の阿部寛さんです。あの怪しい人を食ったような感じ、
最高です。あとドラゴン桜2もとてもよかった。
ここ最近では一番面白かったドラマです。




